黒猫

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6/4/2025, 12:30:18 PM

この感情は恋か、愛か、それとも執着か。
答えは今はまだ、でない

振り返った彼女の驚いた顔に、目を奪われる。
六年ぶりに、会う彼女はさらに美しくなっていた。
腕の中に閉じ込めたい衝動に駆られ、
手を伸ばしかけてやめた。

彼女は触れられる事を怖がる。
僕の記憶が確かなら、それは彼女の傷に塩を塗り込む行為、それは避けたかった。

「……久しぶり。すっかり、有名人だね」

彼女の、乾いた笑顔が距離を感じさせる。
僕は、いつも通り笑えてるだろうか。

「ポスター、瑞希に見られるとは思わなかったよ」

「そう……一目見て日葵くんだって気づいたよ」

「そんなにも、わかりやすい?」

「ううん。好きな人だから、わかるの」

はにかんだ笑顔に胸をつかまれる。
可愛い。笑うとこんなにも可愛いのだと、今知った。
彼女を他の誰かに渡したくない。暴力のように強い感情に支配され自覚する。

______僕は瑞希が、好きだ。

頬が熱くなり、彼女の顔が直視できず、
初めての恋心に心揺さぶられるようだった。


お題 約束だよの2人の続きのようなもの
日葵サイド


6/4/2025, 12:30:54 AM

「いやだ。日葵くん、行かないで」

「また、会いに来る。約束するよ」

声を上げて泣きじゃくり、彼の顔をまともに見ることさえできなかった。
彼が、共に育った養護院から去る日。ただ泣くばかりで何も言えなかった。
_____ずっと好きだった初恋相手。
彼と離れる事が、耐えられなかった。
引き止める事は叶わなくて、彼は新しい両親に手を引かれ去ってしまい、絶望が胸に深く刻み込まれた。

あれから数年、久しぶりに街頭で見た彼は別人のようだった。
某有名ブランドの香水の宣伝ポスター。写ったモデルに見覚えがあり、思わず足を止める。

「……日葵くん」

あの日から名前を呼ぶ事すらなくなってしまった想い人。
成長した彼は、遠い世界の住人で、私には手が届かない。
思わず、ため息がこぼれ落ちた。

「そんなに熱烈な視線向けられたら妬けてしまうな」

「______!」

柔らかく落ち着いた声が、耳をくすぐる。
隣に視線を向け、声を上げそうになるのを必死でこらえた。ポスターに写ってたあのモデルがいる。
周囲はそれに気付かず通り過ぎていく。
彼は、近づき私の耳元で甘く囁いた。

「瑞希、約束を果たしに来たよ」

頬を伝う涙を拭う優しい手つきは、まるで夢を見ているようだった



日葵の読み方→ひびきです。



6/2/2025, 11:08:50 PM

降りしきる雨が、涙を隠してくれた。

突然の別れだった。
恋人から「別れよう」という言葉に頭が真っ白になった。
順調だと思っていた二人の関係。
何故、別れを告げられたのか理解できなかった。

縋ろうとすることも許さない態度の恋人に
何も言えなかった。
何かを隠していると気づいてはいたけれど、
けれど、憶病な私は聞くことができなかった。

別れたくなかった。
もっと一緒にいたかったのに。

次から次へと溢れ出てくる本音は、誰にも届くことなく、
ただ涙として流れていく。

6/1/2025, 12:07:03 PM

天から、降り注ぐ雫が傘を濡らす。
雨の日は気分が憂鬱で、気が滅入ってしまいそう。

確か彼と別れたのもこんな雨の日。
浮気をしておきながら、泣いて縋る彼を私は容赦なく突き放した。彼の、身勝手さに吐き気がした。
それ以降、恋人を作るのが億劫になり、
おひとりさま生活謳歌している。

「あ。すみません……」

前方からの、歩行者とぶつかりかけよろめいた。
その時、目にとまったシャツに見覚えがあった。
彼が好んでいた服の柄で、古い記憶が蘇る。

「……奏?」

「た、拓人…どうして……」

雨音に紛れて、誰かが私の名前を呼んだ気がした。
振り返えると、そこに彼がいた。
声を失った私を彼が抱き寄せる。

「会いたかった。あの日からずっと」

5/25/2025, 10:23:49 AM

細やかな雨音で目を覚ます。
眠っている恋人を、起こさぬよう腕からそっと抜け出し
ベッドから降り窓辺に近づく。

しとしとと大地を濡らす恵みの雫は、
このところ降り続いている。
多少なりとも生活に支障が出ているけれど、
嬉しい事もある。

恋人と過ごす時間が増え、
寒いという口実で、一緒に眠れる。
ありふれた幸せだけど、かけがえのないもの。
寂しさが立ち入る隙すらない幸福に満たされる。
頬が緩んで笑みがこぼれた瞬間______

「捕まえた」

逞しい腕に背後から抱き寄せられ
振り返って見上げれば、夢の中にいそうな顔の恋人が居た

「起こしちゃいましたか?」

「あぁ。湯たんぽが忽然と消えたからな」

彼は、私を軽々と横抱きにするとベッドへ逆戻り。
これは二度寝確定だな、なんて思いながら
彼の腕の中で目を閉じた。

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