覚えているのは、優しいソプラノの歌声。
銀の髪の女性が、微笑みながら歌っている。
子守唄だっただろうか、その歌は、
不思議と耳に残り懐かしく思える。
それが、唯一の母の記憶。
繰り返し夢で見るのは過去の自分。
どれだけ願ってもこの世を去った母には会えない。
それでも、いまは幸せだ。
惜しみなく愛情を注いでくれる養父と兄たちがいて、
哀しみを感じる隙もない、幸福に満ちた日々。
母との別れがあったからこそ、今の家族との出会えた。
だからこそ伝えたい。
「産んでくれてありがとう。私は今幸せです。」
______怖い。
あの人は本当に私を攻撃しない?
彼女と初めて言葉を交わした翌日、物陰から彼女を観察する。
排他的な思考が蔓延る村の中で、
誰も私を歓迎する人はいない事が、痛いほど分かってた。
そんな時に話しかけてきたのだ。
銀糸の髪に青の瞳、まるでお人形のような外見。
朗らかに笑い、気安く私にふれる。
それが、怖かった。
いい人のフリをして、近付いてくる人もいる。
あの人も、同じじゃないの?
_____本当に信じていいの?
「黄金の髪も鶯色の瞳も、怯えながら人を信じようとする姿勢。みな大好きよ。」
「…………!!」
「あなたが変わろうとする姿勢は歓迎するわ。それはあなたが選んだあなた自身の成長だもの。」
しゃがんで目線を合わせ、傷だらけの頬に触れた。
彼女の瞳の奥にある、寂しさが見えた。
この人も、同じ。ひとりぼっちだったんだ。
「………うん。」
白くまろい手に触れる。
暖かい。
人肌の温もりを教えてもらった日。
あなたに伝えたい事があった。
全てに絶望し、死を覚悟しながら諦められなかった。
久しく感じることのなかった気配が傍らにいる。
この邸宅の主に助力を申し入れ、あたしの救出をしたのだと聞かされた。その中には邸宅の主に仕える同胞、仕えていた君主____番たる彼がいた。
「……あたしの事など忘れているかと思ってた」
「忘れるわけないだろう。君は俺の番だ。」
「なら、あたしが苦しんでいる時に何故助けてくれなかったの」
「____それは、」
分かっている。これは優しい彼を困らせしまう八つ当たりだ。政略結婚で娶ってくれたのだから、それ以上を望まないと決めたじゃない。
彼を苦しめる事は本意じゃない。
「君が操られて何をしたのか、俺は知っている」
「……!?」
「君の犯した犯罪行為を目撃した。だからといって君を咎める気にはならない。」
「____何故!? 誤りがあるのであれば……」
「正すべきだと分かってる。その意味を君は分かっているのか? やっと取り戻せた半身を手放せというのか?」
苦しそうに顔をしかめ、覆いかぶさる彼の姿に何も言えなくなる。自分の発した言葉がどれだけ彼を傷つけたのか、気付くのが遅かった。
「………大和、あたしは………」
「傍を離れようとしないでくれ。俺は君を手放すくらいなら罪人になっても構わない。」
真摯な真っ直ぐな愛は何も変わってなかった。
時を経て深まったからこそ、互いに手放せなくなった。
彼の首に腕を回せば、頭をそっと撫でられる。
あたしは耳元で密やかに囁いた。
「……言われなくても離れない。」
体を起こした彼に抱き寄せられ膝の上に乗せられた。
柔らかく微笑む彼を見てから身を委ねれば、彼は嬉しそうに声を上げて笑った。
「おかえり。」
「……ただいま。」
とある人外の番(夫婦)のお話。
(本編の)後日談的なもの
目を覚まして愕然とした。
結婚前に使っていた私室であった。
首に触れ、繋がっている事を確認する。
夫と息子に裏切られ謀反人としてギロチンの露と消えた。
彼が結婚したのは実家の資産欲しさからだった。
極貧の平民から成り上がった夫は拝命貴族
武勲だけで爵位を得、傲慢なまでの自尊心の高さに
うんざりしていた。
夫との間に設けた息子は女性関係にだらしなく
借金がほうぼうにあった。
金の亡者ともいえる二人に嵌められ
冤罪であったのにも関わらず死罪の判決を下された。
そんな私に、神はやり直すチャンスを与えて下さった。
あのような無惨な最期はこりごり。
ならば、運命を変えてしまおう。
回帰(死に戻り)は初書きです
気がついた時には此処にいた。
行き交う人々が奇っ怪なものを見るように
視線を向けてくる。
仲間とともに訪れた神殿。
ほこりを破り黴の匂いが充満した部屋の一室に
在った手鏡。
金細工は剥げ地金がむき出しになっていた
それに触れた途端、強烈な光を放ち
意識が昏倒した。
次に目が覚めた時には、高層の建物が密集する都市にいた。
彼女は、仲間たちは何処だ?
意識が昏倒する前に聞いた彼女の悲鳴。
どうやったら元の場所に帰れる?
「映画の撮影かな。あの俳優さんカッコいい!」
「そう?普通じゃない?」
「もー!気分を盛り下げること言わない!」
俺を見つめる一人の少女。
どう見ても、彼女にそっくりだ。
一体、どういうことだ?
_____俺はどこに来たんだ?