ざざなみ

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1/21/2026, 1:09:49 PM

『特別な夜』

私の家は由緒正しい家柄で、お父様が結構多方面から恨みをかいやすい立場の方なので、私には四六時中護衛がついている。
昼担当の方と夜担当の方で別れていて、それぞれの時間帯に特化した護衛に変わるのだ。
特に、私は夜の時間帯が楽しみだ。
何故かと言うと、夜の護衛担当である男性に好意を寄せているから。
彼の名前は宵(よい)さん。
身体能力はずば抜けて高く、我が家の護衛の人員不足を解消する為に造られたアンドロイドである。
そう、私は、アンドロイドに恋をしている。
宵さんは、夜担当なので、夜にならないと稼働させてもらえないのだ。
だから、会えるのは夜だけ。
だから、宵さんが稼働している時間は私にとって特別な夜なのだ。
それから夜になり━━━━━━━━━━━━。
「·····ねぇ、宵さん、聞いてもいい?」
『なんでございますか?お嬢様』
「宵さんは、この仕事嫌になったことないの?」
私が言うと、宵さんは首をかしげた。
『どうして、そのようなことを仰られるのですか?』
「だって、生まれた時から仕事が決まっているのって、なんだか宵さんの気持ちが尊重されていない様に思えたから·····」
『·····ふむ、お嬢様はそうお思いのようですが、私はそうは思いませんよ』
「·····どうして?」
『私の様なアンドロイドに仕事を与えてくれる人間様はあまりいらっしゃらないのが現状なのです、大半のアンドロイドは失敗作として廃棄されるだけにございます』
「そんな·····ひどい、私なら絶対にそんな事しないわ!」
『そうですね、お嬢様は心優しいお方なのできっとそのようなことはなさらないでしょう·····、ですから、私は旦那様とお嬢様に感謝しているのですよ』
「お父様はともかく、私はなにもしていないわ、仕事を増やしているだけよ·····」
『いいえ、お嬢様がいらっしゃるから私の仕事があるのではありませんか、なので、私はこの命尽きるまでお嬢様にお仕えするつもりにございます』
「そんな嬉しいこと言ってくれると思わなかったわ、今言った言葉絶対守ってよね」
私は涙ぐみながら約束だと言わんばかりに強く言った。
『はい、勿論でございます、お嬢様』
これからもこの特別な夜は続くだろう。
二人の約束とともに。

1/20/2026, 11:45:40 AM

『海の底』

私はいつか海底に行ってみたい。
理由は独自の生態系をもつ海の生き物が見たいから。
そんな単純な理由である。
私が海底に興味を持った理由は、私が幼い頃に兄がよく海の生物が載っている図鑑を読み聞かせしてくれたのが発端だった。
なぜ、絵本ではなく図鑑なのかと言うと、私の兄は音読が下手なのだ。
あまりにも下手すぎて私が泣いてしまったため、音読をしなくても私が楽しめる本はないかと模索したところ図鑑にたどり着いたらしい。
そんな私も絵本を読んでもらうより、図鑑で色々な生物を教えて貰っていた方が楽しいと子供ながらに感じた。
そんな経緯があり、私は他の人よりだいぶ海の生き物に詳しくなってしまった。
私があまりにも博識なので、兄が驚いて『将来は海のことに関する職に就くのもいいかもな』と冗談で言っていたけれど、私は本気でそっち方面の職に就くつもりだ。
そのことを話すと両親も快く賛同してくれていた。
なので、いつか海底に行くという夢を叶えられたらいいなと思っている。

