私はどんなに離れていても、念じることで対象を見ることができる
ペタメートルアイという能力だ
ほぼ千里眼だが、千里眼で見える範囲が392万7千メートル先なのに対し、私のペタメートルアイは半径5京メートルの範囲を見られる
想像がつきにくいだろうが、この距離は太陽系の範囲を超える
さらに、その先にいる生物に対してテレパシーも送れるわけだが、無意味すぎてその距離に使い道がない
見るのもテレパシーも、地球の範囲内で充分だ
たまに宇宙を覗くのだが、まあ面白くない
同じような宇宙の光景の繰り返し
さらに、念じる対象がはっきりしていないので、どこかの惑星や衛星を見て研究などに役立てようとしても、ピンポイントに星の中を見ることができないのだ
せいぜい離れたところから星の姿を見る程度か
だが、そんな無駄と思える能力の高さに、転機が訪れる出来事があった
宇宙人からのメッセージが届いたらしい
しかも、地球の言葉で
そのメッセージはこうだ
「我々は宇宙人だ
そして、この星に生命を誕生させた存在でもある
我が子らよ、この星に知的生命体を誕生させたいという我らが願いを叶えてくれて感謝する
我々の期待通り、君たちは永い進化の末、誕生してくれた
だが君たちは今、とても大きい、いくつもの困難を抱えているようだ
我々は皆の意思を尊重しながら、よりよい社会にするべく、生みの親として助力したい
1ヶ月後、我々は地球へ行くが、その前に我々と打ち合わせをしてほしい
ペタメートルアイを持つ者がいると思う
彼を介して話をしよう
我々は今、太陽系付近にいる
我々の存在を念じれば、彼の眼ならば届くだろう
テレパシーで会話もできるはずだ
惑星オノコロ ヤオヨロズ・シン族より」
我々は宇宙人に創られた存在らしい
衝撃的事実だが、それはともかく、私は宇宙人との対話や仲介役を任されてしまった
責任重大だ
私の眼の射程範囲がこんなところで役に立つとは思わなかった
とても緊張するが、これは私にしかできない
地球の行く末は私の能力にかかっているのだ
そして緊張と同時に、彼らがどのような姿で、どのように話すのか、興奮が抑えきれない自分もいる
さあ、あと少しで、ペタメートルアイとテレパシーで、宇宙人に接触する時間だ
「こっちに恋」
看板にそんなことが書いてある
散々さまよってきたけれど、これは僕の求めていたものなんじゃないか?
孤独感を拭い去るには、いい人を見つけ、恋でもするのがいいのかもしれない
恋があるのなら、向こうへ行ってみようか
恋なんて、あまりしたことはないけど
向こうへ行けば、この状況を打破できる
そんな気がする
僕は一歩一歩、看板の示す方向へ進んでいく
そうして進むなか、どこからか声が聞こえた
「あいにきて」
会いにきて?
誰が呼んでいるのだろう
会わなければいけない人がいただろうか?
いや、違う
会わなければならないのは、その通りだけど、そういう問題じゃない
ただ会うだけじゃダメだ
この声は、会いにきてと言ってるんじゃない
会いではなく愛だ
「愛にきて」
もう一度声が聞こえた
そうだ
恋なんてしている場合じゃなかった
恋はまた、するべき時が来たらすればいい
恋で孤独を紛らわせてる場合じゃないんだ
いや、僕は孤独だったんじゃない
向き合わず、遠ざけていただけだ
恋に逃げるわけにはいかない
真正面から話さないといけない相手がいた
その相手の愛へ向かって行かないといけない
そして、僕の失っていた愛を取り戻して、その愛を伝えないと
そこで目が覚めた
どうやら夢を見ていたようだ
目の前には、姉と弟、妹がいた
僕は姉と大喧嘩して、絶縁するつもりで家を出て、勝手に孤独感に苛まれていた
三人とも心配そうに僕を見ている
いつの間にか、今住んでるところの目の前にある公園で眠ってしまったらしい
きっと、僕の居場所を知って会いに来て、公園で眠る僕を見つけたのだろう
とにかく、謝らないと
そう思って口を開こうとすると、姉が僕を抱きしめた
すごく、温かい
ごめん
もう、こんな馬鹿なことはしないよ
三人の愛が痛いほどわかったから
僕も、たくさんの愛を持って、家に帰ろう
大事な家族を、今度こそ大切にしよう
「……なので、それを続けていれば、あなたを評価してくれる方に巡り逢います」
「ありがとうございます!
