『ぬるい炭酸と無口な君』
隣の席の瀬戸口くんは、無口でクールだ。
でも、それは周りから見た反応である。
私からすると、瀬戸口くんはとても優しいと思う。
前に授業中に消しゴムを落としてしまった時、親切に拾ってくれた。
別に拾わないでいることも出来たのに、それをしなかった。
だから、優しいと思った。
私は消しゴムを拾ってくれた時、お礼を言った。
「ありがとう」と。
相変わらず、何も喋ってくれなかったけど、視線を逸らしながら耳を赤く染めていたので、ただの照れ隠しなのだと分かった。
それから彼は、何かと私のことを助けてくれた。
先生に頼まれた生徒の提出物を職員室に運ぼうとした時、無言で半分持ってくれたし、クラスの掃除当番の人がサボっていたから、代わりに掃除していたら一緒に手伝ってくれた。
提出物は本当に重かったから助かった。
私は毎回、助けてくれた時にお礼を言ったけど、やっぱり返事は返ってこなかった。
これだけ手伝ってもらってなんか悪い気がしたからお礼をさせてくれと頼んだら、別に何もいらないと言われた。
なんか言ってくれなきゃ困ると言ったら、向こうから折れて、「じゃあ、炭酸水····」と短かったけれど、喋ってくれたのだ。
私は学校の自販機で炭酸水を買ったけれど、教室までの道のりに人がすごくて教室に戻ってくるのが遅くなってしまい、炭酸水がぬるくなってしまっていた。
ただでさえ、私達の学校は教室がある棟から自販機までの道のりが長くて大変なため、あまり自販機を利用する生徒がいないのだ。
私は「ごめんね」と謝ったけれど、瀬戸口くんは「冷たいよりぬるい方がいい」と言ってくれたので少しホッとした。
彼は意外にも炭酸を美味しそうに飲んでいたので、私が「また買ってくるね」と言うと、彼はぶっきらぼうに「····買ってこなくていい」と言いながら顔を逸らされてしまった。
でも、私は彼のその反応が照れ隠しであることを知っている。
そして、たびたび彼の机にぬるい炭酸水を置いておくと、そのお礼なのかなんなのか私の好物であるいちごオレを置いて行ってくれるようになったのだ。
いちごオレを気づかれないように置いて行くので、少し可愛いと思ってしまうのだ。
でも、私はある時見てしまったのだ。
いちごオレを置いて行く彼の表情が少しだけ緩んでいることに。
これからは、当分この不思議なやり取りが続くのだろうと思った。
8/3/2025, 11:56:51 AM