時計の針がちょうど上を向いた今まさに24時。
みんなが寝静まる中こっそり家を抜け出して目的の場所まで歩いた。
冬の夜風は心地いいというにはあまりに肌寒い。
「…あーあ、ほんとにきちゃった。悪い子だねぇ、」
目的の場所に先生は既に来ていたみたいだ。
さして悪いとも思ってなさそうな声色でそういった。
ふたりで深夜のデート、なんてロマンチックじゃない?なんて誘いをしたのは私だったか先生だったか。
「先生と一緒に居られるなら悪い子でもいいんですっ、」
手を伸ばした先生の手をとった。
じんわりと冷えた指先から先生の熱を吸い取る。
「家の前まで、迎えに行ったのに」
拗ねたような口調でそういった。
ぎゅっと握られた手にまた力が入ったから手が冷えてたってことかな。
先生の一挙手一投足にどきどきしてはずかしい。
「…はやく、つれてってください」
「っ、もう…さ、乗って。夜はこれからだよ」
はじめてのキスはミッドナイト。
誰もしらないふたりのひみつ。
2024.1.26『ミッドナイト』
先生が先生じゃなくて、アイドルをやっている夢を見た。
その世界の先生はいつもよりいい意味でも悪い意味でもキラキラしていて、知らない誰かに笑いかけていた。
夢でよかった。私の大好きな恋焦がれる先生が不特定多数の目に晒されてかっこいい、を売るなんて許せない。
不安になって時間も構わず電話をかけた。
暫くコールが続いて、こんな時間に…と思った所でぷつん、と音がしてもしもし?といつもの先生の声がした。
「せ、せんせぇ…」
「え、どうしたの?…なんか悪い夢でもみた?」
「……先生がアイドルになっちゃったりしたらいやです。わたしの先生じゃなきゃ…」
「アイドル…?話がよく見えてこないんだけど…俺がアイドルなんて無理だよ。貴方がよく分かってるじゃないの、」
慰めるようにそういった先生。
無理なんて嘘、私がいちばんわかってる。
先生はかっこよくて可愛くてもしなにか違ってたらアイドルになってても不思議じゃない。
四六時中先生を追いかけ回してる私が言うんだから…。
「、もう…何を見たのか知らないけど、この世界での俺は貴方の先生だよ。まだ早いし、もう一眠りしな。眠れないなら話し相手ぐらいにはなるけど?」
先生はエスパーみたい。
私の考えてることが手に取るように分かるみたいだ。
「…うん、電話、繋いでてください…っ、」
「貴方が眠れるまでね。」
どんな夢をみてももう、怖くない。
別の世界でアイドルをしていたとしても、私の世界の先生は私の先生なんだから。
2024.1.23『こんな夢をみた』
「ねぇ、貴方はもしタイムマシーンがあるとしたらなにをする?」
急に真面目なことを問われたせいで白餡の饅頭にのびた手が行き場を失ったように揺蕩う。
タイムマシーンがあったら、なんて誰しも一度は考えるけれど、その実誰も真剣に考えたことなんてないだろう。
「じゃあ…3年後ぐらいの未来にいきたいです、」
「へぇ、なんでまた3年後?」
「それはなんとなくですけど…未来も先生とこうしてお喋りしてたいなぁって」
「……そう、…あんまり他の人にそういうこと言っちゃだめだよ」
そう言われて自分が口にしたことの重大さに気づいた。
そんなの未来もあなたといたい、って告白してるようなものじゃないか。
穴があるなら入りたい、なんて場面本当にあるんだ。
でも、嘘は言ってないし、先生とずっとこうしていたいのは事実であって……。
「…せんせいにしか、…いいません、……」
タイムマシーンがあるなら、あんなことを口にしてしまう前に戻りたい。
……でも、先生がちょっぴり嬉しそうな顔をしてるからやっぱりタイムマシーンはなくてもいいや。
2024.1.22『タイムマシーン』
「もしもし、先生どうかしましたか?」
「……ううん、なんとなく。ねえ、何してたの?」
本を読んでいるうちに言いようのない寂しさにかられた。
一人でいることには随分前に慣れたはずなのに不思議とあの子の声が聞きたくなった。
俺から電話をかけたのは初めてだった。
「今はテスト勉強をしてました!ほら今週テストじゃないですか、」
勉強してたのに電話かけちゃって邪魔しちゃったかな。って思う気持ちとこんな時間までしっかり勉強して偉いねって思う気持ちがせめぎ合う。
あぁ、目の前に彼女がいたらたくさん褒めてあげたい。
「そうだねぇ、今回も100点取れるといいね」
「はいっ、がんばりますね、」
「貴方が今回も100点とったら俺職員室で自慢しちゃおうかしら。貴方が連続で100点をとってくれたって、」
「ッ、せんせえっ…わたしがんばりますから!!」
そんなに食いついてくるとは思わなかった。
なかなか難しいと言われる俺のテストで今回も100点をとったら誇らしくて自慢しちゃうね〜なんてふざけた言葉だったけれどあなたが喜んでくれるなら…。
「じゃあ…勉強がんばって、邪魔しちゃってごめんね。」
「いえ、嬉しかったです。じゃあおやすみなさい先生、」
「…うん、おやすみ」
勉強たくさん頑張ってるみたいだし、明日お菓子でも差し入れしてあげようかな。
可愛い教え子が力を発揮できるように。
2024.1.21『特別な夜』
コポコポと音を立てて海に沈んでゆく。
一面真っ青な世界で地上に戻ろうとすればするほど身体が上手く動かなくなってダメだ。
あぁ、死んじゃうのかもなんて
遠のく意識の中まるで他人事みたいに考えていた。
ハッと目が覚めた。よかった。夢だった。
次に脳に入ってきたのは見知らぬ天井だということ。
色んなことが同時に情報として脳に入ってきて、混乱して横になっているはずなのに目眩がした。
「ぁ、せんせぃ…大丈夫ですか…?って、倒れちゃったのに大丈夫なわけないか…。心配、したんですからね…、」
「…貴方居たのね。、倒れた…あぁ、集会中かぁ。悪いことしちゃったなぁ、」
全部思い出した。
今日は校長の話がやけに長かったのだ。
暖房が効きすぎた体育館は暑くて、それに長話をずっと立って聞いてたものだから急に意識が遠くなって…。
あぁ、情けない。なんて思ったが立たせたまま長ったらしい話を展開する校長も悪くない?なんて心の中で思ってちょっぴりおかしくなった。
「…貴方は授業大丈夫?ずっと居てくれたの?」
ベッドサイドにしゃがむようにしている彼女はおれと目線を合わせようとなんとか頑張っていてその様子は愛らしい
「だって、先生呼んでも全然返事してくれなくて…っ、先に会えなくなっちゃったらどうしようって思って来ちゃいました…、」
瞳をうるうるさせて今にも泣き出してしまいそう。
あぁ、泣かないで。あなたの涙に俺は結構弱い。
普通ならサボるなんて、と怒らなくちゃいけない場面なのかもしれないが俺は結構ちょろい。
嘘でも嬉しくないなんて言えなかった。
「…そう、ありがと。ごめんね。」
それとそばに居てくれて嬉しい、今の俺には言えない言葉を手のひらに乗せた。
手を伸ばして目線ほどの彼女の頭に触れる。
何度か左右を行き来すれば、驚いたように目を見開く。
その顔はじめてみた。貴方のそんな顔が見れちゃうなら、こうして海の底に沈んでみるのもわるくない。
2024.1.20『海の底』