「タイムマシーンが完成したぞ、助手くん!」
博士はついに狂ってしまったようだ
一昨日まで「タイムマシーンなど作ることは不可能なのだよ」なんて言ってたのに
きっと研究に没頭しすぎて頭をやられてしまったんだろう
「そうですか
では明日病院に行きましょう
大丈夫、博士ほどの人なら治療すればすぐ元通りです」
「ぶん殴るぞ助手くん
私が製法を手にし、昨日から徹夜して完成させたというのに、病気扱いとは」
なんてことだ
きっと博士はガラクタを作って、それをタイムマシーンだと思いこんでるんだ
可哀想に
僕がもっとしっかりしていればこんなことには……
「本当に蹴り飛ばすぞ助手くん」
「だって博士はタイムマシーンが不可能であることを証明したじゃないですか」
その時、僕は心底安心したのでよく覚えている
タイムマシーンは歴史改変とかの心配があったからだ
「確かに私は証明した
しかし、それは方法のひとつ
法則のひとつに過ぎないのだよ
別の法則を利用すれば可能であることがわかった
そしてタイムマシーンは完成したわけだ!」
そんなバカな
仮に実現したとして、一回徹夜しただけで完成するはずがない
「一日でそんなもの、開発できるんですか?」
「不可能に決まっているだろう
法則がわかっても、様々な手順、段階を踏んで、成功と失敗を繰り返し、長い時間をかけねばそんな高度なものは作れんよ」
何言ってるんだこの博士は
「でも、完成したんですよね?」
「完成した
しかし私は完成させただけで、ほとんど作っていない」
どういうことだ?
「君に紹介したい人がいる
未来から来た私です」
目の前に博士の面影のある、しかし博士より年齢を重ねたであろう女性が現れた
「なつかしい顔だな、助手くん
未来の君はもっと老け込んでいるというのに、ピチピチじゃないの!」
嘘だろう
「未来の私は長い時間をかけてタイムマシーンを完成させ、現在へやって来た
未来の技術ならタイムマシーンを簡単に作れるらしくてな
タイムマシーンを製造する機材も持ってきて、私にも作ってくれたわけだ」
理解が追いつかない
なんで過去へ行ってタイムマシーンを作ってあげちゃったんだ
「ただ、コアとなる機械は、持っていくと時間跳躍時にタイムマシーンの不具合を引き起こすから、持ってこられなかったのだ
だから現在の私に作り方を教え、完成させてもらったわけだな
若いから吸収が早くて助かった」
思い切りタイムパラドックスな気がするが大丈夫じゃないだろう
僕は頭が痛い
「これ、色々とマズいのでは?
歴史が変わってしまいますよ」
「問題ない
君たちの歴史は今を生きる君たちのものであるからして、私が介入したところで、それ込みで君たちの歴史になる
ちなみに、私の未来は何も変わらない
別の時間軸となるわけだ」
「だから助手くん、心配はいらない
私たちと一緒に、時間旅行を楽しもう!」
何をバカな
そんな説明をされても、介入すること自体が危険行為じゃないのか?
それに、行った先で何が起こるかわからないし
ここは僕が常識人枠として狂気の博士たちを阻止せねばなるまい
「わかりました、行きましょう!」
……誘惑には抗えなかった
ワクワクした自分に嘘は吐けないのだ
僕は二人の博士とともに嬉々としてタイムマシーンで旅立つのだった
君に会いたくてしかたない
どうして君は私の傍にいないの?
どうして私は君の傍にいないの?
無理
我慢できないよ
君に会えない時間が辛い
体が震える
写真を見たって満たされない
壁一面にたくさんの君が写ってるのに、全然嬉しくない
パックに入れた君の毛を眺めても、苦しみが増すだけ
本物の君じゃないとダメ
でも君はここにはいない
そうだ、いないなら会いに行けばいいんだ
もうなんでもいいから、部屋を飛び出して今から会いに行こう
待ってて
今から君のもとへ向かうから
思いっきり抱きしめて、それから、それから
アハハハハハハ!!
