MWの二次創作

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靴紐



 安永海星の持ち物は、大概が古い。何年も前に買ってずっと使い続けているような物ばかりだ。
 iPhoneはホームボタンがついているし、手帳は二千二十年のもの、高校生の頃から同じ服を着ているし、シャーペンはクリップが折れている物ばかり。唯一褒められるところは、家電だけは寿命がきたら素直に買い換えているところだろう。
 海星が良いなら、それでいい。
 奥村紫堂はそう思い、ツギハギのカーテンを見つめた。不格好ではなく、器用にオシャレなカーテンになっている。部屋の主は今、焦げのついたフライパンと格闘しながら、料理を作ってくれている。
 ふと、玄関に視線が動いた。扉のない靴箱には、黒いスニーカーが一足と丸っこい消臭剤が置いてあるだけだ。これはまだ新しいが、毎日同じ靴だと飽きるだろうし、コーディネートも難しいだろう。
 海星にはきっと、ブーツも似合う。ズボンさえ替えれば、今持っているトップスで……。
 火があがったー! という海星の悲鳴を聞きながら、紫堂は妄想に耽っていた。



「海星。プレゼントです」
 翌週、海星の部屋を訪問した紫堂はリビングに通されるなり、紙袋を差し出した。
「……俺誕生日だっけ?」
「いいえ」
 きっぱり否定し、驚いたのか立ち尽くしている手を取り、紙袋ごと渡した。
「開けて見てください」
 海星が紙袋から箱を取り出す。有名シューズブランドのロゴが印刷されており、それを見た海星の顔が曇る。箱を開けると、重厚感のある黒いブーツが現れた。
「ダメだよ、紫堂。こんな高い物受け取れない」
「受け取らないと怒ります。俺がこれを履いた海星と、色んなところに行きたいだけなんです。きっと似合うから」
「でも、俺にはこんな価値な」
「いいから。履け」
 海星の言葉に被せて言うと、渋々といった様子で、でもその瞳を輝かせながら、新しいブーツに足を入れた。
「あ、重」
「初めのうちは固いかもしれませんね。履き慣らさないと」
「ねえ、紐どうしよう。最後まで通すべき?」
 途中までしか通されていない靴紐を摘んでいる。
「そうですね……あ、待ってください」
 海星が放り出したままの紙袋の底を漁る。紫堂の手には、紫色の靴紐が握られている。
「靴紐の色変えましょう。黒に黒い紐もカッコイイですが。ちなみに俺も靴買いまして」
 玄関に行き、自分の白いスニーカーを持ち、海星に見せる。
「俺のは青色の靴紐なんです」
 にやっと笑う。お互いの靴紐の色の意味に気付いた海星は、照れたように笑った。

9/18/2025, 12:49:09 AM