『皆様は、透明な水と言う物をご存じですか? 水道水やコンビニなどで売っている飲料水などとは全くもって違う、完璧な水なのです!』
「……? とうめいなみずってなに?」
「なんだろうな……? もとから水道水も飲料水も色なんか付いていないのに」
「ねー」
「あと、完璧な水と言うのも意味がわからない。純粋な水なら、何を言いたいかわかるんだが」
「えっ! どんなのなの?」
「まず、透明な水は砂糖とか塩が溶けた飲料水でもそうだろう? それらは砂糖水や塩水と呼んで、普通の水とは言わない。そもそも水と言うのは、酸素と水素と言うものがくっついて出来るもののことだ。だから、その二つだけで出来ている液体なら純粋な水と呼べるだろう」
「へぇ~! ねぇねぇ、ほかにもおしえて!」
「ほかに?」
「そう! どうしてあめがふるのかとか、どうしてなつはあついのかとか、いーっぱい!」
「あぁ、別に構わない。が、そろそろ食事を済ませた方がいいんじゃないか」
「ほんとーだ! こんなにたってたの!? ね、あとでぜったいおしえてよ?」
「わかってる、俺は嘘つかないさ」
「……嘘は、つかないさ」
「ここはライブラリー。本や書籍、物語と名のつくものなら古今東西何もかも、その全てが納められている場所さ」
「さぁ、君は何を探しに来たんだい?」
「うん? ここにはどんな物語もあるのかって? もちろん! 童話、エッセイ、ノンフィクション、ファンタジーにSFだって、ありとあらゆるものを取り揃えているとも」
「ふむ、恋の物語が読みたいと。もちろんそれも、子供の初恋から思春期の甘酸っぱい恋、大人のドロドロした恋だってある。では、恋の書籍コーナーに案内しよう」
「ここら一帯が恋の書籍コーナーさ。本棚が赤いものだよ」
「どんな本も好きに読んでくれて構わないが、他のコーナーに移動したいときは声をかけてくれ。ここはとても広いからね、迷子になってしまうかもしれない」
「さぁ、近くに机と椅子もあるから、心行くまで楽しんでね」
「そろそろ……おや? あれだけ言ったのに、一人でどこかへ行ってしまったようだね」
「ここにはありとあらゆる本が揃っている。もちろん、魔導書と呼ばれるようなものも」
「だから、僕みたいな案内人と一緒でないと危険なのだけど……」
「まぁ、どこかへ行ってしまったのは仕方がない。それよりも、どこまで行ってしまったのかが問題だね」
「ここかな?」
「そっちかも」
「こんなところにいたりして?」
「うーん……。近くのコーナーは全部探したのだけど、どこにも見当たらないな?」
「ならきっと、呼ばれてしまったのだろうね」
「あぁ、やっぱり」
「本の旅は楽しかったかな? きっと、知りたかったこと、探していたもの、見たかった夢が見られたと思う。さて、君のタイトルは何て言うんだい?」
「『恋に恋する少女の偶像』か、想像でしかないけれど大変なこともあったのだろうね。ここでゆっくりと休むといいよ」
カチッ
「お前、こんな真夜中に何してるんだ」
「! んん、んんんんんんん。たべる?」
「食べない」
「じゃあたべちゃお」
「そんなに腹が減ったのか?」
「んーん、べつにすごくおなかがすいたわけじゃないんだけど、なんかたべないと? って」
「食べないと死ぬ訳でもないなら、これ以上食べるのは止めておけ」
「えー、だめ?」
「体に悪いだろう」
「はぁ~い」
カチッ
「今度は何してるんだ」
「てれびげーむ」
「なぜこんな時間に……」
「わるいこたいけんかい?」
「まぁ、この程度の事でお前が目を悪くするとは思わないが、夜は寝たらどうだ」
「……はぁ~い」
……カチッ
「今日は何を?」
「げっこうよく! だからでんきけして?」
「……まぁ月光浴なら仕方ないな」
カチッ
「それで、何で月光浴をしてるんだ」
「つきあかりが、"まな"をかいふくさせるのはしってるでしょ? でもまんげつのひじゃないとぜんぜんかいふくしないの。だからきのうまではその……れんしゅう? みたいな」
「お前……」
「でも、ここおつきさまとおいのかな……。あんまりかいふくしないや」
「確かに、月は遠いだろうな」
「まぁいっか、ここでねたらそれなりにかいふくはするとおもうし」
「せめて何か羽織ったらどうだ」
「えー、かげできちゃうのに」
「そのカーテンと同じぐらいだ。そこまでじゃない」
「……しょうがないなぁ」
そう言って笑ったお前は、あの日と同じ顔をしていた。
愛があれば何でも出来る、何て言う下らない精神論がある。嗚呼確かに、愛と言うものを免罪符に叫べばこの世界ではなんだって許されてしまうのだろう。
世界を滅ぼすほどの強大な力を持った魔王を庇っても、自分がいる限り悪さはさせない何て言って置けば許されるし、愛する人のためにと語れば幾らでも人を殺したっていい。
そんなはずがないだろう。愛のためにと起こしたことがすべて許されると言うのなら、その過程で踏みにじられた愛にだって行動する権利があるはずだ。
恋人を魔王に殺された魔法使いにも、邪神を愛したカルト教団の生け贄にされた無辜の民にも、ただ一人でいることを愛していただけの悪魔にだって、その愛を貫いて生きる権利があったはずだ。
被害者たちは仕方のない犠牲? 愛のための礎? そんなもの誰が認めてやるものか。
故に、我々は声をあげた。手を広げ、足を伸ばした。我々が踏みにじられたことは愛の前では些細なことだと言うのならば、我々の愛でお前達が踏みにじられることも仕方のないことなのだろう?
では存分に、我々の愛を思い知ってもらうとしよう。
『後悔のない人生なんてないんだ! だからこそ、俺たちは今を一生懸命生きるしかない。そうだろ?』
「ねぇ、こうかいってなに~?」
「後から悔いること。……そうだな、例えばの話だが。俺が右手と左手どちらかにお菓子を持っているとする。お前が当てられたらそのお菓子をやろう。どちらを選ぶ?」
「んー、みぎ!」
「では右手を開けよう。右手にはキャンディが一つ入っていた」
「やったぁ!」
「しかし、左手にはチョコレートが五つ入っていたとしよう。どう思った?」
「そっちにすればよかったぁ……」
「そういうのを後悔と言う」
「なるほど~! でも、どっちがいいのかわかったんでしょ? じかんをもどしてやりなおせばいいのに」
「それができるのはお前くらいだよ」
「え、そーなの!?」
「お前、俺が時間を戻したの見たことあるか? 俺じゃなくても、漫画とかアニメなんか以外でそんなやつ」
「んー? いないかも」
「だろう。……まぁ、いたら困るしな」
「?」
「いや、何でもない。ところでお前、そろそろ寝る時間じゃないのか」
「あ、ほんとーだ! じゃあ、おやすみなさい!」
「あぁ、お休み」
「俺は、いつになったらお前を元に戻してやれるんだろうな」