雪原の先へ行っても、雪原は続く
見渡す限り白銀の世界
地面も白ければ曇り空も白い
白、白、白、白
雪、雪、雪、雪
もうたくさんだ
こんな一色しかない世界にいたら狂ってしまう
僕の体も、石膏のように白くなっている
逃げ場がない
いつまで歩けば許される?
どこまで行けば終わるんだ?
僕が罪深いことはわかる
だからといって、こんな目に合わなければいけないのか?
あんなことになるなんて思わなかったんだ
触れてはいけないものだとは知らなかったんだ
僕が「あれ」に、不用意に触れたせいで世界の法則が書き換わってしまった
発生するはずのない、発生してはいけない現象が起き始めたのだ
管理者は怒り、僕をこの牢獄で償わせることにした
ただ、白い世界を歩き続ける罰
もはや拷問だ
管理者なら、誰かが触れられないようにしておけばよかったんじゃないのか?
管理を怠っておいて、僕ひとりに責任を押し付けるなんて傲慢だろう
いつの間にか、あたりの様子が変わってきた
空は赤くなり、雪原の雪は解け、紅の水が地面に張っている
怒り
僕の怒りに呼応して、世界の有様が変わっているのだ
僕が「あれ」に触れて、法則が書き換えられた
だから法則を理解できたし、その法則を利用することもできる
書き換えられた法則を用いて、管理者へ復讐を果たす
さあ
ここから出て、管理者のもとへ……
僕の心には、暗い炎が宿っていた
俺はいわゆる雑魚モンスター
この世界で新米戦士の経験値となるために生まれてきた存在
Lv1からLv3くらいの戦士が俺を狩るのだ
ああ、安心してくれ
俺は倒されても蘇る
そう設定されているからな
当然のことながら、俺に負けるようなことがあってはお話しにならないので、冗談みたいに弱く設計されている
その弱さの原因のひとつが、「白い吐息」という行動だ
文字通り、俺は白い吐息を放つ
以上
「しかしなにもおこらない」、というやつだ
超雑魚モンスターにありがちな、無意味な行動
万が一にも、新米戦士を戦闘不能にしないようにこうなった
他にも「たいあたり」とかあるのだが、4割の確率で「白い吐息」を発動する
俺に負けるような新米戦士は、もう向いてないどころか、わざと負けたとしか思えない
俺がいかに弱いかがわかってもらえたと思う
さて、そんな日々を送っていた俺だが、チャンスが訪れた
戦士はモンスターを倒すことで経験値を取得し、レベルが上がる
しかし、モンスターは相手にダメージを与えただけで経験値を得られるのだ
それは倒されても引き継がれる
ただし、レベルが上がっても強さは変わらない
途中までは……
モンスターは一定レベルに達すると、クラスチェンジへの挑戦権が与えられる
上位モンスターへ進化できるというわけだ
俺の種族名をまだ言ってなかったな
俺はスノウボール
氷属性の最弱モンスターだ
いや、雪玉じゃないぞ
雪玉みたいな見た目の真っ白い球状のモンスターだ
大福なんて呼ばれることもある
そして、俺はついにクラスチェンジに挑戦可能になった
失敗すれば経験値はパー
最初からやり直しだ
上位モンスターが量産されたら困るから、これは仕方ない
クラスチェンジ挑戦権を持つ同種のモンスター複数名で戦い、最後まで残ったものが上位種となる
俺は緊張しながら戦いに挑むのだった
……結果を言おう
俺は勝った
クラスチェンジ達成だ
キラースノウ
それが俺の新たな種族
危険性が明らかに増した名前だ
そして、使える技を知って興奮した
無意味に思えた技、「白い吐息」も「白い息吹」へと強化
この技は、相手全体に対して氷属性の魔法攻撃を行うものだ
さらに、これはキラースノウの主力攻撃だった
ただの無駄な行動だった技が、俺の主力となる
こんな熱い展開があったとは
まあ、俺は氷属性だから熱いのは苦手だけど、熱いのは心で、心が熱くなるのは好きだから問題ない
俺は気持ちを新たに、頑張ってさらに上を目指そうと気合を入れた
消えない灯りが今日も僕たちを照らしている
決して直視してはいけない
しかし、その輝き無くしては生きていかれない
太陽
輝きが見えなくなる暗い夜も、その影響は続く
そして、夜が明ければ再び大地を照らす
古代エジプトなどで信仰の対象になるのもうなずける
あまりに遠く、しかしその存在や影響はあまりにも身近で強大だ
恐ろしさすら感じるほどに
ただ、癒やしや温かみを太陽に感じるのも確かだ
まぁ、そんな話はおいておいて
その消えない灯りたる太陽が顔を見せてくれない時代を、僕は趣味で観測している
タイムマシンのテレビ版で
人はタイムトラベルできないが、好きな時代の映像を見られる優れもの
真っ先に人類の歴史的な出来事を見る人も多いのだろうけど、どうせだから人類誕生よりも遥か遥か前を見ることにした
その時代は、三畳紀後期
2億3400万年前から2億3200万年前までのどこか
カーニアン多雨事象と呼ばれる事象が起きた、200万年続く雨の時代である
そんなに詳しいわけじゃないけど、海での大規模な噴火によって、恐ろしく長い間、雨が降り続けることになったらしい
しかし、本当にすごいなこれ
大迫力だよ
たしかこの雨で恐竜が多様化したんだよね
でも、この時代を生きた生物たちは太陽の温もりや、輝きを知らずに一生を終えたんだよなぁ
彼らは別に気にしてない、というか気にする知能も知識もないだろうけど、晴れの日の気持ちよさを知っている人類目線だと、なんだか可哀想な気がする
雨の天気しか知らないのかと
そんなことを考えてしんみりしていたら、一瞬画面に変なものが映った
何かが飛んでいたような……
翼竜……はもう少しあとだよね
鳥は恐竜からの進化説もあるくらいだから、いるはずがない
そもそも、なんか銀色の円盤だったような
巻き戻して停止してみる
いわゆるUFO的なやつだった
宇宙人!?
