MWの二次創作

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9/20/2025, 12:56:26 AM

秋色



 美園はオシャレだ。
 季節に合わせた色や、トレンドの服、アクセサリーを組み合わせたコーディネートをする。特に男装時より女装時の方が似合うのは、美園が女性の体をしているからだろう。
「着たいものを着ているだけですよ」
 チェックのロングスカートを風にはためかせ、ツンとして美園は言う。薄い耳たぶの上で存在を主張する焼き芋のピアスが気になる。どこで買えるんだろう。濃い茶色のウィッグは毛先にかけてグラデーションになっており、肩の上で明るい毛色が遊んでいる。
「服なんて、着れたら良いと思っちゃうんで」
「若いうちにしか出来ない格好もあるのに、勿体ない」
 美園が数歩先を行く。いつものシークレットシューズではなくブーツだが、それでも頭の位置が低いように見える。
 ふわりと香った甘い香水の匂いで、美園はいつまで男装が出来るだろうかと思った。したい時にすればいいと思う。それでもきっと、第三者からおかしく見られる時期はやってくる。
「俺も女装するなら、今のうちでしょうか?」
「何言ってんですか」
 舌打ちはされなかった。けれど丸い瞳が細められ、怒気を含んだ冷ややかな視線を向けられて痛かった。

9/19/2025, 12:37:37 AM

もしも世界が終わるなら



【巨大隕石が地球に接近中です】
 ふとテレビから聞こえてきたナレーションに、無意識に体が強ばった。
「世界が終わるってことなんかな」
 ふと呟いた声に、兄の怜が反応した。
「そうだねー。対隕石用ミサイルでもあれば、助かるのかもだけども」
「そんなSFみたいな」
「昨日ちょうどそんな感じのやつを配信で見たんだよ」
 へえ、と呟く。天然でふわふわした雰囲気の兄とSFが上手く結びつかない。
 家を出てから変わったんだね、と思う。特に家族にゲイセクシュアルでことをカミングアウトしてからは、兄の雰囲気が変わった気もする。
 いつ世界は終わってしまうのだろうか。
「ねえ、純。最後になにしたい?」
「最後……か」
 もっと兄と色んな話をしたかった。
 兄の本音を聞いてみたかった。
 二十数年も怜の弟をやっていて、そんな恥ずかしいこと、舌を抜かれても言えないから。
「崇拝する芸人さんの家に行く……!」
 リズムネタで一世を風靡したコンビ芸人の片方、チャラ男キャラの芸人の名前を挙げた。
「ほんと好きだねー」
「昨日も愛音さんに『オレのあっちゃんになってください!』て誘ったのに、断られたんだよ……」
 兄は拳を前に突き出し、武勇伝、と呟いた。
「もう兄ちゃんでもいいや。オレのあっちゃんになってください!」
「木村怜のどこに『あ』の要素があるんだよ」
 くだらない事を話し合って、笑う。幸せな時間がこの先何年も続いて欲しいと希う。
【ーーこの隕石が地球に到達するのは、およそ二百年後と予想されておりーー】
「……は?」
 思わず声が出た。兄を見ると、同じように口をあんぐり開けている。
「……なーんだ! 人騒がせな!」
 テーブルを叩くと、台所から母親の怒声が飛んできた。
 まあ、何はともあれ、明日からも世界は続くらしい。
「ところで、その芸人さんの家知ってるの? 職権乱用?」
「一テレビ局クルーにそんな権限、ある訳ないじゃん!」
 マネージャーと仲が良いことは黙っておいた。



9/18/2025, 12:49:09 AM

靴紐



 安永海星の持ち物は、大概が古い。何年も前に買ってずっと使い続けているような物ばかりだ。
 iPhoneはホームボタンがついているし、手帳は二千二十年のもの、高校生の頃から同じ服を着ているし、シャーペンはクリップが折れている物ばかり。唯一褒められるところは、家電だけは寿命がきたら素直に買い換えているところだろう。
 海星が良いなら、それでいい。
 奥村紫堂はそう思い、ツギハギのカーテンを見つめた。不格好ではなく、器用にオシャレなカーテンになっている。部屋の主は今、焦げのついたフライパンと格闘しながら、料理を作ってくれている。
 ふと、玄関に視線が動いた。扉のない靴箱には、黒いスニーカーが一足と丸っこい消臭剤が置いてあるだけだ。これはまだ新しいが、毎日同じ靴だと飽きるだろうし、コーディネートも難しいだろう。
 海星にはきっと、ブーツも似合う。ズボンさえ替えれば、今持っているトップスで……。
 火があがったー! という海星の悲鳴を聞きながら、紫堂は妄想に耽っていた。



