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大好きな君に(オリジナル)(秘密の手紙続編)

俺は最期の手紙配達員をしている幽霊だ。
心残りがあって成仏できない人の手紙を相手に届ける仕事をしている。
今日の依頼人は20代後半の綺麗な人だった。
憂い顔に儚い笑みを浮かべ、手紙の内容をずいぶんと悩んでいたが、
「よし」
と、心を決めたら早かった。
スマホに音声をふきこむ場面に立ち会わなかったが、終わったと呼ばれて行くと、
「彼が私の家に着く前に渡してもらえますか?」
と託された。
専用スマホで位置情報を確認すると、届け先は動いていて、まさに依頼人の家に向かっているようであった。
「い、行ってきます!」
俺はすぐさま手紙を届けに飛んだ。

依頼人の家に到着する直前の曲がり角で、なんとか彼に追いついた。
急に目の前に現れた俺にびっくりしたようだったが、俺を無視して避けて通ろうとするので、
「ま、待ってください。お届け物です」
と、封筒を差し出した。
「はぁ?何だお前」
不審者を見る目で見られて、焦った。依頼が達成できないのは困る。
「これ!これ見てください!」
封筒をくるりと回して差出人を見せた。
彼は名前を目にして、ハッと息を飲んだ。
「何だこれ!お前、あいつの何なんだ!」
俺の返事を待たずに彼は俺の手から手紙を奪い取ると、手紙の封を破いた。
封筒が消え、少し掠れたハスキーな声が、彼に届く。
「大好きな君に、伝えたかったことと、伝えられなかったことがあるんだ」
「あゆむ…」
彼は涙を堪えるように、空を仰いで依頼人の名前を呟いた。
「伝えたかったのは、君を愛してるってこと。友達としての愛じゃないよ。君のためなら何でもしてあげたかったし、幸せにしたかった。もっと具体的に赤裸々に言っちゃうと、肉欲込みの愛だった」
「俺も…」
「伝えられなかったのは、私が女じゃないってこと」
「えっ?」
俺と彼の声が重なった。
ビシッと空間がひび割れたような気がした。
涙目で空を見上げていた男が、おそらく予想だにしていなかったであろう告白に固まっている。
俺もだ。
「私は普通に男なんだ。女顔だから良く女に間違われるし、女性の服や化粧は好きで良く真似ていたし、髭も永久脱毛してて。無理に女装してたわけじゃないんだけど。誤解させたよね。ずっと黙っててごめん」
男は涙を引っ込め、青ざめてフルフルと震えていた。
「君も私のことを好きでいてくれたのは知ってる。けれど、男だってわかったらどうなるかわからなかったから、ずっと言えなかった。家に来たらわかっちゃうことだから自分の口から言いたかったんだ。ごめんね。そして、ずっとありがとう。私はあなたと過ごした日々、幸せでした」
手紙が終わると同時に、依頼人の家から、黒い喪服を着た50代くらいの女性が出てきた。
手紙の音声は幽霊と宛名人にしか聞こえないので、彼女が出てきたのは偶然だ。
母親だろうか。泣き腫らした目をこちらに向けて、通行人なのか客人なのか逡巡している様子だった。
俺は役目を終えて透明化している。
男はポツンとひとり残されて、黒いスーツに黒ネクタイの格好でフラフラと歩き出し。
彼女の前を、無言で通り過ぎた。

「…これで良かったんですか」
俺は依頼人の元に戻り、尋ねた。
彼は寂しそうに笑って、
「母に、私は男が好きだって言えてなかったから。ショック受けると可哀想かなって思って。それは阻止できたから良かったかな。それに、彼に黙ってた罪悪感もあったし…仕方ないよ」
俺は胸がキュッとなった。
色々とままならない。
「ありがとうね」
彼はそんな悲しい結末ながらも、未練は断てたようで、薄く溶けて、消えた。
俺の胸に、苦しさを残して。

3/4/2026, 3:07:11 PM