1/19/2026, 12:24:11 PM

「君に会いたくて」

今日も忙しい一日だった。
残業したのに、残業代は出ないし、お客様からクレームはくるし、同僚や先輩から面倒な仕事を押し付けられるし、もう惨々だった。
そんな私の唯一の癒しは遠距離恋愛をしている彼氏·····由良(ゆら)だ。
由良とは、私がバイトをしている時に出会った。
私より少し年上だけれど、おっとりしている様に見えて意外に周りをよく見ているので細かいことに気づきやすく、気配り上手だ。
それに、年上なのか包容力があるので何かと落ち着くのだ。
彼は、仕事の都合で県外にいるため、お互いが忙しいこともあり、中々連絡を取り合うことが出来ない。
もちろん私も着いていきたかったのだが、その時には今の会社で働き始めていたため、せっかく苦労して入社したのに勿体ないと思って、しばらくの間だけだというので断ったのだ。
由良との連絡はお互いがゆっくりできる夜に短時間だけ言葉を交わす程度にしている。
いくら彼氏と言っても、長時間拘束したくないので二人で決めた時間だけ会話をする。
そんな短時間でも、私にとっては癒しのひと時だ。
今日も残業が終わると、颯爽と家に帰り、彼に通話する。
そうすると、すぐに繋がった。
「もしもし、ごめんね、残業で遅くなっちゃった·····」
自分が遅れたので謝らねばと思い、かけて早速謝る。
『ううん、全然いいよ、お仕事遅くまでお疲れ様』
彼は私が遅くなったことを気にも留めず、優しい言葉をかけてくれる。
そんな彼の対応に一瞬泣きそうになる自分がいる。
「やっぱり、由良くんの声を聴いていると疲れが吹っ飛ぶよ、いつもありがとね」
そう言いながら、夜風に当たりたくてベランダに出る。
『そう言ってくれて嬉しいなぁ、俺は自分の何処にそんな癒し要素があるのか分からないけど·····』
「·····もうこの会話自体が癒しだよ、由良くんの声を聴いていると·····会いたくなって、泣きそうになるの·····会えないのは分かっているんだけどね」
本当に泣きたくなるのを必死に堪え、慌てて元気な声を取り繕う。
『·····ねぇ、下を見てみてよ』
急に会話の途中で彼がそんなことを言い出した。
「急にどうしたの?」
私が疑問に思いながらも下を見ると·····そこには由良くんがいた。
突然過ぎて声が出ない。
『·····ただいま、君に会いたくて帰ってきちゃった』
彼は癒し笑顔ではにかむ。
「·····えっ、どうして·····しばらく帰って来れないって·····」
『うん、本当はそうだったんだけど、ここ数日、通話してて、俺の好きな人が何度か泣きそうになっていたから、無理を言って数日の間、休みをとって帰ってきたんだ』
彼の言葉から唐突に出た、“ 俺の好きな人”という言葉に追い討ちをかけられたように、私の涙腺は崩壊した。
私は思う、周囲の人から遠距離の恋愛はやめた方がいいって言われていたけれど、私はそうは思わない。
だって、彼と離れていた分、会えた瞬間の喜びは言い表せないほどに大きいものだから。

1/17/2026, 12:40:02 PM

『木枯らし』

「寒っ……」
思わず、そう呟いてしまうほどの冷たい北風が吹いた。
マフラーをしていても身震いしてしまった。
私はこんなに寒いのに彼は寒くないのだろうか?
「寒くないの?」
私が彼にそう問うと涼しげな顔をして「うん?全く寒くないよ?」
流石は幽霊と言ったところか…。
彼は一ヶ月ほど前から、私の背後に突然現れた所謂、背後霊というやつである。