頑張ってみます!」
私は占い師だ
超インチキ占い師だ
自分で知識もなく考えた、独自の適当な儀式をして、客の話を聞いた後、色々それっぽいことを言い、「あなたの運命を変える方と巡り逢いますよ」と言うだけの簡単なお仕事
だいたい自信満々に断言すれば、みんな晴れやかな笑顔で信じてくれる
……意味がわからない
私の怪しさ満点の占いのどこに信じる要素があるのだろう
とてつもなく嫌なことがあって、もう人生棒に振ってやれ、とやけくそで始めただけなのに、やたら評判がいい
リピーターも多いのだ
私みたいな適当なことしてる人間が、うまくいく世の中なんて間違ってるでしょ
いや、自分でやっといてなんだけど
この仕事始めてから、私生活もなんか、いい方向に向かってるし
なんか、都合よく行き過ぎて怖い
ちょっと占い師にでも相談しようかな
「占い師が占ってもらうってどうなのよ」
それはそう
目の前にいるのは、ベテラン感満載で、雰囲気出まくりの評判のいい大先輩占い師
「私、インチキなので
占ってもらっても問題ないかと」
「声を大にして言えないけど、あたしだってインチキよ
ま、でも話はわかったわ
あんたがうまくいってる理由、教えてあげるわよ」
大先輩の視点に期待しよう
占いはインチキらしいけど
「インチキ占い師に必要な能力、わかる?」
「図太さ?」
「ハッハッハッ、違いない
でもね、一番大事なのは、相手の話を引き出し、長所と短所、人となりを理解することね
それができるやつはインチキ占いでうまくいくのよ
長所を伸ばし、短所の改善や補うためのアドバイスができるからね
で、あんたお得意の巡り逢いますよ、だけどね、そう言われると人は他人に興味持って、積極的に関わろうとするのね
結果、自分で勝手に味方を見つけて、占いのおかげだと思うわけ」
なるほど
でも、私は特にそんなにうまいこと占いができてるとは思えないけど
相手の心理を利用する勉強もしてないし
「そうそれ
ハッキリ言って、あんたは無自覚にやっちゃってる天才肌なのよ
たぶん、あんたは他人への興味が強くて、話もちゃんと聞く
さらに人を見る目がある
その上で相手の身になって的確なアドバイスをしちゃうってわけ
うまくいかないわけがないわよ」
「私にそんな才能が……」
努力したこっちからしたら羨ましいわよ、と大先輩は締めくくった
怖がる必要はなかったか
実は天職なのかも
この人にたまたま巡り逢えてよかった
ラーメン屋のカウンターで沈んだ私に声をかけてくれて、占い師をやる場を用意してくれたのはこの人だったから
「ま、そんな感じだから、自信持って続けたらいいのよ
私生活がうまくいってるのも、あんたが仕事を頑張って、軌道に乗って、心が楽になってるからなんじゃない?
まあともかく、なんかあったらまたあたしに相談しなさい
お金はもらうけどね」
「はい、ありがとうございます!」
「たまにはあたしの悩みも聞いてくれると助かるわ
聞くだけでもいいから
もちろん、お金は払うわよ」
「わかりました!」
せっかくいい感じにできてるから、これからもインチキ占い師、続けよう
……天職に出会えた、これも巡り逢いかな?
私はいつから旅をしているのだろう?
昨日までの記憶はあるが、いつ旅を始めたのかと問われたら、まったくわからないと答えるしかない
そこだけが曖昧だ
確かなことは、私は普通の人間では生きられない年月、旅を続けているということ
100年ではきかないだろう
旅の中で、嬉しいことも、悲しいこともあった
数え切れないほど、他者の幸福な場面に立ち会った
数えたくもない数、他者の不幸な場面に立ち会った
それらを思い出にしながら、旅をする
なんのために旅を始めたのか、もう覚えていないが、それでも私は旅を続けている
惰性だろうか?
それとも、記憶の隅に残る理由に突き動かされている?
なぜなのかはわからない
しかし、そんなことはどうでもいい
私は今を楽しんでいるのだから
いや、それこそが私が旅をする理由だ
始めた理由は、今となっては関係ない
今、私が楽しんでいる
その事実が大事なのだ
様々な場所へ行った
様々な人と出会った
これからも様々な場所へ行くだろう
これからも様々な人と出会うだろう
同じ場所でも、時代が違えば様変わりすることもあるし、世代も変わる
同じ場所でも、行くたびに新しい発見がある
この世界は飽きることがない
さあ、今度はどこへ行こう
どこだろうと、きっと私は楽しむはずだ
私の旅はこれからも、ずっと続く
祖母がアイドルグループにハマった
以前から元気な人だったけど、よりテンションの高い人になった気がする
ユーパイプで公式MVを見たり、出演するテレビ番組もチェックして、日々楽しそう
彼女たちを見る目は完全に孫に対する眼差しなので、私はちょっと嫉妬してしまう
でも、祖母はとても幸せそうだし、別に私を可愛がってくれなくなったわけじゃないから、なにも問題はない
むしろ、そんな祖母の姿を見るのは私も好きだ
祖母の愛は大きくなり、ファン活動が活発化していく
そして、ついに苦労の末ライブのチケットを手に入れた
二枚も
私に予定を聞いたと思ったら、一緒に行きたかったらしい
ライブの日は予定が空白なので、私は連れて行ってもらうことにした
私以外の子供やら孫やらは興味がなかったり、予定が合わなかったという
なんだか久々に一緒の遠出な気がする
いつ以来だっけ?
ライブ当日、祖母はワクワクしていて、私もつられてワクワクした
ついでに、つられて買う気のなかったグッズも買ってしまった
私が小さい頃から面白くてすごく元気な祖母が、ライブが始まると、まだ上があったのかと衝撃を受けるくらいハイテンションで楽しみ始めた
もちろん、周りの人に迷惑にならないよう、ルールや注意事項の範囲内で
ライブも楽しいけど、改めて祖母のグループへの大きな愛が感じられて、なんだか私の方もとても幸せな気分になった
来てよかったな
これからも目一杯楽しんでね
応援してるから