黒猫

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5/25/2025, 5:22:28 AM

覚えているのは、優しいソプラノの歌声。
銀の髪の女性が、微笑みながら歌っている。
子守唄だっただろうか、その歌は、
不思議と耳に残り懐かしく思える。

それが、唯一の母の記憶。
繰り返し夢で見るのは過去の自分。
どれだけ願ってもこの世を去った母には会えない。

それでも、いまは幸せだ。
惜しみなく愛情を注いでくれる養父と兄たちがいて、
哀しみを感じる隙もない、幸福に満ちた日々。

母との別れがあったからこそ、今の家族との出会えた。

だからこそ伝えたい。
「産んでくれてありがとう。私は今幸せです。」

5/22/2025, 11:04:32 AM

______怖い。
あの人は本当に私を攻撃しない?

彼女と初めて言葉を交わした翌日、物陰から彼女を観察する。
排他的な思考が蔓延る村の中で、
誰も私を歓迎する人はいない事が、痛いほど分かってた。

そんな時に話しかけてきたのだ。
銀糸の髪に青の瞳、まるでお人形のような外見。
朗らかに笑い、気安く私にふれる。
それが、怖かった。

いい人のフリをして、近付いてくる人もいる。
あの人も、同じじゃないの?
_____本当に信じていいの?

「黄金の髪も鶯色の瞳も、怯えながら人を信じようとする姿勢。みな大好きよ。」

「…………!!」

「あなたが変わろうとする姿勢は歓迎するわ。それはあなたが選んだあなた自身の成長だもの。」

しゃがんで目線を合わせ、傷だらけの頬に触れた。
彼女の瞳の奥にある、寂しさが見えた。
この人も、同じ。ひとりぼっちだったんだ。


「………うん。」

白くまろい手に触れる。
暖かい。
人肌の温もりを教えてもらった日。

5/19/2025, 11:30:43 AM

あなたに伝えたい事があった。
全てに絶望し、死を覚悟しながら諦められなかった。

久しく感じることのなかった気配が傍らにいる。
この邸宅の主に助力を申し入れ、あたしの救出をしたのだと聞かされた。その中には邸宅の主に仕える同胞、仕えていた君主____番たる彼がいた。

「……あたしの事など忘れているかと思ってた」

「忘れるわけないだろう。君は俺の番だ。」

「なら、あたしが苦しんでいる時に何故助けてくれなかったの」

「____それは、」

分かっている。これは優しい彼を困らせしまう八つ当たりだ。政略結婚で娶ってくれたのだから、それ以上を望まないと決めたじゃない。
彼を苦しめる事は本意じゃない。

「君が操られて何をしたのか、俺は知っている」

「……!?」

「君の犯した犯罪行為を目撃した。だからといって君を咎める気にはならない。」

「____何故!? 誤りがあるのであれば……」

「正すべきだと分かってる。その意味を君は分かっているのか? やっと取り戻せた半身を手放せというのか?」

苦しそうに顔をしかめ、覆いかぶさる彼の姿に何も言えなくなる。自分の発した言葉がどれだけ彼を傷つけたのか、気付くのが遅かった。

「………大和、あたしは………」

「傍を離れようとしないでくれ。俺は君を手放すくらいなら罪人になっても構わない。」

真摯な真っ直ぐな愛は何も変わってなかった。
時を経て深まったからこそ、互いに手放せなくなった。
彼の首に腕を回せば、頭をそっと撫でられる。
あたしは耳元で密やかに囁いた。

「……言われなくても離れない。」

体を起こした彼に抱き寄せられ膝の上に乗せられた。
柔らかく微笑む彼を見てから身を委ねれば、彼は嬉しそうに声を上げて笑った。

「おかえり。」

「……ただいま。」


とある人外の番(夫婦)のお話。
(本編の)後日談的なもの




5/18/2025, 11:31:45 AM

目を覚まして愕然とした。
結婚前に使っていた私室であった。

首に触れ、繋がっている事を確認する。
夫と息子に裏切られ謀反人としてギロチンの露と消えた。
彼が結婚したのは実家の資産欲しさからだった。
極貧の平民から成り上がった夫は拝命貴族
武勲だけで爵位を得、傲慢なまでの自尊心の高さに
うんざりしていた。
夫との間に設けた息子は女性関係にだらしなく
借金がほうぼうにあった。

金の亡者ともいえる二人に嵌められ
冤罪であったのにも関わらず死罪の判決を下された。

そんな私に、神はやり直すチャンスを与えて下さった。
あのような無惨な最期はこりごり。

ならば、運命を変えてしまおう。


回帰(死に戻り)は初書きです




5/18/2025, 5:55:38 AM

気がついた時には此処にいた。
行き交う人々が奇っ怪なものを見るように
視線を向けてくる。

仲間とともに訪れた神殿。
ほこりを破り黴の匂いが充満した部屋の一室に
在った手鏡。
金細工は剥げ地金がむき出しになっていた

それに触れた途端、強烈な光を放ち
意識が昏倒した。
次に目が覚めた時には、高層の建物が密集する都市にいた。

彼女は、仲間たちは何処だ?
意識が昏倒する前に聞いた彼女の悲鳴。
どうやったら元の場所に帰れる?

「映画の撮影かな。あの俳優さんカッコいい!」

「そう?普通じゃない?」

「もー!気分を盛り下げること言わない!」

俺を見つめる一人の少女。
どう見ても、彼女にそっくりだ。
一体、どういうことだ?

_____俺はどこに来たんだ?

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