ストック1

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8/13/2025, 11:33:27 AM

そいつは超常の存在であるが、無害で、なおかつなんの利益も与えない
ただ、存在しているだけで、何もしないのだ
だが、そいつの特徴はそれではない
そんなのはいくらでもいる
珍しくはないのだ
ではどんな特徴か
そいつは通称、「言葉にならないもの」と呼ばれている
実は通称だけで、明確な名前は付けられていない
通称だって、そいつを見たことのない人間が、仮の名前として呼んでいる状態だ
正式な名前は、実際に見て、どのような特性を持つのかを見極めなければ付けられない
だが、「言葉にならないもの」だけはそうはいかない
その理由がそいつの特徴であるらしい
俺は見たことがないから、らしいとしか言えない
一度でも「言葉にならないもの」を見た人間は、そいつを表す言葉を表現できなくなる
なので、名前は付けられない
通称も言えなくなる
例のやつとか、あいつとか、そういった言葉ですら表現できなくなるようだ
文字も、蛇がのたうち回ったような意味のないものになり、キーボードやスマホなどは、そもそも入力する指が止まる
手話や点字も不可能
暗号や信号、その他諸々
ありとあらゆる言葉による表現が阻まれるのだ
それには外見的特徴も含まれる
なので、見た人間が「言葉にならないもの」について話す際、例えば「あいつを見たことがある」と言いたい時、「見たことがある」としか言えない
聞く方はなかなか大変だ
まあ、存在しているだけの無害なそいつを、わざわざ話題に出す機会はなかなか無いわけだけれども
そして、面倒なことに、写真や動画、似ている上手い絵などでも表現できない
撮ろうとするとカメラは一時的に機能停止し、絵を描く場合、どんなに上手い人でも、幼い子どもが描いたようなただのグルグルになる
つまり、外見は直接見た人間以外知りようがないわけだ
しかし、研究もわりと進んでいるようだから、そのうち見た人も「言葉にならないもの」を表現する言葉を言える日も来るかもしれない
とはいえ、表現不可能という特徴があったところで誰が困るわけでもないから、今のままでもいい気はするな
無害であることは、疑う余地のない事実のようだし

8/12/2025, 11:37:49 AM

これは、俺が今まで活動してきた中で一番困惑した、真夏の記憶である

気がつくと俺は、展示会の会場として使われそうなだだっ広い空間にいた
周りを見ると、様々な人が俺と同じように、あたりを見回していた
だが、彼らに困惑は無い様子
どちらかというと警戒のほうが強い
俺は普通の人間ではないため、警戒感がすぐにわかった
困惑ではなく警戒とは、彼らも一般人ではなさそうだ
それにしても、壁の前に置いてあるでかいモニターが気になる
あまり詳しいわけじゃないが、デスゲームでも始まるんじゃないだろうな
そんな雰囲気が漂ってるぞ
なんて思っていたら、モニターが点き、趣味の悪いニヤケ面の白いマスクをかぶった奴が現れた

「目覚めたかね諸君
私はゲームマスターのサンデーだ
君たちには今からあるゲームをやってもらう」

俺含め、全員がとりあえず何も言わず、相手の話を聞くことにした
以下、サンデーの目的である
サンデーは昔から、変身ヒーローの力がどれほどなのか、誰が一番強いのか知りたかったらしい
そして自らの特殊能力で様々な変身ヒーローを集めたのだという
まさか周りの方々が同業者だったとは
そして、この場所で俺たちにゲームをやらせて、最強のヒーローの雄姿をこの目で見ようと考えたというわけだ
ヒーロー同士で殺し合いをさせようとは、悪趣味な
だがヒーロー相手にこんな真似をしてただで済むと思っているのか?
他のヒーローたちも口々に呆れの声を上げている
しかし、サンデーは慌てた様子でヒーローたちの言葉に訂正を入れる

「待ちたまえ!
私は殺し合いなどさせるつもりはない!
これはデスゲームじゃなくて、純粋なスポーツだよ!
いくつかの競技で能力を競ってもらいたいだけだ!」

本気で言ってるのか?
罠とかではなく?