「海星。プレゼントです」
 翌週、海星の部屋を訪問した紫堂はリビングに通されるなり、紙袋を差し出した。
「……俺誕生日だっけ?」
「いいえ」
 きっぱり否定し、驚いたのか立ち尽くしている手を取り、紙袋ごと渡した。
「開けて見てください」
 海星が紙袋から箱を取り出す。有名シューズブランドのロゴが印刷されており、それを見た海星の顔が曇る。箱を開けると、重厚感のある黒いブーツが現れた。
「ダメだよ、紫堂。こんな高い物受け取れない」
「受け取らないと怒ります。俺がこれを履いた海星と、色んなところに行きたいだけなんです。きっと似合うから」
「でも、俺にはこんな価値な」
「いいから。履け」
 海星の言葉に被せて言うと、渋々といった様子で、でもその瞳を輝かせながら、新しいブーツに足を入れた。
「あ、重」
「初めのうちは固いかもしれませんね。履き慣らさないと」
「ねえ、紐どうしよう。最後まで通すべき?」
 途中までしか通されていない靴紐を摘んでいる。
「そうですね……あ、待ってください」
 海星が放り出したままの紙袋の底を漁る。紫堂の手には、紫色の靴紐が握られている。
「靴紐の色変えましょう。黒に黒い紐もカッコイイですが。ちなみに俺も靴買いまして」
 玄関に行き、自分の白いスニーカーを持ち、海星に見せる。
「俺のは青色の靴紐なんです」
 にやっと笑う。お互いの靴紐の色の意味に気付いた海星は、照れたように笑った。

9/17/2025, 1:56:39 AM

答えは、まだ




 逃げてばかりの人生だった。
 直哉みたいにやりたいように堂々と出来るわけでもないし、ゲイバレするのが怖くて、告白してきた女の人と付き合ったりもしていた。流されるがまま、色んなことをしたりしなかったり。
 直哉が自殺して、もっと直哉と話でもなんでもすれば良かったと後悔して。俺はもう、逃げないと決めた。

「辰希さん、ごめん……」
 頬を赤く染めた貴春の熱のこもった眼差しに、気付かないほど鈍感ではなかった。
「……ふざけんな。俺を、直哉の代わりにしなや!」
 すぐにそう口をついて出たら良かったのだが、逃げ隠れに特化した俺の体は、その言葉を飲み込ませ、続きを聞く前にその場から走り逃げることを選んだ。
 それがおよそ半年前、桜の花が満員の頃だった。

 時間が経てば経つほど怒りは収まり、貴春のことを考えると、その物腰の柔らかさに直哉の面影を見出し、懐かしく落ち着く心地にさえなっていた。
「……代わりにしちょるんは、俺もか」
 静かに雨が窓を叩く自室で、冷えたベッドにごろんと寝転がった。直哉が遺書を隠していたベッドだ。
 直哉のことを好きになったことはない。あいつはただの幼馴染みで、出席日数が足りなくて留年したおっちょこちょいで、不器用で、俺の隣にいながらいつも独りだった。守りたかった、という気持ちが恋なら、きっとこれも恋だろう。
 直哉に対する気持ちの答えは、幾度考えても分からない。本人がいない今、きっと一生分からない。
 じゃあ、貴春は? 貴春に対する俺の気持ちは?
「……気持ち悪い。幼馴染みの恋人の恋人とか、ごめんちや」
 結局はそこに落ち着く。
 けれど未だに向き合うことから逃げ、貴春に返事を出来ずにいた。

9/15/2025, 11:23:12 PM

センチメンタル・ジャーニー



 神奈川から高知に来て、最初にしたのはタバコを買うことだった。
 二年前にこの世を去った恋人が好んで吸っていた銘柄だ。黒いパッケージを手の中で弄び、彼の墓に向かう。
「や、直くん。お盆の時期に来れなくてごめんね」
 今回は彼の幼馴染みで、いつも高知を案内してくれる辰希さんには連絡していない。完全にひとりで来たのだ。
「綺麗にしてもらえてるんだね。良かったね」
 墓石にはコケひとつなく、そっと手を触れるとつるりとした冷たい触感がした。足元には生き生きとした仏花が添えられている。もしかしたら、今日の朝にでも誰かが来ていたのかもしれない。
「ねえ、直くん。君は怒るかもしれないね」
 時の流れとは残酷で、彼に会いたいと、もう前ほど強く思えなくなっていた。
 彼の匂いも、声も、顔も、お酒が入ると方言が出る癖も。懐かしい思い出として刻まれ、薄れつつある。
 タバコを一本取り出し、火をつける。
「最近、僕は電子タバコに変えたんだよ。紙が吸える喫煙所が減ってしまってね」
 電子タバコのそれよりも太く、はっきりと姿を表した紫煙が、墓石にまとわりつく。
 長く細い指がタバコを挟み、噎せる僕を見て彼が笑う。いつかの確かにあったあの夕暮れのベランダでの光景を、ふと思い出した。
「……会いたいねぇ」
 無意識に呟くと、紫煙がこちらに流れてきた。そっと抱き締めるように。

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