雪原の先へ(オリジナル)
僕たちは春を知らなかった。
雪原の先に春がある。
大人からそう聞かされていた。
いつか春が見たいと、そう言っていた君。
生活拠点である洞窟が、獣に襲われた。
君を庇った勇敢な友は亡くなり、君も重症を負った。
僕は洞窟の奥で震えていたので助かった。
君の事を愛していたのに、助けに行けなかった己に絶望した。
君は朦朧とした意識の中、僕の無事を知って「春、みんなで見たかったね」と囁いた。
だから、僕は彼女の手を取って励ました。
「僕が春を連れてくるよ」と。
そして、大人の静止を振り切って、僕は洞窟を飛び出した。
猛吹雪に耐え、雪原を越え、山を越え。
干し肉もなくなり、来た道もわからなくなり、もはや戻る手段もなくなった。
彼女の死を受け入れたくなかった。
自分の弱さを自覚したくなかった。
友や彼女と一緒に死ねば良かった。
春は、大人たちがついた嘘だと思っている。
こんな世界に、そんな場所などあるはずない。
涙はとうに枯れ果てた。
朦朧とした意識の中、風が少しぬるくなって、頬を優しく撫でた気がした。
遠くを見渡せる峠に出た。
目の前には、崖のような急斜面。
そして、見渡す限りの白。
(やはり、春なんてなかった)
僕は力尽きて雪の上に倒れ込んだ。
雪が優しく身体を包み込む。
(約束を破ってごめん……)
男の上に、ハラハラと粉雪が降り注ぐ。
男は二度と動かなかった。
雲の隙間から時折りのぞく光が、
大地をぼんやりと照らしていた。
遠く、彼方の地平線に、
緑があった。
春はもうすぐやってくる。
12/8/2025, 1:36:10 PM