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たまには(オリジナル)(秘密の手紙続編)

「かずくんさ、2日くらいこの家離れても平気?」
夜の食事の席で、聡が言った。
「旅行にでも行くのか?」
幽霊のかずやは宙を浮遊しながら問うた。
「うん。九州の温泉に行こうと思って。かずくんはお仕事があるでしょ。この家に縛られてるなら行けないかなって」
「ん?それは留守番って話じゃなくて、一緒に行けるかって聞いてる?」
「そう」
かずやは嬉しそうに飛び上がった。
「行く!行く!確かにこの仕事、誰かの家を拠点にしろとは言われたけど、俺、地縛霊じゃないし。仕事が入っても幽霊には距離とかあんまり関係ないから平気。俺、新幹線より速く飛べるんだぜ」
「そうなんだ。すごいね」
「いつ行く?」
「旅館これから取るからちょっと先になるけど」
「なんで九州?」
「僕がハマってた夏期のロボットアニメあったでしょ。あれの聖地巡礼。コラボカフェとかイベントあるらしいから、どうせなら近くの温泉に泊まりたいなって思って」
かずやは腹を抱えて笑った。
「予想を裏切らない聡!面白れぇ!好き!」
「はいはい、ありがと。かずやにも付き合ってもらうからね」
「了解了解。俺もあのアニメ好きだったから大いに賛成」
楽しみだなぁと目を細めるかずやを見て、聡はホッとした。
最近、最期の手紙配達員としての仕事で考える事があったらしく、元気がなかった。
「幽霊でも胸がモヤついたりギュッとなったりするんだな」とか「綺麗な恋でも、相手がいる事だから成就するとは限らない。当たり前だけど切ないな」とか「なんでアレで成仏できるのかわからない」とか、ボソボソと吐き出していた。
守秘義務があってもちろん詳しくは言えないが、口に出したくなるほど苦しいのだと思う。
たまには気晴らしに遠出をするのも悪くない。
かずやも気に入っていたあのアニメ関連であれば楽しんでくれるだろう。
そう思っての提案であった。
的中である。
(良かった)
聡はかずやの晴れた顔を見て、口元をほころばせた。

3/5/2026, 3:50:10 PM