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消えない灯り(オリジナル)

向かいのマンションの3階角部屋。
自分の部屋から真正面に見えるそれ。
最初に気づいたのは終電で帰った日の事だった。
シャワーを浴びた後、翌日が休みのこともあって夜更かしをしていてふと窓の外を見ると、遠く、向かいのマンションの部屋の灯りがついているのが見えた。
その時は同じように夜更かしをする人間が住んでいるんだなと思っただけだったが、その後も不定期に夜中に窓を見ると、いつも灯りがついている。
もちろん厚いカーテン越しなので、中は見えない。
夜に家で仕事をする人なのだろうか。
何でいつも電気がついているんだろう。
酒を飲みながら、色々と夢想した。
気になって徹夜をした事もあるが、結局、朝までずっとついていた。
そのうち、ちょっと怖い可能性を思いついた。
中の人は灯りをつけたまま亡くなっていて、天涯孤独ゆえ誰も気づいていないとか、あるだろうか。
いやいや、さすがに隣人が気づくだろうし。
しかし、一度考え出すと悪い妄想が止まらなくなった。
居ても立っても居られなくなり、そのマンションに行ってみる事にする。
夜の10時、当該マンションに到着して、はてと思う。
どう確かめれば良いのやら。
古いマンションで、各家の呼び出しは家の前までいかないと鳴らせない仕組みのようだった。
とりあえず3階まで行き、角部屋まで来て、表札がかかって人が住んでいる事を確かめ、ええいままよと玄関チャイムを鳴らした。
少しして、がちゃりとドアが開き、どなたか知らないけれど、生きていた、と、ホッとする。
「………どなた?」
若い女性だった。
ドアチェーン越しに、こちらを訝しげに見ている。
自分が、夜中に訪問する非常識な危ないおじさんである事を一気に自覚して、一瞬で脳内が真っ白になった。
「あっ、あの、い、生きてればそれで良いんで」
「はぁ?」
「じゃ!し、失礼します!!」
あまりの恥ずかしさに飛んで帰りたくなり、文字通り飛んで帰った。

その後、近所のスーパーで彼女とばったり遭遇し、夜の闇が怖くて電気をつけっぱなしにしないと眠れないのだという事情が聞けて、消えない灯りの謎は解けたのであった。

12/6/2025, 3:10:34 PM