もんぷ

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8/17/2025, 10:45:14 PM

終わらない夏

 あー!もう今日で夏休み終わるとか信じらんねぇ!昨日やっと夏休みの課題を終えたばかりなのに。どれだけ綺麗に書き込まれたカレンダーに目をやっても事実は変わらないからため息を吐く。最後の日だと言うのに予定は入ってない。毎年この日は課題に追われているから空けていた。まさか昨日で全部終わらせると思ってなかったけど。

「え、まだ終わってないん?」
他愛もない雑談の中、課題についてぽろっと話したら彼は信じられないと言うように眉を顰めた。てかあんだけ一緒に遊んでたんだからあっちだって俺と同じぐらい進んでいないと思っていた。一気に冷や汗が背中に伝う。あれ、もしかしてやばい?
「うん…え、もう終わってんの?」
「いや当たり前やろ…今日遊ぶんやめる?」
まるで可哀想なものをみるかのように、とても深刻そうに言い放つから少し焦ってきた。しかし、これだけで折れるような自分ではない。
「えー!それは嫌に決まってんじゃん!!まだ今日入れて3日もあるんだよ?いけるから!」
遊びたいし!てか遊びやめて帰ったって結局課題やらねーもん、俺。それに、これまでの経験から真理に辿り着いている。課題って、結局学校で提出するまでに終わらせればいいじゃん?だから夏休み中にこだわる必要は無いの。なんて説明しようとした時だった。
「……わかった。じゃあ明日、朝から家来て。」
何かを覚悟したように真剣な顔で言うからとりあえず頷く。
「いーよ。何する?」
「課題。」
「えっ、やだ。」
「やだちゃう。やるの。」
「写させてくれる?」
「無理。教えるから自分でやり。」
「えー!お願いー。」
次の日、彼の家に訪れた。何度来ても大きな家と綺麗な部屋に新鮮に驚く。こいつ、俺の家遊びに来てる時どう思ってんだろ。なんて。洒落たお菓子が出てきてすぐに飛びついたけど、一つ食べたら皿を遠ざけられた。
「先課題な?」
なんだかんだ優しいから写させてくれるかと思ってたんだけど普通に解かされた。
「ねぇ、こんなの俺無理!解けるわけないじゃん!」
「どこ分からへんの?あぁ、ここは公式使うだけや。公式使わんかったらそら解ける訳ないやろ。覚えたらいけるから。」
「えー…もうさ、これ答え写した方が早く終わるじゃん。見せてよ。」
「あかん。テストどうすんの?」
「なんとかなるって。」
「ならん!あれ落ちたら補習やろ?遊べへんやん。」
「それは嫌だけどさ…」
ぶつぶつ言いながらも足りない頭を必死に回転させて課題をこなす。お昼を食べて課題を進めて、テストのない教科はちょっとだけ写させてもくれた。終わったのは結局夜の19時。まだ帰れる時間だけどせっかくだから泊まっていき?なんて言う優しさに甘えさせてもらった。

 ぼやっとふかふかの布団からカレンダーを見ているとドアが開いた。
「朝ごはんやでー…あ、起きとる。」
「……おはよ。」
ドアが開いていつの間にか身支度もばっちりな友人の登場。昨日は夜遅くまでゲームしていたというのになぜこんなにもしっかり起きられるのだろう。羨ましい。寝起きの低いがらがら声で返事した自分に対して彼は少し笑った。
「相変わらず寝起き悪いなぁ。あ、そや。なぁ、今日はゲーセン行かん?夜はうちにある花火しよや。」
「え!行く!する!」
夏休みが終わるのを憂いてることを知ってか知らずか、そんな嬉しい提案をしてきたからすぐに返事をする。
「よし決まり。そんでさ、明日学校終わり駅前のかき氷屋さん行かへん?」
夏休みが終わっても、この友人と過ごす限りは毎日楽しそうだ。うん。夏休みが終わったって、まだまだ俺たちの夏は終わらない!

