ざざなみ

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7/15/2025, 12:10:44 PM

『二人だけの。』

私には仲のいい幼なじみがいた。
その幼なじみとはいつも二人だけの秘密をつくっていた。
つくっていたとは言っても、私がドジをした時に怒られたくなくて彼に「この事は秘密ね。二人だけの」と言っていた。
そう言うと彼はいつも笑って「分かった。誰にも言わないよ」と言ってくれた。
そのおかげで私のドジがバレることはなく、家族とは比較的穏便に暮らせていた。
でも、その幼なじみの彼が高校卒業とともに上京して疎遠になって今では会うこともなくなった。
少し寂しい気もするけれど。
もう彼とは二人だけの秘密が出来なくなってしまった。
その彼が今、目の前にいるのだ。
私は驚いて固まってしまった。
どうしてと考える前に彼が口を開いた。
「何故か急に君に会いたくなって家族に内緒で会いに来たんだ」
照れくさそうに言う彼に私は嬉しくなった。
だって、彼がその後に「この事は二人だけの秘密だからね」と言ったから。
久しぶりだった。二人だけの秘密をつくれたのは。
彼が“ 本当に”帰ってくるその日まで。
もう少し頑張ろうと思った。

7/15/2025, 6:47:50 AM

『夏』

ある夏の日。
その日はとても暑くてイラついていてついあんな事を言ってしまったのかもしれない。
「お母さんなんか大嫌い!!」
お母さんに向かって私はそんなことを吐いた。
その数時間後、お母さんは職場で倒れてそのまま。
原因は過労だったらしい。
お父さんがいない母子家庭で育ったから、お母さんへの負担が大きかったのかもしれない。
私と兄はその時はまだ学生で部活にも入っていて忙しく、お母さんを手伝っている暇なんてなかった。
そして、そんなお母さんに私はあんな暴言を吐いた。
今思えば、なんで喧嘩したのか分からないけれど。
兄はその事に何も言わなかった。ただ、「お母さんはちゃんと分かっているから」と言いながら私の頭を優しく撫でただけ。
私は少し後悔している。あの時、お母さんが倒れることを分かっていればあんな事を言ったりしなかったのに。
でも、私は今、目指しているものができた。
それは、医者になること。
お母さんが倒れて分かった。
私がしっかりとした知識を持っていれば、もう少しお母さんのことをしっかり見れていればお母さんは死んだりしなかったかもしれない。
今、猛勉強している。その夢を叶えるために。
だから、あの夏の日のことは不謹慎だと言われるかもしれないけれど後悔はしていない。
兄も応援してくれている。
私は今、お母さんに会えたら伝えたいことがある。
一つ目は私たちの面倒を見てくれてありがとう。
二つ目はあんな事を言ってしまってごめんなさい。
そして、三つ目は私に夢を与えてくれてありがとう。
取り柄のない私が唯一叶えたいと願うことの出来た夢が医者になることだから。
だから、私は今でも後悔することはあるけれど前を向いて生きていこうと思う。

6/14/2025, 1:41:14 PM

『もしも君が』

もしも君が僕に好意を向けてくれたらどんなに嬉しいだろう。
何があっても必ず守ると誓うし、君が悲しんで涙を流しているのなら、その涙を拭ってあげたい。
でも、それは君の隣にいるやつの特権だ。
僕にその権利は無い。
あの時、覚悟を決めて君に気持ちを伝えていたなら、君の瞳には僕が映っていて隣にはいつも僕がいたかもしれない。
君の好きなところを言えと言われたなら声が枯れるまで言い続けられる自信がある。
愛が重いと言われてもいい。
君に僕がどれだけ愛しているのかを伝えたいから。
その気持ちを形にしなければ、きっと伝わらないと思う。
僕は今でもあの日の後悔を拭うことができない。
後悔をするくらいなら言えば良かったのに。
きっと僕以外のやつはそう言うだろう。
言えるわけが無い。
もしも君が僕のことを好きでなかったら、この関係は壊れるだけだ。
君は優しいから僕を傷つけたと勘違いをして、この関係を終わらせようとするだろう。
幼なじみというこの関係を。
この関係は素晴らしいほど僕には都合が良かった。
だから、この関係に頼ってしまったのかもしれない。
もしも君が僕に好意を向けてくれたなら、今頃どんな関係になっていただろうか。

6/7/2025, 11:12:51 AM

『夢見る少女のように』

本に出てくる王子様。
幼い頃、女の子なら誰もが一度は憧れると思う。
私も、いつかはそんなパートナーができると信じていた。
そして、その人と結婚して、家庭を築いて、子育てをして、老いて幸せに死んでいくと思っていた。
だけど、現実はそう甘くなかった。パートナーを見つけようと頑張っても何故か最後には皆、私から離れていくのだ。
どうしてか理由を聞いても“ 自分で考えろ”と言われるだけで誰も教えてはくれなかった。
私は、ずっと考えてようやく分かった気がする。
私の理想は夢見る少女のようだった。
あまりにも夢を強く思い描いていたせいで、パートナーに理想を押し付けすぎたのかもしれない。
今までの私は浅はかすぎたのだ。
後悔してももう遅い。
私が、もう少し物語に出てくるヒロインのような清純な心を持っていたのなら、未来は変わっていたのだろうか。

6/2/2025, 6:27:50 AM

『雨上がり』

今日は朝から雨が降っていて憂鬱な一日になると思っていた。
髪はまとまらないし、車に水をかけられるし、とにかくいい事がなかった。
でも、放課後に空を見たら雨が止んでいた。
今まで降っていたのが嘘のように雨上がりの空はとても綺麗だった。
美しく輝くその青空を見ていると、心が晴れ晴れするようだった。
まるで、彼といる時のように。
一つ年下の彼は、性格はしっかりしているけれどたまに抜けているところがあって可愛いのだ。委員会の活動でたまたま一緒になった時に意気投合して時々話すようになった。
彼と話していると、心が落ち着く。
なんでかよく分からないけれど彼の声はとても透き通っていて、時々話し出す話題が面白いのだ。
今日も彼が急に
『今日の空、とっても綺麗ですね』
と言ったので私も空を見上げていた。
「空を見上げるの珍しいね、どうかした?」
『いえ······ただ、空って羨ましいなっておもいまして』
「羨ましい?」
『空ってその時の気まぐれで天気を変えられるじゃないですか』
「そうだね」
『でも、人間ってその時の気まぐれで態度とか機嫌とか変えられるわけじゃないので····』
「ふふ、なるほど」
『人間って大変だなぁと思いまして』
「そんなことに目をつけるの君くらいじゃない?」
『······おかしいと思いますか?』
「えっ、全然!むしろ面白いと思うよ」
『······本当ですか?』
「うん、君といると飽きなくて面白い」
『····そうですか······』
そう言うと彼はそっぽを向いてしまった。
それでも、私は彼がそっぽを向く瞬間、口角が上がっていることに気づいたので素直じゃないなぁと思った。
物好きだと言われてもいいから、これからも彼の面白い話を聞いてみたいと思う。

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