この時代に宇宙人来てたの!?
何しに!?
ズームしたら、窓からカメラで写真らしきものを撮っていた
宇宙人って、あんなわかりやすいカメラ使うんだ
宇宙人の姿は、いわゆる銀色のあれで、なんだか興奮した様子だった
もしかして、彼らは単に観光旅行に来ただけでは?
というか、当時であのレベルの文明って、彼らの星は今どうなってるの?
実は現代の地球にもいたりして
きらめく町並み
このきらめきは何?
なんでこんなに町がきらめいてるの?
「これはね
コンフュージョンのおかげだよ」
なるほど、町がきらめいて見えるほど、私の心が混乱しているってことだね
ってそんなわけあるかい
「間違えた
カーネーションのおかげだよ」
あれ?
母の日が変わったのかな?
町を挙げてのお祝いなんて素敵だね
ってそんなわけあるかい
「違う違う
ハルシネーションだった」
なるほど、このきらめきは存在しない、ただの幻覚なんだね
私にしか見えていないのか……
ってそんなわけあるかい
「今度こそは正しく言うよ
ターミネーションだよ、うん」
ここからはきらめく時間です
きらめきのない日々はここで終了
完全終了するのです
ってそんなわけあるかい
「あーそうそう思い出した
ソリューションだ」
このきらめきこそが、この社会における様々な課題の唯一の解決策だ!
ってそんなわけあるかい
「やっぱり違ったよ
エクステンションで間違いない」
このきらめきこそが、この町を拡張していくことに大いに役立つのだ!
ってそんなわけあるかい
「わかった
デコレーション、これで決まり」
このきらめきは人々が町を飾り付けたかったから実現したんだ
この言葉、合ってるっちゃ合ってるから、もうこれでいっかな
ってそんなわけあるかい
「ああそうだ
パルプ・フィクションじゃなかったっけ?」
きらめく町並みなんてものは、ありきたりすぎて、まるで安っぽい小説みたいなものだよ
ってそんなわけあるかい
「これは流石に合ってると思うよ
イマジネーション」
そう、この美しいきらめきの数々は、人々の想像力の賜物
素晴らしい想像力によって私たちはこの光景を見られるのです
ってそんなわけあるかい
イルミネーションでしょうが!
このきらめく町並みを作り出しているものはイルミネーションだよ!
いい加減にしろ
「どうも、ありがとうございましたー」
「この手紙は秘密の手紙です
絶対に読まないでください」
弟の字で封筒にそう書かれた手紙がリビングに置いてあった
なんとも子供じみたいたずらだな
もういい歳なのになにやってんだか
どうせ手紙には「バカが見る」的な、それ系の内容が書いてあるんでしょ
くっだらね
こんなもの無視するに決まってんのになぁ
弟ももうちょっと凝った罠を仕掛ければいいのに
もしかしたら凝った罠は思いつかなかったのかもしれないけど
もしそうだとして、こんなレベルの低い妥協をするくらいなら、中止したほうがいいんじゃないの?
私がこんなバカバカしい罠に乗ると思ってるのがまたムカつくな
舐めんなっつの
まったく……
…………
……いやいやいや、流石に見ないよ?
全然気になんてならないし
いやでもせっかくね、弟が仕掛けた罠だし?
かかってやるのも姉の務め的な?
断じて好奇心だとか、中身が気になるとか、そんなんじゃないから
本当に
じゃあちょっと、弟のために罠にはまりますか
あくまで、弟のために、ね
「ヨンダナ
ユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイ……」
私は固まった
恐ろしいフォントの赤文字で恐ろしいことが書いてある
ちょっと待って、いくらなんでもこれは予想外すぎだよ
ちなみに私はホラーが苦手だ
超苦手だ
そして、こんなもん見せられたら私の心は恐怖一色に染まる
まぁでも大丈夫
弟のイタズラだから
単なるイタズラ
あとで弟を叱ってやろう
姉を舐めるなと
とにかく、一旦自分の部屋へ戻ろう
そう思って振り向くと……
真っ黒い目と真っ黒い口から真っ黒い液体を垂らした弟がそこに立っていて……
「びゃああああ!!!」
私は絶叫しながらその場で尻餅をつく
「いやぁ、ここまで効果抜群とは思わなかったよ」
弟はガタガタ震える私を前に、笑いながら顔に貼り付けた紙製の黒い目と口と液体を剥がした
私は一瞬で弟の恐るべき罠の内容を悟る
「それにしてもどんだけホラーが苦手なんぶへっ!」
涙で目の前がぐしゃぐしゃになりながらも、私は弟の左頬にパンチを食らわせた
「このっ、バカアホカスゴミクズ!!」
混乱と怒りの中で思いつく限りの罵詈雑言を吐き、私は自分の部屋へ向かった
しばらく口を利いてやるもんか
これは明らかに一線を越えている
……結局あとで弟が心底申し訳なさそうに謝罪をし、私の好きなケーキを持ってきたので、もう許してやることにした