アキヤ

Open App
9/2/2024, 10:48:59 AM

No.6【心の灯火】

7/18/2024, 11:09:08 AM



「早苗、おはよう!」
「あ、おはよう凜々。今朝から元気だね」
「でしょ〜? 私元気が取り柄だから!」
 にこにこと笑う凜々は太陽のような笑顔を振りまいて、私の席へと駆け寄ってくる。
 真夏の朝はもうすでに空気を燃やし尽くしていて、エアコンの入っていない教室は、例えるならば地獄の暑さと言えるだろう。
「もうすぐ夏休みだよ……。でも休みに入っても1週間は課外あるから休みって感じしないな〜。早く遊びたい〜!」
 だらだらと愚痴を言っているうちに、ピッと音が鳴った。エアコンがついたのだ。
「あぁー神ぃ! ほんとに最近暑くて暑くて、やんなっちゃう!」
「そうだね。やっぱり夏だからしょうがないよ」
 あまり納得出来ていない顔をする凜々だが、あっと思い出したように机に手を置き、身を乗り出す。
「あ、そう、聞いて! 昨日の夜ご飯がアッツアツのうどんだったの! ありえなくない?! 真夏の蒸し暑い夜にあったかいきつねうどんとか!」
 憤慨する凜々はよほど不満があるのか、私の机をバシバシと叩く。しかし、騒がしい朝の教室はそんな音すらも飲み込んだ。
「えー、私は夏に熱いもの食べるの好きだよ? うどんもラーメンも鍋も」
「うそー、早苗って変人だ〜。私絶対ムリだもん……」
「そうかな? 意外とアリだけど」
 うげぇと引いた顔で見つめられると、本当に私がおかしいのか不安になってしまうから辞めて欲しい。
「まぁ、私の親も熱いものよく食べる変人だしなぁ」
「でしょ?」
 私はエアコンの効き始めた教室で、お気に入りのステンレスの水筒を取り出した。
 キュッと蓋を回すと、水筒から白い煙がたった。
「わ〜、すごい。どんだけ氷入れてんの?」
 凜々は物珍しそうに水筒を覗き込む。
「いや、これ熱い緑茶」
「へっ?!」
 とても大きな声だった。クラスメイトたちが思わずといったように振り向く。
「え……だから、熱い緑茶。夏に飲みたくならない?」
「アンタだけだよ!!」
 どうやら、私はやはり変人らしい。

No.5【私だけ】

7/17/2024, 10:56:55 AM

 いつの事だったか、もう鮮明には思い出せないけれど、私は昔、神様の街に迷い込んだことがある。
 ズラリと鳥居が並んだその先に、手の行き届いた綺麗な社とか、人から忘れ去られてしまったようなボロボロの社とか、小さな社に大きな社……とにかく沢山の建物が建っていた。
 幼い頃はそんな不思議な話を両親にしては、2人から「ありえない」と一蹴されたものだ。それからいくらか時間が経って、私もそんな事が絵空事だと認識できるようになった。
 けれども、幼い頃の奇妙な思い込みは、私の頭に根強く残っていた。
「絶対に迎えに行くね」
 そう言われた気がする。いや、夢のことだから実際には言われてないのだけれども。誰かが私にそう言ったのだ。
 学校からの帰り道、私は今日もとある神社の前を通る。去年運良く徒歩30分圏内の志望校に受かって、小学校から今の今まで、約10年間も通ってきた道。
「迎えに来たよ」
 耳を掠めた声に私は振り向いた。
 今、分かった。あれは夢では無かったらしい。

