愛した君に恋がしたい
信じてなかったの最初は。好きだよって言われて、嘘でしょって返すくらいには冗談だって思ってた。君の傷付いた顔を見て違うって分かったけれど。私もって咄嗟に口走ってから後悔した。あんまりにも嬉しそうだったから。親愛の情はあっても恋なんかじゃなかったのに。
私は私に嘘をついたの。君を少しでも失いたくなかったから。そこからはまぁ知っての通り順調だったよね。もともと相性は良かったし。私は君を好ましく思ってたんだから。ただ一つ困ったことがあるとすれば、君の瞳に映る熱を私は分かち合えないってこと。浮かされたような視線も、止まらない鼓動も触りたいという欲さえ私は持ち合わせていなかったから。ごめんね。愛してたよ。
恋はできなくても愛してた。最初を間違えたからかな。
平行線のままだったね。ずっとずっと願ってたのに。
これだけは叶わなかったよ。
お題【ありがとう、ごめんね】
さよならはきみから始めた
冷えた体温。濡れた体。ゆらゆらと揺れる水面。
移らない温もりは最初で最後の逢瀬だったね。
初めを間違えた僕たちはもう二度と交えない。
お別れはもう直ぐそこにあるから。
さよならなんて言わないで
会いたいよ、
お願いだから僕を置いていかないで、
ひとりはもう嫌なんだ
立ち上がった空の上。灰色の空気が僕を包み込む。
差し出された華奢な指先。枯れる声。
敵になった君は僕を救えないだろう?
また逢えたらいいね。ここじゃ無い何処かで。
宝ものが消えていく、この手のなかからすべり落ちる
ぼくは間違えたの?なにもかもを間違えた、
あのときをくり返して、きみを取り戻せるなら
どんなことだって出来たはずなのに、
「さよなら」
もうきみの顔も思い出せないんだ。
お題【さよならなんて言わないで】
いつかのきみに愛を込めて
肩が触れ合うくらい近くにいても、
心がいくら通じ合っていても、
奥の方に秘めた想いだけは伝わらない、伝えない。
もしも僕が僕じゃなかったら、
きみと出会えなかっただろうけど。
僕が僕だったからきみとは結ばれないんだね。
笑いかけるその顔も、甘えたようなその声も
ずっとずっと僕のものだったのに。
いつか知らないものなる。
あの日交わした、欲を滲ませた約束は
言葉にできない、永遠の誓い。
先に破ったのは僕だった。
【お題】距離
頬にあたる風の冷たさで
また一つ季節が老いたことを知る。
隣を歩くきみに寒いね、なんて
声をかけようとして僕は口を噤む。
強張った頬を染めて前を向く姿が
まるで知らない人のようで。
もし声をかければ
微笑むと分かっていても。
その横顔を眺めていたかった。
あと幾つ、僕の知らないきみを見つけるのだろう。
この季節が巡るたび、またひとつ、またひとつ。
冬がはじまる。
お題【冬の始まり】
恋するのはきみのまぼろし
微笑む顔に影が落ちる。
さらりとした髪が揺れて、ふわりと落ちる。
静寂の中、無音の唇が音を紡ぐ。
重なるふたつがポトリと落ちて。
この腕の中にはなにもないのに。
いつか夜が更けても触れ合いたかった。
また今日も、月がきみを奪う。