今から一か月前。
「ふぅ、やっと家に帰れる」
その日はテストの補習があって本来、帰宅する時間よりも少し遅くなってしまってげんなりしていた。
(·····別に補習なんてやらなくても点数取れるのに·····)
この前のテストで私は歴代最低点をとってしまった。
その理由は風邪を拗らせて満足に勉強が出来なかったからである。
「はぁ、さっさと帰ろ」
憂鬱な気持ちを祓いながら帰路に着く。
(今日の夕飯はなんだろう·····)
呑気に食に思いを馳せていた時、不意に背後から声が聞こえた。
「·····ねぇ」
今にも消えそうなか細い声。
私は振り向いて声を上げそうになった。
だって、私の背後から声をかけていた人物は青白い顔で、身体が浮遊していたのだから。
私が驚きを隠せずに固まっていると、その人物は少し迷ってから口を動かした。
「えっと、驚かせるつもりはなかったんだけど·····、なんか、ごめんね」
とても申し訳なさそうに項垂れている彼を宥めて私は彼から話を聞いた。
彼の名前は風葉(かぜは)。
私の背後霊で、つい最近、成長を終えて目覚めたという。
風葉は背後霊の中でもいい霊で私を守ってくれる守護霊だという。
なので、彼がいる限りは大きな怪我や病気の心配は無いという。
「·····これからよろしく」
「·····えっと、その言葉は守ってもらう側の私の言葉だと思うけど、こちらこそ、よろしく」
そんな、物語のような出会いをしてから今に至る。
「·····っ、ねぇ、寒さは守ってくれないの?」
ガタガタ震えが止まらない体を擦りながら、風葉の方を見る。
「あのねぇ、僕はそんなに鉄壁の守護霊じゃないから、大体、何もかも守ってたら、君が超人みたいに思われるけど、そう思われたいの?」
風葉は呆れていた。
「だって、この風すごい寒いんだもん·····私、凍え死んじゃう·····」
そんなことを言っていると風葉はさらに呆れていた。
「こんな風で死ぬわけないじゃん、この風は木枯らしだからこの時期くらいにしか吹かないし、人間は意外と貧弱だね」
風葉はこの一ヶ月で随分と毒舌になった。
そんな風葉も寒くないといいながら、ちゃっかりマフラー巻いてるし。
ビュウウウウウ。
ひと際、強い風が吹き、私の体は一気に冷えてしまう。
「·····くしゅっ」
等々、くしゃみまで出始めた。
大体、こんな思いをしているのは風葉のせいだ。
風葉がこんなに寒いのに外に出ようと無理やり連れ出すから。
私は風葉をキッと睨みつける。
「まったく、世話が焼けるなぁ」
風葉は自分の巻いていたマフラーを私に巻き始めた。
「な、何してるの?そんなことしたら風葉が寒いでしょ?」
私は赤くなっていっているであろう自分の顔を誤魔化すように言った。
「さっきも言ったけど、俺、全然寒くないよ?それに俺は君を守るために存在しているんだから、こんな所で守れないと背後霊失格でしょ?」
そんなことを言いながら私の首にクルクルとマフラーを綺麗に巻いていく。
(そう言うところが憎めないんだよなぁ·····)
私は、火照った顔をマフラーで隠すように大人しく風葉にマフラーを巻いてもらうのだった。

1/16/2026, 2:06:28 PM

『美しい』

君の瞳はいつ見ても美しかった。
思わず、綺麗...と言葉を零してしまうほどに。
前に一回だけ「君の瞳はなんで、そんなにきれいな琥珀色なの?」と聞いたことがある。
すると、彼は、「僕の先祖が狼に近い存在だったからって家族からは聞いたけど……実際どうなんだろうね?」と言いながら笑っていた。
正直、羨ましいと思った。
なんでも魅了してしまうような綺麗な瞳を持っている君が。
私には人を魅了できるほどのものを何も持っていないのに。
ただただ、毎日を一生懸命に生きて、何もない自分に必死で何かを残そうと、もがいているだけ。
そんなに努力しても私の欲しいものは手に入らないのに、君は先祖という血縁の力で私の欲しいものを奪っていってしまうのだ。
でも、彼の瞳に魅了された私は、そんな事どうだっていいと思えるようになってしまった。
だって、そんなにも彼の瞳は“ 美しい”のだから。
憎めないほどに綺麗なその瞳をずっと見ていたいと思った。

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