江戸宮

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12/17/2023, 11:21:37 AM

「お前、あの生徒のこと好きなの?」

ふざけたことを突然言い放った人物は仁王立ちでこちらを睨むようにしていた。
顔が怖いんだってば。美人の怒った顔って怖いんだよ?
もともと大学が同じで、男なのに目を引く美しい容姿をしていて、学生時代はその背中を犬みたいに追いかけた。
だが、同じ職場になってからは何となく気まずくて距離を図りかねている1個上の先輩。

「は、はぁ…?なに突然…」

普段俺に話しかけてこないくせに心配はしてくれるんだ。
相変わらず顔は怖いけどちょっと嬉しい。

「毎日準備室でなにしてんのさ。噂になるのも時間の問題だぞ」

「そんなこと言われたって…勉強見てあげたり、お喋りしたり?とりとめもない話しかしてないよ。教えて、って頼まれたら教師なんだから断れないでしょう」

勉強なんて1週間に2回ぐらいしかしていないけど。
これ以上この美人の鬼のような顔を見ていたらよからぬ事を言ってしまいそうで視線を手元に戻す。
動揺からかタイプミスが目立ってdeleteを3回ほど叩いた。

「とりとめもない話、ね…。まぁ、お前がそれでいいなら俺は応援するけどな。恋バナ聞かせてよ」

さっきまで怒っているような雰囲気を漂わせて居たのに今はどこで機嫌が治ったのかニコニコとしている。怖い。

「意味わかんないんだけど…。」

まあ、でも噂になるのはちょっと困る。
俺のせいであの子が嫌な思いをしたらそれは耐えられない。可哀想だ。
連絡先でも教えて準備室に来る回数を減らす?それとも俺があの子の所に行けば……。
そこまで考えて気づく。
それじゃあ俺があの子に会えなくなるのを寂しがっているみたいじゃないか。
……いや、寂しいのかも。

「別にさぁ?あと一年で犯罪じゃなくなる訳だし、好きなら付き合えばいいじゃん」

「は、犯罪とかそうじゃないとか、そういう問題じゃないのよ…はぁ、」

「好きなら好きって言えばいいのに。俺だったらそんなことでうじうじ悩んでる暇があったら自分のものにするけどね」

「…好き、ねぇ…」

貴方が注意してきたくせにそうやって恋に発展させようとするのほんっと悪い人。
でも、この人のこういう見た目とは裏腹の男らしい部分に憧れたんだと思い出した。
別に俺はあの子のことなんて、……たぶん好きじゃない。


2023.12.17『とりとめもない話』

12/16/2023, 12:15:16 PM

「ぁ……なんかグラグラする…」

それは頭が痛んだ事からはじまった。
元々偏頭痛持ちだし、雨も降ってるからまたいつものことだ、と呆れ半分で薬を飲んだ。
いつもならすぐ効く頭痛薬も全くもって効かない。
あ、これちゃんとヤバいやつだ、と認識したとたんグラリと視界が揺らいで黒に染った。



次に目が覚めたのは見知らぬ天井の下だった。
ほのかに消毒液の匂いがする。それに先生の匂い。

「…よかったぁ、やっと起きた…。気分はどう?」

「せ、せんせぇ……?」

「そうだよ、貴方が倒れたって聞いて心配で来ちゃった」

いつもより先生の目線が低い。
ベットサイドに手をかけてこちらを見つめる先生に見とれて暫くボーッとしているとおでこにデコピンを食らった。
一応病人ではあるのだから少しは優しくして欲しいものだ

「なんでもっと早く周りの人に言わなかったの、」

だって気づいたのが遅かったとか、薬を飲んだのに効かなかったとか言いたいことは沢山あったけど、先生が心配してくれた事実が嬉しくて言葉が出ない。
そんな私がまた熱に魘されてるとおもったのか、おでこに先生の手が触れた。
熱をもった額に体温の低い先生の冷たい手が触れれば、熱が引いていくようだ。

「あつ……風邪かなぁ、。悪化しないといいけど…」

「先生…、授業は、?」

この時間先生はうちのクラスで授業があったはずだ。
こんな時にまで先生の事を考えられる私偉いでしょ、とか

「…あ〜ほら!じゅ、授業変更でね?2組の授業無くなっちゃったからフリーだったの。たまたまね、」

じゃあまだ先生はいてくれるってことでいいのかな。
風邪の時って人肌が恋しくなるっていう言葉に甘えて先生を捕らえておきたい。

「なぁに、帰って欲しくないの?この後授業も無いし貴方が帰るまでここに居てあげるよ」

くふふ、とはにかんだ顔が眩しい。
先生の整いすぎた国宝級の顔を見てたらまたクラクラしてきた。
心做しか額の熱も上がった気がする。

「…せんせい、かえっちゃダメ、です…」

「はいはい、何処にもいかないよ」

額にあった手がするすると髪の毛を撫でた。
あぁ、幸せすぎて死んでしまいそう。
風邪をひくのもたまには悪くないなぁとか。

2組の現代文の授業は先生の都合によって自習になっていたが、自習の本当の理由は先生のみぞ知る。


2023.12.16『風邪』

12/16/2023, 9:26:04 AM

「先生!雪合戦しましょう!もしくは雪だるま!」

開口一番にそんなことを言った君は今日も元気に寒そうな脚を見せていた。
雪のように真っ白の脚が寒さで赤くなっているのが可哀想だと思った。
でも、貴方は寒さにひるむことなくむしろ寒い日の方が元気そうねなんて。
貴方がいるだけでこの場所も温まる気がする。