No.4【遠い日の記憶】

7/15/2024, 1:46:54 PM

 ――あと3分で世界が滅ぶ。
 そう言われたならば、私はどうするべきなのだろうか。

 私には、殺したいくらいに憎い人がいる。
 でも、その人はもう時期死ぬ――地球もろとも、永遠に。
「隕石が刻刻と迫ってきます! 残り3分で、地球が崩壊しますっ!」
 テレビから聞こえた、ニュースキャスターの迫真に満ちた声色。遠くから聞こえる、絶望の叫びと泣き声。パチパチパチと、炎が何かを燃やす音。
 どうやら、この地球という星は、もうすぐ滅んでしまうらしい。
 よくもこんな時まで律儀に仕事をこなすキャスターに、ある種の日本人らしさを感じてしまう。しかし、特殊なのはキャスター側だけなようで、周囲は騒然としてテレビのそこかしこで人間の醜さをこれでもかと映し出してした。
 阿鼻叫喚という言葉は、きっとこの瞬間を表すために出来た言葉なのだろうなと、どうでもいいことが頭を過ぎる。
 私はテレビを付けっぱなしにしたまま、ゴロリとベッドに倒れ込む。あつい布団が私を包んだ。
 最期くらい、人生を振り返って反省でもしてみようか。
 思い返せば、私はとてもくだらない人生を歩んでいたものだ。
 母親は私が産まれるときに亡くなり、父親は私が6歳の時に信号無視をして轢かれそうになった私を庇い植物状態。叔母さんの家に預けられたあとは、迷惑をかけっぱなしにはいられないと高卒で就職。もちろん、まともな職には付けなかったが、しばらくの間はそれなりに充実していたはずだった。
 私の身の回りに変化か起きたのは、叔母さん達が火事で亡くなってからだ。私がガスの元栓を閉め忘れて仕事へ行ったから、火事が起きた。
「家屋が燃え上がっています!」
 ニュースキャスターの声が頭を反芻する。
 叔母さん達はきっと熱かっただろうな。熱いなか消化までの何時間もを、ずっと焼かれ続けて、きっと苦しかっただろうな。
 今なら叔母さん達の気持ちが分かる。
 きちんと、調べて学んだから。
 火事が起きたら、まず一酸化炭素中毒になるんだ。手足が痺れて、次第に動かなくなって、立つことすらままならなくなる。苦しいのに、身体を思うように動かせなくて、何もできずに横たわるだけ。
 次に熱くなる空気が喉を焼くのだ。肌もピリピリと熱に焼かれて、乾燥していく。
 次第に火が自身に迫ってきて、遂に身体へと到達する。
 ――私は私が世界で1番憎い。殺してしまいたいほどに。
 私は燃え上がるベッドの上で、朦朧とした意識のなか、何度も謝った。
 ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
 許されなくていいから、許さなくていいから、私をこの世界から連れ出して。
 人殺しと罵られる日々は、私の周囲には不幸が降りかかると言われる日々は、どうしようもなく辛かった。
 腹がたった。言われるがままの自身に。大切な人を不幸に陥れた己に。
 だから、コレはせめてもの償い。
 きっと人殺しの私には、火事のなかで焼かれる最期がちょうど良い。
 もう、終わりにしよう。

 あつい、あつい、あつい――さむいよ。
 パチパチパチと燃える音を聞きながら、身を凍えさせた私は、静かに、ぴったりと瞼を閉じた。

No.3【終わりにしよう】

7/14/2024, 2:25:03 PM

 数百年前から、オルカ国は2つの勢力に別れていた。
 1つは第1王子――ルキウスを主力とする、国外へ力を広げようとする外交派。もう1つは宰相――エドワードを主力とする、国内整備に力を入れようとする内政派。どちらも互いに譲ろうとはせず、長い間対立を続けていた。
 そんな中、現国王が急死した。
 次期国王すらも決まっていないなかでの王の死は、当たり前のように国内を混乱に落とし込んだ。
 国内の混乱だけならばまだ良かった。
「ルキウス様っ! たった今、アルタとの国境にて襲撃に合ったとの連絡が……!!」
 それは以前から敵対関係にあったアルタ国との開戦を意味していた。アルタ国はオルカ国内の動揺に便乗したのだ。
「そうか、ならば――」
「ルキウス様。お待ちください」
 ギィという扉の音と訪れた人物が、ルキウスの言葉を遮った。
「……なんだ、エドワード」
 明らかな敵意を含んだ視線に、エドワードは怖気付く気配を見せない。
「早々に戦争へと向かうのは殿下の短所でございます。アルタは軍事力があるとはいえ、小国。資源はじき尽きます。無闇に攻めるのは如何なものかと」
 エドワードの言い様に、ルキウスは視線の温度を下げる。
「小国とはいえども、アルタは先ほど貴殿が言った通り世界でも有数の軍事力を誇る国だぞ。国土が広く、資源があるだけしか脳のない我が国とは違うのだ」
「ですから、その資源を上手く活用すれば良いだけの話です。アルタにとって、我々は良き交易相手。良い条件を出せば、戦争をせずとも解決するはずです」
「アルタの連中は交易で物を得るよりも、土地ごと奪ってしまった方が手っ取り早いと考えるような連中だぞ。そんな奴らに何を言おうと無駄であろう」
 言い合いに火を付けて、2人の話は熱を増す。
 家来達は国の最高権力達にそう易易と声をかけることもできず、じっと口論の行く末を見守ることしか出来ない。
 ――ギィ……。
 再び執務室の扉が空いた。
 なかに入ってきたのは12歳ほどの少女だった。
「オリヴィア?!」
 とつぜんの妹――第二王女――の訪問に、ルキウスは目を丸くする。
 オリヴィアは、庭園から摘んできたと思われる花を手に、執務室を大股で横切る。
「お兄さま、エド、いったい何を喧嘩しているの! あなた達はこの国をお父さまから任されたのでしょう? 国外も国内も、どっちも大切なのだから、いちいち言い争ったって答えが出てくるわけがないでしょう?!」
 オリヴィアの言葉にルキウスとエドワードはぱちくりと瞬きをした。そして、お互いの顔を見て、もう一度ぱちくりと瞬きをする。
「ほら、ぼーっとしてないで、そんな暇があるならお互いに納得する答えを見つけていただいても!?」
 唇を尖らせる第二王女の姿に、ルキウスとエドワードの肩から力が抜ける。
「そうだな、オリヴィアの言う通りだ」
「この国を守りたいという心は、お互い同じなようですしね」
 しっかりと目を合わせる2人の権力者に、家来達はほっと一息をついた。

No.2【手を取り合って】

Next