江戸宮

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「お前、あの生徒のこと好きなの?」

ふざけたことを突然言い放った人物は仁王立ちでこちらを睨むようにしていた。
顔が怖いんだってば。美人の怒った顔って怖いんだよ?
もともと大学が同じで、男なのに目を引く美しい容姿をしていて、学生時代はその背中を犬みたいに追いかけた。
だが、同じ職場になってからは何となく気まずくて距離を図りかねている1個上の先輩。

「は、はぁ…?なに突然…」

普段俺に話しかけてこないくせに心配はしてくれるんだ。
相変わらず顔は怖いけどちょっと嬉しい。

「毎日準備室でなにしてんのさ。噂になるのも時間の問題だぞ」

「そんなこと言われたって…勉強見てあげたり、お喋りしたり?とりとめもない話しかしてないよ。教えて、って頼まれたら教師なんだから断れないでしょう」

勉強なんて1週間に2回ぐらいしかしていないけど。
これ以上この美人の鬼のような顔を見ていたらよからぬ事を言ってしまいそうで視線を手元に戻す。
動揺からかタイプミスが目立ってdeleteを3回ほど叩いた。

「とりとめもない話、ね…。まぁ、お前がそれでいいなら俺は応援するけどな。恋バナ聞かせてよ」

さっきまで怒っているような雰囲気を漂わせて居たのに今はどこで機嫌が治ったのかニコニコとしている。怖い。

「意味わかんないんだけど…。」

まあ、でも噂になるのはちょっと困る。
俺のせいであの子が嫌な思いをしたらそれは耐えられない。可哀想だ。
連絡先でも教えて準備室に来る回数を減らす?それとも俺があの子の所に行けば……。
そこまで考えて気づく。
それじゃあ俺があの子に会えなくなるのを寂しがっているみたいじゃないか。
……いや、寂しいのかも。

「別にさぁ?あと一年で犯罪じゃなくなる訳だし、好きなら付き合えばいいじゃん」

「は、犯罪とかそうじゃないとか、そういう問題じゃないのよ…はぁ、」

「好きなら好きって言えばいいのに。俺だったらそんなことでうじうじ悩んでる暇があったら自分のものにするけどね」

「…好き、ねぇ…」

貴方が注意してきたくせにそうやって恋に発展させようとするのほんっと悪い人。
でも、この人のこういう見た目とは裏腹の男らしい部分に憧れたんだと思い出した。
別に俺はあの子のことなんて、……たぶん好きじゃない。


2023.12.17『とりとめもない話』

12/17/2023, 11:21:37 AM