「だって知りたいじゃないか!
変身ヒーロー同士の本気のスポーツ!
夢があると思わないか!?
夢の共演系の作品とか、興奮しない!?」

こいつどうしようもないな
しかし、ここにいる全員、ここで断ってうざ絡みされたり執着されても面倒だと判断し、付き合ってやって、あとでしょっぴくことにした
組織の規模的に、俺がしょっぴくのが妥当かな
というか、特殊能力がすごいわりに、考えることや用途が幼稚だ
殺し合いさせられなくてよかったけど

「では早速変身してくれ」

全員、戦うべき敵もいないのに口上を言いながら変身するのは恥ずかしい感じだったが、とりあえず俺からやることにした
本来は仲間とやるんだけどね

「荒れ狂う炎の刃、ブレイドレッド!
エネルギー、解放!」

全身が赤い戦闘服に包まれる

「剣王戦士、ブレイドソルジャー!」

変身完了だ
よし次
中学生くらいの女の子が舞い始めた

「はじける元気!彼方へ届け!
シャインウィッチ!」

いかにも魔法を使えそうなロッドを持ち、動きやすそうなドレス姿になっていた

はい次
スタイリッシュな男性だ
俺と同い年くらいかな?

「Target Lock On!
変身!」

ベルト?が光り、動物か何かみたいなヘルメットと、装飾の多い派手なバトルスーツ姿になった

次行ってみよう
変身アイテムを掲げて、全身が輝いている
特に口上は無かった

「シャオ!」

この人、多分本来はでかい宇宙人だ
なんらかの技で人間サイズになってるけど
あと、人間の姿じゃないと日本語ダメみたいだな


彼女で最後だ
高校生くらいかな?

「暗き闇の意思にて、立ちふさがるものを駆逐する……!
ダークハンター・ブラッディナイト」

なんか全然毛色が違うの来た
赤黒い怖さを感じるドレス着てるし
こんなヒーロー見たことないんだが?
ひとりだけ何か間違えてないか?

モニターを見るとサンデーが悶ていた
感無量といった感じで
さっさとゲーム始めろよ

「ええと、なんだっけ
ああそうだ
これから諸君には、夏の風物詩である水泳、射的、金魚すくい、輪投げに挑戦してもらう
総合成績の良かったものが優勝だ」

うん……?
内容が思ってたのと違うな
水泳はまだわかるけど
なんか、夏祭りの定番の遊びが並んでいる気がするんだが?

「いや、正直もっとすごいものを作りたかったんだが、この会場とプールを貸し切るだけでほぼ資金が底をついてしまい……」

ええ?
なにそれ?
いや、こんなこと言っちゃダメだけど、ちょっとワクワクしてたんだよ
自分の力を戦い以外で発揮するシチュエーションに
期待してたのにその結果が祭りの遊び?
一気にやる気なくしたよ
周りもガッカリしてるし

