「ミニトマト?」
準備室でまるで自分の家のようにくつろいでいると先生が仕事用の鞄からちいさな袋を取り出した。
袋からはぼんやりと真っ赤が覗く。
中身は先生が育てたミニトマトだという。
「そう。俺トマト苦手なんだけど自分で作ったら食べられるようになるかなって、」
でもやっぱり苦手なものは苦手みたい、と少ししゅんとした様子で言った。
眉を下げてトマトをみつめる先生は今日も可愛い。
でも大好きな低音だけは健在で、可愛いとかっこいいのバランスに狂いそうだ。
「先生のトマト…なんだか緊張しますね…」
「ふふ、ただのトマトよ?」
袋に手を入れて一粒真っ赤なそれを手に取る。
まんまるの形に目を逸らしたくなるほど綺麗な赤。
先生の手間がかけられて育てられたトマトを食べていいなんて前世の私は相当な得をつんだのではないだろうか。
「いいえ…先生の愛が注がれて作られたものなんです…ミニトマトさえ尊いかも…、」
「貴方って時々分からない……」
2023.12.13『愛を注いで』
12/13/2023, 2:01:28 PM