嗚呼、美しい。
彼女をひと目見た瞬間から、僕はその美麗な少女の虜になった。
高校1年生の春休み。終業式の翌々日。
部活の作品作りで必要な道具を持ち帰るため美術室に行った僕は、デッサン用の彫刻の隣に座っていた美少女に驚き、持っていた画材を床にばらまいてしまった。
透けるような白い肌。さらさらと風に靡く黒髪。ぱっちりとした二重まぶたと、吸い込まれそうなほど黒い瞳。
堕ちた――そう思ってしまったのだ。
彼女の頭上にある天使の輪。
ただ艶のある髪が日光を反射させてできるその光の輪が、僕に彼女が人間界へ堕ちてきた天使だと教えてくれた。
少女は動く気配がないものの呼吸をしているようで、ゆっくりと肩が上下して、たまに瞬きを繰り返した。
「君は誰……?」
思わずそう聞いてみたが、彼女はぱちくりと瞬きをするだけで口を開かない。
無意識に前へと進んでいた足が、散らばった絵の具を踏んだところで、僕ははっとする。
僕が画材をバックに詰め込んでいる間も、謎の少女は動かない。
何だか気味が悪くなり、後ずさった時、彼女が口を開いた。
「ねぇ、私を描いてくれない?」
No.11【嗚呼】
3/9/2025, 12:13:11 PM