センチメンタル・ジャーニー
神奈川から高知に来て、最初にしたのはタバコを買うことだった。
二年前にこの世を去った恋人が好んで吸っていた銘柄だ。黒いパッケージを手の中で弄び、彼の墓に向かう。
「や、直くん。お盆の時期に来れなくてごめんね」
今回は彼の幼馴染みで、いつも高知を案内してくれる辰希さんには連絡していない。完全にひとりで来たのだ。
「綺麗にしてもらえてるんだね。良かったね」
墓石にはコケひとつなく、そっと手を触れるとつるりとした冷たい触感がした。足元には生き生きとした仏花が添えられている。もしかしたら、今日の朝にでも誰かが来ていたのかもしれない。
「ねえ、直くん。君は怒るかもしれないね」
時の流れとは残酷で、彼に会いたいと、もう前ほど強く思えなくなっていた。
彼の匂いも、声も、顔も、お酒が入ると方言が出る癖も。懐かしい思い出として刻まれ、薄れつつある。
タバコを一本取り出し、火をつける。
「最近、僕は電子タバコに変えたんだよ。紙が吸える喫煙所が減ってしまってね」
電子タバコのそれよりも太く、はっきりと姿を表した紫煙が、墓石にまとわりつく。
長く細い指がタバコを挟み、噎せる僕を見て彼が笑う。いつかの確かにあったあの夕暮れのベランダでの光景を、ふと思い出した。
「……会いたいねぇ」
無意識に呟くと、紫煙がこちらに流れてきた。そっと抱き締めるように。
9/15/2025, 11:23:12 PM