8/17/2025, 5:51:58 AM

遠くの空へ

 快晴。そこまで早く起きなくても良いのに窓からの光で目が覚めた。いつも夜遅くに帰るからカーテンの存在なんてすっかり忘れていたのが悪かったのか。少し良いのを買ったつもりだった遮光カーテンは端に寄せられていて自身の役割を成し遂げていない。寝起きの暑さの不快感に冷房の温度を下げた。さーむーいー!なんて甘ったるい声を出しながら布団にくるまる誰かがいないから適温に。エアコンのリモコンを置き、代わりにテレビのリモコンを手にとって電源を入れる。ニュースでは、暑さ指数や熱中症対策について話すキャスターは爽やかなワンピースを身に纏っている。都心ほど深くは説明されなかった県の天気にふと目を通して天気アプリを開く。現在地、自宅の区、からスライドして表れたのはここから何十キロも離れた場所。その場所の天気が警報が出るほどの雨だと理解して携帯を閉じる。電子タバコを取り出して、息を吐く。肺も冷たくなる感覚に少しほっとした。一息ついた途端に窓の外から聞こえる蝉の音がやけにうるさく感じ、あまり興味はない野球のニュースの方の音量を上げる。窓の外もニュースの中も綺麗な青空が広がり夏本番を感じさせる。今この瞬間にあっちは大雨が降っているなんて信じられない。あの場所にいるであろう人に「雨大丈夫?」なんていう連絡を送ろうと打ち込んでやっぱりやめた。

「ごめん」
文面で見る、堅苦しくとも簡潔な三文字。送信ボタンを送ろうと思って、薄い煙と共にため息を吐く。だって自分は悪くない。仕事が忙しいのは分かってくれていると思っていたし、会える時間が減っていたのは痛感していたけど、寂しいのはこっちだって同じだった。働かなくて一緒にいられるならそんなに最高なことはないけど、一緒の家に帰れるならそんなに幸せなことはない。けど、自分の帰る第二の家と呼ぶには、どう考えても遠すぎるその距離と時間に遮られて会う回数は制限される。一緒に暮らすために働く。二人の将来のためにお金を貯める。あっちもあっちで頑張っていることは知っている。会えなくてもLINEも電話も毎日欠かさないようにしていたから、だから大丈夫、寂しくないなんて言い聞かせるように考えていた。本当に久々に会えたのにあんなひどい喧嘩になるなんて思わなかった。会えなかった分こじらせていた思いをお互いがぶつけあうだけで、まともな話し合いもできずに後味悪く帰った新幹線から一週間。連絡が止まったLINEの画面を見る。全てが嫌になって、もう一度布団に倒れ込む。思考を放棄しようとしたけどまだ窓から差し込む光が眠気をゼロにさせる。遠くの方まで雲一つ見えない。

 ふとポップな通知音が耳に入る。さっきまで開いていた画面には新たな文面。

「きてよ」

 そのメッセージは簡潔な三文字なのに寂しそうな雰囲気をひしひしと伝えていた。あっちは雨で警報出てるのに、新幹線動いてるのかな…なんて考えるよりも前に予約のアプリを開く。ええと、お詫びのスイーツは駅で買うとして、家から駅までこれぐらいで行けるか。よし。財布、携帯、傘とタオル。あとは…もういいか。そんなことより早く行こ。日傘の機能は無い大きな雨傘を手に持ち、駅までの道を歩く。ちゃんと話そう。素直に謝ろう。あっちが勇気を出してくれたんだからこっちが答えないのはダメだ。今行かなければ全てが終わってしまう気がしたから。いつか、そんなこともあったねと笑いながら話せるように。そうやって話しながら隣にいられる幸せを噛み締めることができるように。

