江戸宮

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「ぁ……なんかグラグラする…」

それは頭が痛んだ事からはじまった。
元々偏頭痛持ちだし、雨も降ってるからまたいつものことだ、と呆れ半分で薬を飲んだ。
いつもならすぐ効く頭痛薬も全くもって効かない。
あ、これちゃんとヤバいやつだ、と認識したとたんグラリと視界が揺らいで黒に染った。



次に目が覚めたのは見知らぬ天井の下だった。
ほのかに消毒液の匂いがする。それに先生の匂い。

「…よかったぁ、やっと起きた…。気分はどう?」

「せ、せんせぇ……?」

「そうだよ、貴方が倒れたって聞いて心配で来ちゃった」

いつもより先生の目線が低い。
ベットサイドに手をかけてこちらを見つめる先生に見とれて暫くボーッとしているとおでこにデコピンを食らった。
一応病人ではあるのだから少しは優しくして欲しいものだ

「なんでもっと早く周りの人に言わなかったの、」

だって気づいたのが遅かったとか、薬を飲んだのに効かなかったとか言いたいことは沢山あったけど、先生が心配してくれた事実が嬉しくて言葉が出ない。
そんな私がまた熱に魘されてるとおもったのか、おでこに先生の手が触れた。
熱をもった額に体温の低い先生の冷たい手が触れれば、熱が引いていくようだ。

「あつ……風邪かなぁ、。悪化しないといいけど…」

「先生…、授業は、?」

この時間先生はうちのクラスで授業があったはずだ。
こんな時にまで先生の事を考えられる私偉いでしょ、とか

「…あ〜ほら!じゅ、授業変更でね?2組の授業無くなっちゃったからフリーだったの。たまたまね、」

じゃあまだ先生はいてくれるってことでいいのかな。
風邪の時って人肌が恋しくなるっていう言葉に甘えて先生を捕らえておきたい。

「なぁに、帰って欲しくないの?この後授業も無いし貴方が帰るまでここに居てあげるよ」

くふふ、とはにかんだ顔が眩しい。
先生の整いすぎた国宝級の顔を見てたらまたクラクラしてきた。
心做しか額の熱も上がった気がする。

「…せんせい、かえっちゃダメ、です…」

「はいはい、何処にもいかないよ」

額にあった手がするすると髪の毛を撫でた。
あぁ、幸せすぎて死んでしまいそう。
風邪をひくのもたまには悪くないなぁとか。

2組の現代文の授業は先生の都合によって自習になっていたが、自習の本当の理由は先生のみぞ知る。


2023.12.16『風邪』

12/16/2023, 12:15:16 PM