「えぇ…俺寒いの苦手だから嫌、」

「え〜そんなこと言わないでくださいよっ!きっと楽しいはずです、ね?」

「嫌なものは嫌、貴方の頼みでも無理よ、」

冬の凍てつくような寒さは20数年生きても慣れることはない。雪を触るなんてもってのほか。
何も考えずに雪玉を転がしていたあの頃ならこの誘いも嬉しいものだっただろう。

「もー先生の意地悪、冬が1番すきだから先生と思い出作ろうと思ったのに…わからず屋、…」

1番好きな季節に俺と思い出作りたいなんてやっぱり貴方は物好きだね。
でも、貴方となら…ちょっと楽しそうだなって考えてしまった。
作った雪だるまが溶けてしまうのを優しい貴方の事だから心底悲しがるんだろうなって想像まで安易に出来てしまう。

「…あーもう、分かったってば…、雪が降ったらね?」

「やったぁ!先生私にあまいですねっ、」

俺は大概貴方に甘いみたい。だって楽しそうなんだもの。
冬休みまであと一週間もない。
それまでに雪が降るといいなぁ、なんて寒がりの俺らしくないことをこっそりとお願いした。
寒がりなのに貴方との雪遊びを楽しみにする俺も相当物好きかも。


2023.12.15『雪を待つ』

12/14/2023, 1:40:42 PM

「先生!イルミネーション見に行きませんか?」

「イ、イルミネーション……?それはクリスマスツリーとかそういう話?」

冬休みもあと一週間と差し迫った頃、彼女がそんなことを口にした。
イルミネーションなんて言葉、学生時代もそして今も耳にすることはあっても何処か無縁で他人事だった。
そんな俺が誘われているという認識でいいのだろうか。
気持ちは嬉しいが、相手は生徒。行けるわけが無い。
それに愛想のいい彼女には俺なんかよりもっと素敵な相手がいるはずだ。

「貴方の気持ちは嬉しいけれど、俺と一緒に居るところなんて見つかったら貴方が嫌な思いするかも。それにそういうのは大事な人と見るものじゃないの?」

俺はそんな人出来たことないから分からないけど、なんてカッコつかない言葉は心の中で。
できるだけ彼女を傷つけずに断ったつもりだが、彼女の顔は曇るばかり。
そんな顔させたかった訳じゃないのに。
ただ貴方が俺のせいで嫌な思いをするのは教師として見過ごせないだけであって…。

「…先生の鈍感。……でも裏を返せば卒業すれば一緒に見に行ってくれるってことですよねっ?」

「へ、へっ?」

予想外の提案に上擦った声が出る。
ぷくっと膨らんだ頬があざとい。
無自覚あざといで現行犯逮捕してやりたいぐらいには。

「私が生徒だから見られたら噂になるみたいなことを言いたいんですよね、」

「ま、まぁそうだけど……」

「私と一緒にどこかに行くのは嫌じゃないんですね!?」

「は、はい……」

「ふふ、そっかぁ…。先生…へへ、」

さっきの表情からは想像もつかないほど口角をあげて、「先生の隣に見合う女性になりますね、」なんて零してたけど俺に拒否権はないのね。いいけどさ。
…生徒と教師でなくなったら本当に断る理由も無いのだけどなぁと一瞬でも思ってしまった12月、寒いしずかな水曜であった。


2023.12.14『イルミネーション』

12/13/2023, 2:01:28 PM

「ミニトマト?」

準備室でまるで自分の家のようにくつろいでいると先生が仕事用の鞄からちいさな袋を取り出した。
袋からはぼんやりと真っ赤が覗く。
中身は先生が育てたミニトマトだという。

「そう。俺トマト苦手なんだけど自分で作ったら食べられるようになるかなって、」

でもやっぱり苦手なものは苦手みたい、と少ししゅんとした様子で言った。
眉を下げてトマトをみつめる先生は今日も可愛い。
でも大好きな低音だけは健在で、可愛いとかっこいいのバランスに狂いそうだ。

「先生のトマト…なんだか緊張しますね…」

「ふふ、ただのトマトよ?」

袋に手を入れて一粒真っ赤なそれを手に取る。
まんまるの形に目を逸らしたくなるほど綺麗な赤。
先生の手間がかけられて育てられたトマトを食べていいなんて前世の私は相当な得をつんだのではないだろうか。

「いいえ…先生の愛が注がれて作られたものなんです…ミニトマトさえ尊いかも…、」

「貴方って時々分からない……」


2023.12.13『愛を注いで』

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