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8/12/2024, 12:49:50 PM

私、貴方の歌好きよ。君は興奮で汗ばむ額を先程までピアノを弾き鳴らしていた指で拭いながらそう言った。君は音楽に愛されたような人で、楽器を渡せば自由自在に弾き鳴らし歌を歌わせれば周りに感動の嵐をもたらす。それに比べ私は何をしても凡以下で唯一好きと言える歌でさえ、満足に歌えないのだ。そんな私を君はステージへと連れ出し、広い世界を見せた。君が弾く曲は時に情熱的で恋に焦がれる恋歌、時に陽気で鼓舞されるような応援歌、時に憂いの帯びた哀歌。それに合わせて歌う私の歌はそれらの曲を褒め称える賛美歌のような錯覚に陥る。君の奏でる音楽に君と私の全てを乗せ、誰もを魅了してく。君が好きだと言ってれたこの歌はきっとこのためだけにあるのだ。私は君だけにこの歌を捧げる。君の奏でる音楽には私の歌が必要なのだから。
                  #君の奏でる音楽

8/11/2024, 11:54:25 AM

濃い青色で晴れ渡る夏空に私は低く呻いた。記憶の中のあいつはそう、生気に満ち溢れていてよく笑っていた。海に行こうと私を誘う、賑やかな声が頭から離れてくれない。決まって麦わら帽子とサンダルを持って、私の周りをぴょこぴょこと跳ねるのだ。今日のような青空に麦わら帽子と白いシャツがよく映えていて柄にもなく似合っている、そう思った。あいつが海に攫われてしまって、でもあの夏の記憶は色鮮やかに思い出せるようで。手元に残った麦わら帽子も随分と色褪せてしまった。青空の日は頭の後ろが酷く痛む。記憶の中の私を呼ぶあの大きな声が頭に響く。あいつは今日もこの麦わら帽子を被り、あの笑顔とともに私の手を海へと優しく引いていく。
                   #麦わら帽子

8/10/2024, 10:46:15 AM

人生はまるで線路のようになっていて、私が電車なら色々な人が駅から乗ってくる。それは私を育ててくれた両親だったり、かけがえのない友人であったり。だが、乗ってくる人がいるということは降りていく人もいるのだ。それが少し悲しくもある。ふと考えることがある。このまま生きていって、その最後にこの電車には誰が乗っているのだろう。この線路の終点に、誰が乗っているかなど私には予想もつかないしわかりたくもない。きっとどこかの駅で乗ってきた人がずっと座っているなんてこともある。そんなことを考えながら私は人生の終点まで目指していくのだろう。
                      #終点

8/9/2024, 4:50:59 PM

何も思いつかない。1時間ほど画面と睨めっこをしていた私は溜息を付いた。毎日お題から話を書く。私には得意なものはこれと言ってないし、文章だって書くより読む方が好きだったりする。だから文章を毎日生み出すというのはあまり得意ではない。なら何故、毎日こうして文章を書いているかというと、ただの気まぐれだ。ただの気まぐれであるから、今日のように何も思いつかないことがある。疲れた目を伏せ、珈琲を喉に流し込む。辞めてしまおうか。いつでも辞めれるものなのだから。ついそう思ってしまう。でも、ここで辞めるのは何故か負けた気がして、何とも言えない複雑な感情になる。疲れた目を抑え、私はもう一度画面と向き合う。そしてまた、自分の中の何かを捻り出すように文を綴り始めた。
            #上手くいかなくたっていい

8/8/2024, 10:22:50 AM

日当たりの良い大きな窓が付いた明るい部屋と緑と甘い花の匂いがする広い温室。それが私に与えられた世界。私が欲しいとねだったものは大抵手に入れることができる。眩く宝石が付いた指輪、多くの召使い、涎が溢れるほど美味しい食事。誰もが私をもてはやす。まるでそれをすれば、私の機嫌がとれるとでも思っているようで。それが私をこの小さく狭い世界に閉じ込める免罪符にしているようで。私がどんなに願ってもここから出ることは叶はないというのに。今日も私は、上辺だけの愛情を一身に受けながら広い世界に焦がれている。
                   #蝶よ花よ

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