「真夏だし、夏っぽいことをすればいいかなって……」

「それは安直だし、俺達をバカにし過ぎだよ
もう少しなんとかできるようにしてから、もう一回呼んでくれ
正直、本気の気持ちで挑む内容じゃない」

「そ、そんな!」

「お前だって心の底から楽しめないだろ?
こんなしょぼい夢の共演じゃあさ」

「うっ、たしかに……」

「もう一回よく考えて、お金貯めて、本格的な競技ができるようになったらまた呼んでくれよ
俺たち、また来るから
みんなもそれでいいか?」

周りの変身ヒーローも頷いている
決まりだな

「なんというか、私が不甲斐ないばかりにすまなかった
また、出直してきます」

こうして、変身してだけで何も起こらず、ゲームは終了と相成ったのである

8/11/2025, 10:54:26 AM

あーあ
重ねたアイスクリームの一番上の段がこぼれ落ちちまった
地面のアイスクリームを見つめながら、俺はもったいねえ、とだけ思った
いつもそうだ
俺が何かを得ようとすると、取りすぎちまうんだ
別に欲張りなわけじゃない
ただ、ちょうどいいと多すぎの境界線がわからないだけさ
これでも、自分にとって足りる分だけ得られれば、それでいいと思ってんだ
だが、その足りる分ってのを計る感覚が俺には欠如しているらしくてな
多いと思わず、少ないとも思わず、適切だとも思わず、なんとなく取った結果、過剰になっちまう
周りに指摘されたり、何かが起きてからようやく多すぎたと気づく
気づくだけで、どの程度が適切なのかは、全くわからないんだけどな
このアイスクリームだって、重ねすぎだなんてこれっぽっちも思わなかったんだぜ?
こぼれて初めて、ああやりすぎたんだな、とわかる程度さ
さらに、俺が得る側でなくても、適切かどうかわからない
ぼったくられても気づかないし、相手が求める以上に贈っちまう
仲間によると仕事も、自分で気づかず多くこなすことが頻繁にあるんだとさ
過労を心配されることもあるな
そう、俺は多さを感じられないんだ
だから、連中が人々から奪った金が多いのかどうかはわからねえ
俺が連中から奪った金が、連中が人々から奪った金より多くてもわからねえ
俺が連中から奪った金を、連中に金を奪われた人々に返す時、多めの金額になってもわからねえ
復讐に来た組織の連中が俺を囲んでいるが、その人数が果たして多いか少ないか、全くわからねえ
ただ、そんな俺にもわかることがひとつだけあるんだぜ
それはとても単純な事実だ
俺が連中ごときに負けるはずがねえってことだ
それだけわかってりゃ、何の問題もないのさ
そして、俺が今からぶちのめす連中の中で、最後のひとりになったやつ
そこまで頑張って立っていたご褒美だ
殴り倒して、地面にこぼれたアイスクリームを食わせてやる
砂利は混じっているが、味のよさは保証するぜ
このアイスクリームは溶けても美味いんだ

8/10/2025, 10:56:57 AM

友人が落ち込んでいる
無理もない
別の友人に、しばらく連絡しないでくれ、なんて言われたのだから
相手は理由を言いにくそうにしていて、聞いても答えてくれなかったようだ
別に怒らせたわけではないらしいが、ただ少し距離を置きたい、と言われたそうで、まあショックだよな
ちょっと慰めてやるかな
こういう時は友人のそういう言葉が必要なんじゃないか?
うまくいくかはわからないけど

「まあ、怒ってないんなら大丈夫だろ
ちょっとしたことで気分が乗らないとか、そういう感じじゃないのか?」

友人はこちらに顔を向けて、ため息をついた

「そんなやさしさなんて、いいよ
きっと俺がなんかやらかしたんだ
ほっといてくれ」

これはかなりダメージ受けてるな
まあ、本人もこう言ってることだし、俺も少し黙っておくか
下手に慰めるよりも、そのほうが心の整理ができるのかもしれないし
しばらく沈黙が続く
ちょっと気まずさを感じ始めた時、友人が口を開いた

「ほっといてくれとは言ったけどさ
こんなに放置することはないだろ」

ん?
え、なんて?

「俺、お前がもうちょっと突っ込んで話してくれんの待ってたんだぜ?」

あれ?
何言ってんだこいつ

「一回で引き下がらないでくれよ
もうちょっとさあ、なんかあるだろ?
もう少し頑張ってやさしい言葉をかけてくれって」

えーとつまり、こいつは俺の慰めを拒絶するふりをして落ち込んでますアピールをし、俺が粘って自分をもっと慰めてくれるのを期待したってこと?
何だこのカスみたいなかまってちゃんは
面倒くせえ
そんで自分でそれをバラして文句言うか?

「いや、そんなのわからんって
慰めてほしいの?」

「いや、そんな、言われたから慰める感じでやられても……」

お前が言い出したことだろ
というか、俺は最初っから自主的に慰める気満々だったよ?
なのに拒絶の言葉を発したのは誰だよ
俺はそこでなんとなく、こいつが距離を置かれた理由がわかった
全てはこの面倒くさい態度が原因だ
これまでそんなことはなかったが、それはたまたまであり、もともとそういう奴で、きっかけがあると面倒くさいスイッチが入り、今みたいなことになるのだろう
もう一人の友人は、今の俺と同じような状況になったものと思われる
そして面倒くさい本性を知ってしまったのだ
もう、これは本人に言おう

「たぶん、距離置かれたのはその態度が原因だと思うぞ」

目の前の友人は目をそらした

「時として、事実は人を傷つけるぜ?」

自覚あんのかよ
余計たち悪いな

「わかってるなら改善しような」

「これは俺の一種の性質でね
今さらこの癖を無くすことなんて……」

「俺やあいつに絶交されたくなかったら、友人相手に面倒くさいこと言うのやめような?」

こういう時は圧を与えるに限る
俺は向こうが言い切る前に言葉を割り込ませた
ヤバい、みたいな顔をしたあいつは、ひと呼吸すると、

「わかった、頑張る」

観念したように下を向いてそう呟いた
一応やる気はあるみたいだけど、本人が言ったように、そういう所を変えるのは難しい気がする
本当に改善できるか?
改善しろとは言ったものの、心配だ