8/16/2025, 2:31:02 AM

!マークじゃ足りない感情

 冗談でもなんでもなく、もう一生会えないと思っていた。あれは何年前だろうか、なんて余裕ぶっても忘れられないから覚えているけど。一生見たくなかった大切なお知らせを見て、世界から光が無くなった日。キラキラした世界を後にしてこちら側に戻ると大好きな人が宣言した。もちろんあの人は職業が変わっても生きている。どこかでごはんを食べて、笑って、眠る。スポットライトの当たる場所から移動しただけでどこかで息はしている。なんなら、人前に出るからと意識していた前よりもナチュラルに街を歩いているかもしれない。そんなことされたら見つける自信しか無いのだけれど。しかし、こちらからしたらお金も時間も労力も全て注いできた最愛の人だけど、あちらからしたら自分の色のペンライトを振る有象無象の一人。二人で話す数秒の時間も、繋いだ手の感触も、本当に一瞬のことを何度も夢に見て、忘れたくなくて何度も反芻する。画面上じゃなくて実在する、目があって、言葉を交わして、まるで友達みたいに仲良く話すなんていう素敵な夢をくれていた君。君に関するイベントに最後という文字が増えてきて、まだ現実を見たくなくて目を逸らしていたのに、また、どこかで会えたらいいね。なんて綺麗に笑う君の姿は、何をしていても亡霊のようにまとわりつく。過去を懐古して、思い出に浸って、どれだけ今を忘れようともいないという現実だけがそこに残る。本気で好きだった。いくら受け入れようとしても、受け入れざるを得ないような状況に置かれても、感情は素直だから涙はいくらでも出る。もう自分から悲しみにいっているのではないかと笑いたくなってしまうほど、些細なことに君を探して傷ついて。それでも時間は止まってくれない。君が"普通の人"に戻ってからこっちの時間は止まっているというのに、君は違うところで働いて、良いなと思う人と楽しく暮らしているかもしれない。結婚、家庭を持つとか、そういう前の場所では叶わなかったライフイベントを着実と達成しているのかもしれない。自分がその相手になれるなんていう都合の良い妄想を描くような時期はとうに過ぎたけど、それでもその相手として選ばれる人は素直に羨ましいし、ただ一言おめでとうとだけ言わせてくれるような機会が欲しい…なんてことを堂々めぐりで考えているうちに今日を迎えた。久々の通知に、言葉を失うとはあのことだった。スペシャルゲスト、一夜限りの復活、久々に見た君の最後の宣材写真。あぁ…嬉しい!!!!!!!!!

8/13/2025, 3:10:21 AM

真夏の記憶

 夏真っ只中に行われた大会も終わりを告げ、今日は新体制に向けたミーティングだけが行われて午前で解散となった。まだまだ頼りない自分だけど、部長という役職を貰ったからには気を引き締めていかなければいけないなんて姿勢を正した。
「で、新部長。その大荷物はどうした?」
「今日はちょっと早川の家泊まるんです。」
「おー、そうか…お前も部活だけじゃなくて勉強頑張ってくれると先生嬉しいぞ。」
「あー…はい。」
適当に笑って誤魔化していたら、ちょうど待ち人が現れたからそっちに逃げる。顧問は好きだが、勉強の方で関わるのはごめんだ。親にも見せられない成績のことはどうか忘れたい。
「ん、行こっか。」
「あい。」
高校二年生男子の平均身長を優に超えた新しい副部長に頷いて着いて行く。身長が高い方が有利なこの競技においても、普通の学校生活においても、平均にギリ届いていない自分からしたらそのスタイルは羨ましい限りだ。
ジリジリと照っている太陽に少しだけ近い彼は綺麗な汗を浮かべていた。そんな真夏の記憶。

