『揺れる木陰』
私はよくここの木陰で本を読むのが好きだった。
生まれつき体が弱かった私が唯一できることだっから。
ここの木陰は涼しくて居心地が良かった。
しかも、よく来客が来るのだ。
その子は木陰が風に揺れるといつの間にか現れる不思議な子だった。
私はなんとなくその子は森に住む神様なのだと思っていた。
亡くなった祖母からよく森の神様について話を聞いていたからそう思った。
その子が来るようになってから私はよくたくさんの話をした。
その子は神様だからか、物知りで面白い話をたくさん聞かせてくれた。
私が笑って嬉しそうに聞いていると、その子も嬉しそうに笑顔になるのでなんだか私までつられて笑顔になったのを覚えている。
それから、数年経ったある日、私の体の調子が悪くなった。
もともと生まれつき弱かったのもあるが、激しい運動とかをしなければ普通に生活できると言われていた。
でも、今になって心臓機能が低下していると言われた。
「もってあと、一年です····」
そう告げられてしまった。
私は悲しくなっていつもの木陰でぼーっとしていた。
いつもなら楽しく本が読めるのに、今日は何故か読む気が起きなかった。
木陰が揺れた音がして、人の気配がした。
あぁ、あの子が来たんだと思った。
万が一の事態が起きた時、この子にお願いしていた事がある。
「もし、私がもうあまり長く生きられないと言われたら森に連れて行って欲しい····そして、神隠しのように皆の記憶から私を消して欲しいの」
それがこの子にしたお願いだった。
その子は少し考えてから静かに頷いてくれた。
自分の最後くらいこの子と一緒にいたかった。
家族には申し訳ないけれど、私はこの子に……神様に友人以上の気持ちがあったのかもしれない。
私がもうあまり長くないと伝えられた時、死ぬのが怖いと言うよりも真っ先に神様と離れたくないと思った。
だから、どうか私が最後の時まで笑っていられるように。
少しでも長くこの心優しい神様と一緒にいさせてください。
7/18/2025, 6:22:39 AM