8/9/2025, 11:00:10 AM

世の中には、二種類の人間がいる
風魔法発動のための感覚がわかる者と、風魔法発動のための感覚が全く理解できない者
間違いなく私は後者だ
私の適性は氷魔法だったけど、ついでに風魔法も習得しておくと便利だと言われたので、特訓し始めたのだけど
初っ端から風魔法の師匠が何を言っているのかわからなかった
風魔法の練習をする場所は、凪の間と言われる場所
この空間では、物理的な方法で一定の強さの風を吹かせることができない
手で仰げば、少しくらいの風は起こせるけど、その程度が限界
つまりほぼ無風
この空間なら、魔法で生み出した風が空気の流れに影響を受けづらいから、コツをつかむのにもってこいなのだ
で、師匠によると、凪の間を使う理由がもうひとつあって、風魔法を発動するために必要となるのが、無風の中で風を感じることだかららしい
ムフウノナカデカゼヲカンジルコト?
意味不明、理解不能、何語で喋ってます?
無風なのにどうやって風を感じるというのか
けど周りの人たちは誰一人として疑問に思わず、無風の中で風を感じ、魔法で早速小さい風を起こしていた
嘘でしょ?
来る前は氷魔法も超成績良かったし、そこそこいけるでしょ!などと考えていたのに
私は風魔法発動のための魔力すら練れなかった
なぜなら、存在しない風を感じるという妄想スキルを持っていなかったから
とはいえ、それは私が風魔法に向いていなかっただけで、きっと珍しいことではないだろう
誰しも得手不得手はある
習得できないのは残念たけど、氷を伸ばしながら、風以外の魔法習得を目指そう
そんなことを考えながら師匠を見ると、こちらを向いて驚愕の表情を顔に貼り付けていた
いつもはあんなに落ち着き払っているのに
どうやら私は常に冷静な師匠が驚愕するくらいの、とても珍しいレベルの落ちこぼれだったようだ

「あなた、ふざけているわけじゃないのよね?」

「え、はい、普通に意味がわからなかったです
無風で風を感じるとか」

師匠は何か言いたそうに口を開けるが、言葉が何も思い浮かばず、そのまま口は開きっぱなしだった
こういうのを唖然っていうのかな?

「氷魔法は、できるのよね?」

「はい」

「なんで?」

「私に聞かれましても……困ります」

氷魔法はだって、快適な温度から変わらない定温の間で存在しない氷の冷たさを感じるだけだから、簡単でしょ
風とは全然話が違う

「それができたら、風も感じられない?」

「え?
関係なくないですか?
氷の冷たさと風ですよ?」

「普通、発動するだけなら各系統の内ひとつでもできれば、全部できるのよ
無いものを感じるという点で、同じようなものだから」

なんてことだろう
どうやら私の感覚が風に対してだけ致命的に合っていないらしい

「もう一度、風を感じてみて」

「……ダメです、全然、発動の取っ掛かりすら掴めないです
その感覚は私にはありません」

「そんなバカな」

師匠が頭を抱える
しかし、何か思いついたようで、こちらに向けて強めの風魔法を吹かせた
風力はあるけど、無害なやつだ

「魔法で風を吹かせることであなた自身の体に風の感覚を覚えさせます
これできっと、あなたも風魔法を使えるわ
しばらく吹かせ続けるから、感覚を研ぎ澄ませて」

強いけど気持ちのいい風が吹いてる
これなら何か掴めるかもしれない
それなりの時間、風に当たり続け、寒くなってきたところで魔法が止まった

「忘れないうちに風の感覚を反芻しなさい」

「はい!」

…………
……


「師匠、全然わかりません!
無風の中に風は感じられません!」

「…………、…………!!
……!」

師匠は声にならない何かを無音で呟きながら再び頭を抱え、疲れた表情で座り込んだ
大丈夫かな?
私が心配していると、師匠が突然にこやかな笑顔で立ち上がり、私を見た
そして、それはそれはとてもいい笑顔をそのままに、こう言った

「あなたには風魔法の習得は不可能よ
諦めて別の魔法を頑張りなさい」

「はいっ!」

私も笑顔で返事をして、凪の間をあとにした
無理なものは無理だから、さっさと切ってできることに集中したほうがいいよね
あとで聞いた話では、あのあと師匠は数日間寝込んだらしい
そんなにショックだったのかな?

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