8/12/2025, 11:00:07 AM

こぼれたアイスクリーム

 学校から一番最寄りのコンビニは正門から大通りを挟んで向かい側に位置している。平日は当たり前にこの大学に通う学生で賑わっていて、店員もこのあたりに下宿している大学生であることが多いから、この学校で経営が持っていると言っても過言ではない。4限までの空き時間、空き教室で課題を進めていた時のこと。自分が終わらせた課題をあちらが写させているだけで、こちらは適当に携帯を見たり雑談をしてちょっかいをかけているだけなのだけれど。文字数の多いレポート課題を前にして彼は大きくため息をついた。そして、勢いよくパソコンを閉じたと思ったら、「アイス食べたい!コンビニ行こ!」なんて言い出したからこの蒸し暑い中外に出た。何食べようかなーなんて音符がつきそうな言葉を並べてアイスコーナーに向かう彼。彼が犬なら間違いなく尻尾を振っているだろう。想像上のもふもふの尻尾を横目に、自分もコーヒーでも買うかなぁなんて思ったけどコーヒーの機械の前におそらく同じ大学の学生が列を作っていたから諦めた。
「ねぇねぇ、こん中だと何食べたい?」
自分のらしい甘ったるい棒付きアイスを確保した彼はそう言って満面の笑みで聞いてきた。どうやらお気に入りのアイスを見つけてご機嫌らしい。自分はアイスを買うつもりなんて特に無かったけど、外の暑さを考えると確かに食べたくなってくる。
「んー…これかな。」
二人で割って食べる用のコーヒー味のアイス。コーヒー飲み損ねたのを若干引きずってるチョイスに自分でも苦笑しつつ、まぁ食べたいけど買うほどでもないかーなんて考える。
「うわ!それいいよね。好き。」
「そっちはそれにしたん?」
「うん。これ本当においしいの!」
そう言ってうれしそうに笑う彼の頭を撫でて、先に入り口付近で待つことにした。灼熱の外に出て待つほどのタフさは無いから、適当な雑誌のラインナップを見て時間をつぶす。
「お待たせ!」
そう言って爽やかに現れた彼の手元には二つのアイス。これが美味しいんだと熱弁していたお気に入りのミルク味の棒付きアイスと、さっき自分が指差したアイスだ。まさか2個も買うとは思わなかった。だってさっきの昼休み、食堂で定食とうどん両方食べてたじゃん。なんなら2限の前には他のやつが持ってきてたスナックパン一本貰ってたし、講義中は眠そうにしながらもちもちしたグミを平らげていた。普段、自分がよく食べることを褒めると、「そんな食べてねえし!普通だもん。」とぷりぷり怒ってるけどさすがに食べ過ぎじゃないか。自分よりも一回りも小さいこの体のどこに収納されるのかと不思議に思いながら、彼の頭に手を置く。
「ほんまによう食べるな。」
「え、ちがうって!これはそっちにあげるために買ったの!」
「え?なんで?」
「…レポート見せてくれたのと、いつものお礼。」
そう言って少し照れたように俯く彼がかわいかったのと、予想外のプレゼントに嬉しくなって頭の上に置いていた手をわしゃわしゃと動かす。
「ありがとうな。大事に食べるわ。」
「どういたしまして。ねぇ、髪の毛ボサボサなんだけど…」
ムッとしたような声色で頭を振るが、その短い髪は赤くなった耳を隠せていない。近すぎると言われる距離感も、甘すぎると言われる自分の態度も、全ては手を置きやすい位置にある頭と、本気で嫌がってくれない従順さと、そして何をも凌駕するかわいさのせいだ。アイスを受け取り、二人で大学へ戻る。もわっとする暑さの中、大通りの信号が青になるまでの長い時間を適当な話をして笑い合う。そして、やっと学校に着いた頃、「アイスやばそうかも。」なんて言い出したから二人して急いで包装を開ける。自分の方は若干柔らかい感触だけどまだマシそうで、あっちのミルクアイスは結構どろどろで溶けかけていた。
「ぎゃー!やばい。」
なんて騒ぎながら齧り付くさまを笑いながら見届ける。食べ歩きはお行儀が悪いが今だけは緊急事態だし許してあげてほしい。
「あー!こぼれた。」
そう言って手から垂れたアイスはぽたりと地面に落ちた。彼は悲しそうに地面の白い水滴を見つめる。想像の中で犬耳がしょんぼりと垂れているのが見えた。あまり味わえずに食べ終えたことも悔しいらしく棒だけになったものとベタベタの包装のビニールをそこらへんのゴミ箱に雑に突っ込んでいた。ポケットから除菌ティッシュを取り出して彼に渡し、もう一枚出して床のアイスの水滴を拭き取る。
「一個あげるからもう落ち込まんといて?ほら、食べよ。」
二つに割った一つ、どっちかというと柔らかくない方を渡す。すると、彼は自分の大好きな笑顔を取り戻して大きく頷いた。アイスが大好きな犬は今日も自分の隣で尻尾を振っている。あぁ、幸せだ。

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