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白い吐息(オリジナル)

ある冬のこと。
僕は友人を誘ってハイキングに出かけた。
共通の友人から、彼が変わってしまったと聞いたからだ。
1年ほど前、本人と一緒に飲む機会があった。その時は仕事が激務でパワハラに巻き込まれたりして、ちょっと鬱っぽくなっているということだった。
部外者に何ができるわけもなく、何か困った事があったら言えよ、くらいの励まししかできなかったように思う。
少しの心配と後悔から気晴らしにハイキングに誘ってみたのだが。
1年ぶりに会う彼は、確かにかなり痩せていた。
顔色も真っ白で、悪い病気を疑ってしまうくらいであったが、思ったよりやつれた感じはなかった。
ポツポツと、近況を話しながら歩きだす。
あれから、やはり修羅場があったそうだ。
パワハラ上司は蒸発し、彼の負担は減り、現在は通常通りに戻っているという。
「良かったな」
心からそう言うと、彼は笑いもせず、
「ああ」
と言った。
まだ情緒が壊れているのかもしれない。
この辺りが彼が変わってしまったと周囲に思われてしまう所以なのかもしれない。
自然に癒されて少しは気晴らしになると良いのだが。
そう思っていたのだが、気が散っていたせいか、迷子になってしまった。
正直に迷った事を言い、来た道を引き返す。
日が傾き、薄暗くなってきていたので焦ったが、無事見覚えのある道まで戻れて、安堵のため息をついた。
「ごめんな、予定より少し遅くなりそうだ」
「終電までに帰れれば良いさ」
彼の寛容さがありがたかった。
山道を抜け、民家の並ぶ通りに出た頃には、すっかり日が落ちていた。
冬の夜は寒い。
一気に冷え込んで、吐く息が白くなった。
「寒くないか?」
「平気」
ダウンを着込んではいるが、汗が冷えたりすると寒くなるだろうと心配して声をかけると、そう返事が返ってきた。
違和感を抱く。
何か気になる。
何だろう。
駅までの道のりを、並んで歩く。
あれ、そういえば、
「聞いていいかわかんないんだけど、大きい病気とかはしてないよな」
「うん、病気は特にないかな」
「そ、そうか、それなら、よ、良かった」
動揺のあまり、どもってしまった。

彼の口から吐かれる息が、白く煙らなかった。

自分の息はこんなにも白いのに。
吐く息は体内と外気との差で白くなるはず。
湿度が足りないか、温度が足りないか。
しかし、体温のあがるハイキングをして、ふたりして程よく水分も取っていたのに。
どういう事だ?
あまり凝視もできず横目で伺うも、やはり全く呼気に色がない。
ゾッとした。

彼は何だ。

目が合った。

彼は、うっすらと笑った。

12/7/2025, 1:34:18 PM