黒猫

Open App
5/16/2025, 11:08:11 AM

後悔を手放す勇気を

かつての友人の訃報が届いた。
長きに渡って難病と闘い命を終えた。
学生時代の悪友で喧嘩別れをしたきり
会っていなかった。

こんなにも早く別れが来るのなら
謝れば良かった。
会いに行けば良かった。

とめどない涙とともに
後悔が後から後から湧き出した。

5/14/2025, 11:47:33 AM

呼吸するために酸素は必要不可欠。
同じくらい大事な子が私にはいる。

「ただいま。リーヤ」

硬質で黒い毛並み。伏せて目を閉じていたけれど
開けば瑠璃色の綺麗な瞳が現れる。
太く立派な尾を揺らしじゃれついてくる狼犬は
見知らぬ人には無愛想。
家族には甘えたで人懐っこい姿を見せる。
出迎えてくれるだけで癒しを与えてくれるリーヤには
秘密がある。

「……久しぶりに戻れた」

精悍な顔つきの青年が息を吐く。
他ならぬ彼がリーヤである。悪い魔術師に寿命を奪われ
呪いをかけられた。昼間は狼犬として過ごすことを余儀なくされ、満月の時にのみ人の姿に戻れる。
剣と魔法が活躍しそうなファンタジーな話だが
リーヤこと彼には現実。呪いは少しずつ体を蝕み、瑠璃色の髪は半分近くが黒く染まった。
呪いが完全になる前に解呪しなければ命はない。
淡々と事実を語る彼の横顔を思い出すと切なくなる。
1人で生き続けなければいけないなど運命は残酷だ。

「……どうした?悲しそうな顔をして」

「1人で生き続けて寂しくないの?」

「今は1人じゃないからな。君が居て、君の家族が居て共に過ごせる。寂しくなんてないさ」

大きな手で頭を撫でられ困惑する。
彼の目には温もりが溢れ嘘をついてるように見えない。

「それに君は俺にとっての生きる理由……酸素のように当たり前に側にあるべきものだからな」

彼の発言の意図が分からず首を傾げれば笑った。
彼は語る。
遥か遠く、彼が人であったころ愛した女性。
その人を探し出すのが、彼の生きる理由。

彼が一途に愛し続ける女性に興味が湧いたが
聞いても答えてはくれなかった。
代わりに微笑み一つ。
答えを知るのはずっと先のはなし。


5/14/2025, 12:48:30 AM

船のオールを漕ぐ。
これは君との別れの旅路だ。

すまない。
君に別れさえ告げられず命を終えた
誰より大事な君に
癒えぬ傷を遺してしまった。

君は俺を恨むだろうか
生きる事を諦めないだろうか

どうか君のために祈らせて欲しい
君が幸福であるよう
愛し愛されるよう

君の旅路に幸福だけがあらんことを

5/13/2025, 5:45:36 AM

見つめている。

夕日にも似た赤銅色の髪に、月を思わせる金の瞳。
綺麗だと見惚れてしまう。
本を読んでいる体で彼女の横顔を盗み見る。
口が達者なら褒められたのだろうが、
口下手な俺にはできない。

むしろ誤解されるか、誰かを傷つける。
意図とは別の解釈で伝わってしまう。
それが、怖くなった。
言葉は見えざる凶器、誰かを傷つけるならばと
何も言えなくなった。

「あたしの顔、盗み見るのはよくないよ」

金の瞳が俺を射抜く。
何も言わずに視線を逸らせば彼女は笑った。

「たまには褒めてくれても良いのに」

「……できたら苦労はしねぇよ」

悪態をついて机に突っ伏せば撫でられた。
子供扱いは嫌で、手を振り払えば彼女は笑った。

ああ、ほんとに何しても頭が上がらない。
これが惚れた弱みか。

5/9/2025, 7:16:51 AM

彼が女子にモテるなんて分かっていた。
彼は恋人同士だと隠したいのに協力してくれている。

それでも少しは拒絶して欲しいと思ってしまう。
彼には言えず視線を向けても合わない。
私ってこんなに我儘だったっけ?

直ぐ近くに居るのに、彼は素知らぬ振り。
他の女の子を見ないでって言ったら彼はどう思うだろう。
重い?面倒くさい?
思考がネガティブな方向にしか答えを出さない。

ため息をつけば彼と目が合った。

『妬 い た ?』

「………っ!?」

口の動きだけ読むと彼は意地悪く嘲笑う。
ズルい!確信犯だ!
分かっていてやるなんて意地が悪い。
後でぎゃふんと言わせるんだから……!


Next