黒猫

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「いやだ。日葵くん、行かないで」

「また、会いに来る。約束するよ」

声を上げて泣きじゃくり、彼の顔をまともに見ることさえできなかった。
彼が、共に育った養護院から去る日。ただ泣くばかりで何も言えなかった。
_____ずっと好きだった初恋相手。
彼と離れる事が、耐えられなかった。
引き止める事は叶わなくて、彼は新しい両親に手を引かれ去ってしまい、絶望が胸に深く刻み込まれた。

あれから数年、久しぶりに街頭で見た彼は別人のようだった。
某有名ブランドの香水の宣伝ポスター。写ったモデルに見覚えがあり、思わず足を止める。

「……日葵くん」

あの日から名前を呼ぶ事すらなくなってしまった想い人。
成長した彼は、遠い世界の住人で、私には手が届かない。
思わず、ため息がこぼれ落ちた。

「そんなに熱烈な視線向けられたら妬けてしまうな」

「______!」

柔らかく落ち着いた声が、耳をくすぐる。
隣に視線を向け、声を上げそうになるのを必死でこらえた。ポスターに写ってたあのモデルがいる。
周囲はそれに気付かず通り過ぎていく。
彼は、近づき私の耳元で甘く囁いた。

「瑞希、約束を果たしに来たよ」

頬を伝う涙を拭う優しい手つきは、まるで夢を見ているようだった



日葵の読み方→ひびきです。



6/4/2025, 12:30:54 AM