秋月

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4/19/2024, 10:53:41 AM

『皆様、誰もが一度は考えたことがあるのではないでしょうか? どのくじを買えば当たるのか、どうすれば上手く行くのか、未来が解ればいいのに。そんなあなたにこちら! フューチャーブック! こちら、ご購入頂いた方の知りたい未来が知りたいときに! 幾らでも閲覧できる、特別な本となっております! 通常は────』



「いまのみた?」
「ああ」
「みらいがわかるんだって!」
「そうらしいな。……? 珍しいな、欲しがらないの」
「えー、だってあんなのうそだよ! ただのほんが、そんなことできるわけないでしょ?」
「ああ、全くもってその通りだ」
「ほんとうにみらいがわかるようにするなら、さいていでもすいしょうはつかってないとだめだよね」
「あの形にしたかったんだろう」
「それならそれで、べつのほうほうがあるとおもうけどなぁ」
「そういってやるな、所詮インチキの素人なんだから」
「それもそーだね」

テレビから流れる適当な言葉達を聞き流しながら、端の焦げたトーストとカリカリのベーコンエッグを適当に口に運んでいた。

「あ、もうないじゃん。コーヒー、おかわりする?」
「いや、いい」
「はぁい」
「……そうだ、ねえねえ! もしさっきのがほんものだったら、なにしりたい?」
「なんだ、偽物だと思ってるんだろう?」
「そうだけど、ほんものだったらのはなし!」
「そうだな……。いや、特に何も」
「えー!? なんにもしりたくないの? 私がいつ戻るかも?」
「は、」
「つまんないの。わたしはしりたいことあるよ!」
「な、にが知りたいんだ?」
「んふふ、ひみつ!」
「なんだ、それ。ずるいやつだな」






「未来が見えたって、それが最良で最優で最高の未来である保証なんて無いのにな」

4/16/2024, 4:04:48 AM

雨が降っていた。
「……ばか。何で置いてくんだよ……」



事の始まりは、今からどれ程前の事だったか。たったの一年かもしれないし、十年は経っていたかもしれない。それぐらい、曖昧な始まり方だった。

最初の頃は立場の違いで敵対していて、出会う度に戦うような関係だった。それから暫くして、立場が大きく変わって敵対する必要がなくなって、……何を思ったのかそいつは俺の事をよく構った。
自分の始めた仕事の話の時だって勿論あったが、六、七割は食事や遊びの誘いだった。街中でたまたま会ったりすると、忙しいくせに寄ってきて、ほんの少しの間他愛もない話をした。
……自分でも、自分に愛想がないのは分かってたから、どうしてそんなに構うのかが不思議で、聞いてみたことがある。

「なぁ、どうしてこんなに構うんだ、俺の事」
「どうしてって……。そりゃ、あんたの事が好きだからだぞ、と」
「からかうな!」
「怒んなよ、悪かったって」

あんなにやけた顔で言われても説得力なんて無くて、からかわれただけだと思ってた。何となくモヤモヤしたけど、どうしてか何て分からなくて。
暫くの間忙しくて、顔を見ることも出来なかったのは、心の整理によかったのかもしれない。……それで、考えて、考えて、ちょっと相談なんかもして、あいつの事が好きなのかもしれないと思った。
そんなときだ。忙しさが落ち着いたらしく、久しぶりの誘いがあったのは。

そわそわして、ちょっとだけいつもと違う服を着てみたりして(気づいてもらえた)、食事を楽しんだ。
少しいい店だったから、仕事がよほど大変だったのかな何て思ったりしてたら電話が鳴った。あいつの電話だった。不機嫌そうな顔でちょっと出てくると席を外した後ろ姿を何となく見ていると、よっぽど嫌な話でもされたのか電話相手に怒ってるのが見えた。それで、戻ってきたそいつが真剣な顔をしてたから、どうしたのかと思ったら。

「悪い、急な仕事が入っちまった」
「そうなのか、じゃあ……」
「すぐ済むから、話聞いてくれないか」
「え、うん」
「……俺は、お前の事が好きだ。嘘とか、冗談じゃない。本気だ」
返事を、しようと思ったけど、「帰ったら聞くから、よく考えといてくれよ、と」なんて言われてしまっては、頷くしかなかった。

一週間もあれば終わる。そう、言ってたのに。

一週間経って、二週間経って、一ヶ月が経った。……あいつが、仕事先で、海に落ちて行方不明になったと聞かされた。探したけど、見つからないと。
どうしてだ、諦めるなよ、ふざけるな、言いたいことはたくさんあった。でも、教えてくれたそいつに、言ってもしょうがないことだった。

仕事で、街から街に、山を越えて海を越える度に、この何処かに居たりしないだろうかと辺りを伺った。何の成果もなかったが。



「まだ返事、言ってないのに」

7/1/2023, 12:04:49 PM

いつも窓越しに見えていたのは、空と木々だけ。時たま鳥が止まったりするくらいで、代わり映えのない毎日だった。

お医者様は、『この手術が終われば退院して、沢山のものを見に行けるようになりますよ』なんて言っていたけれど、そんなの絶対嘘だ。私がその台詞を何度聞いたと思っているのだろう。

足の手術が終われば、肺の手術が終われば、心臓の手術が終われば。何度目の手術になるだろう? もう私の体で、外気に触れたことのない場所は存在していないのではと思うほどに手術を受けた。それでもなお、ここがダメだ、これではダメだった、このままだとダメになってしまう。そんな言葉ばかり。

でも今回の言葉は本当だったらしい。あんなにも重くて、腕を動かすことでさえ一苦労だったのにこんなにも体が軽い! これならどこへだっていけるわ! なのに、どうして泣いているの?

5/26/2023, 11:10:47 PM

『♡願いが叶うおまじない♡

手順1:お願い事を書いた紙を用意する。
手順2:その紙を小さく折り畳んで一ヶ月以上肌身離さず持つ。
手順3:水の入った器とイケニエを用意する。
手順4:満月の日に月がよく見える一番高いところにイケニエと器を用意する。
手順5:器に自分の血を数滴混ぜてその中にお願い事を書いた紙を入れる。
手順6:目を閉じてから「お月様、お月様、わたしの願いを叶えてください」と唱える。
目を開けたときに空っぽの器だけが残ってたら成功だよ♡』



「さいきん、はやってるんだって」
「……やる気か?」
「やらないよ! ぜんぶあやしいもん」
「だよな」
「そもそも、なんでこんな……かみだのみ? みたいなことするのかな」
「さぁ? 藁にもすがりたい気持ちなんじゃないか」
「そんなじかんあったらほかのことやればいいのにね」
「全くだ。だが、こういうのにすがる人は何をやってもだめだったか、何もやりたくないかの二択だ」
「なにそれ、へんなの」
「まぁ、そういうやつもいるって思っておけばいい。そんなに気にすることでもないだろう」
「そーだね」





「こんな、式の構築すら出来てない低能が作ったお呪いで、願いが叶うわけもないだろうに」

5/25/2023, 11:32:40 PM

雨が、降る。
雨が降っている。
……未だ、降り続けている。




「おはよー!」
「おはよー」
「おはよう!」
「ねぇ、知ってる? 最近の怖い噂」
「えっ、どんなの?」
「知ってる知ってる! なんか、この辺りに殺人鬼が出るんでしょ?」
「そうそれ! 最近また、被害者が出たらしいよ。しかもこの学校の生徒なんだって!」
「えーっ! なにそれ、超怖いじゃん!」
「そんな噂あったんだ」
「てかさー、○○遅くない?」
「確かに。そろそろ来ないと遅刻だね」
「えっうそ、私ここにいるよ!」
「連絡もないし……」
「何で!? ねぇ!」
「寝坊とか?」
「あはは、ありそー」



「……ぁ、そっか。そうだった……。わたし、殺されちゃったんだ」

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