合鍵で扉を開ける
すると、そこに君はいた
私は思い切り抱きしめる
君も嬉しいよね
私が来て嬉しいよね
だって、こんなにも尻尾を振ってるんだもん
ただいま、ワン太郎
久々の実家は、ワン太郎の匂いだった
嘘だろ
パスワードが違うだと
パソコンで書き溜めた日記が開かない
閉ざされた日記になってしまった
メモにあるパスワードは、日記のものだと思ったんだけど、なんのパスかは書いていない
どうやら違ったみたいだ
このメモだと思ったのに
別に大したことは書いてないと思うけど、何年かぶりに見てみようと思ったのだ
今は紙の日記帳に書いているから、文の書き方も違うだろう
そういうところも楽しもうとワクワクしながら開けようとしたら、このザマだ
しかし、昔の俺はパスワードを書いたメモのヒントをテキストファイルに入力、それをどこかのフォルダにわかりづらい名前で保存していたはず
記憶を頼りに、ヒントを探す
たしかこのフォルダだったはず
フォルダを開くと、いくつか並ぶテキストファイルの中に、明らかに怪しい名前のファイルが
「dwsp」
パスワードを英語で略して逆にしただけだった
わかりづらいといえばわかりづらいが、非常にわかりやすい名前
開くとヒントが載っていた
龍の立つ場所だそうだ
すぐにわかった
飾ってある龍のフィギュアの下に敷いてあるプリント紙
そこにパスワードが書いてある
そうだった
思い出した
そしてこの時、日記について嫌な予感がしたが、俺は好奇心に押されて不安を無視し、パスワードを確認した
よし、これで開くぞ
俺は早速、日記をダブルクリックした
…………
これはいかん
俺は青ざめた
なんでかって
とても他人様にお見せできるような内容ではなかったからだ
当たらなくていい予感は見事的中
この日記ヤバいぞ、だいぶ
どんな内容だったのか?
それはもう……痛いし嘘だらけ
それだけ言っておこう
本当に、誰かに見せるわけにはいかない文章の数々だった
あまりにもあんまりな、日記か疑わしいレベルの問題作
この日記を書いた時の年齢がそうさせたのだと思う
俺はファイルをそっと閉じる
捨てるのはさすがにもったいないので、俺は再度封印することに決めた
このひどい内容が気にならなくなるまで、決して開けないようにしよう
「美しい」
ひとりの男性が、僕の作品を見てそう言った
僕は嫌な気分になった
彼はいったい何を美しいと感じたのか
僕の作品は出来が悪く、お世辞にも上手いとは言えない
なのに、僕の父が高名な芸術家だからと、まるで僕も才能があるかのように周りが持て囃し、個展まで開いて今に至る
僕は作品作りが好きだ
だからといって、七光で評価されるのは嫌だ
それは僕への評価ではなく、父への評価だから
そして、好きだからこそ、自分の実力が個展なんかを開くに値するものではないとわかる
断ればよかったのだろうけど、言い訳に聞こえるかもしれないが、押しに弱く、了承してしまったのだ
みんなの目当ては僕じゃなく父の名声
きっとあの人も、父の才能を見て、無理やり僕の作品を評価したのだろう
「さすがは、かの六畑現之助のご子息
実力がとても高い
溢れんばかりの才能を感じますね」
周りの人もそんなことを言っている
本気で言ってるのか?
僕の作品に対して?
おかしいと思っても同調圧力を感じて言えないか、本当に見る目がないか、どっちかなんじゃないか?
しかし、美しいと言った男性が次に呟いた一言に、僕は驚いた
「いや、別に才能は感じないし、ハッキリ言って未熟だよ」
「え?
いや、しかし、これは六畑さんのご子息の作品で」
「六畑さんが優れた作家なのは知っている
だが、それとご子息の才能は関係ないよ」
「し、しかし、桜地さんも美しいと言っていたではありませんか」
僕は面白くてニヤニヤしてしまった
桜地さんと呼ばれた人がさっき美しいと言った真意はわからないが、知ったかぶっていた周りの人が、僕の才能を否定されて狼狽えるさまは笑える
そうだよ、桜地さんの感想が本来の僕が受けるべき評価なんだよ
しかしその後、桜地さんは思いもよらないことを話し始めた
「ああ、僕が美しいと言ったのは、作品が上手いってことじゃないんだ
たしかに未熟だけど、全ての作品の端々に真剣に努力したあとが伺える
一度大きく評価された人は、自分のスタイルに縛られて、保守的な作品になったりもするんだけど、これは自分を高めるための挑戦を感じるよ
この作者は、作品を作ることを本気で楽しんでるんじゃないかな?
こうして作品に向き合う心はとても美しいと思うし、幸せなことだよ
今は未熟でも、その気持ちを持ち続けていれば、才能も開花するかもね
僕も、初心を思い出せた
来てよかったよ」
周りの人は呆然としている
僕も、呆然となった
この人の言葉は、僕の心に強烈な衝撃をもたらした
そうだよな
上手くなくても、プロになれなくても、自分が好きで楽しんでいられれば、幸せなんだ
僕は、僕の好きなように作品作りを楽しんで、自分を高めていこうと改めて思えた
桜地さんには感謝だ
あとで知らされたけど、桜地さんは別の名前で活動している超有名な人だった
名前を聞いて卒倒するかと思ったほどのレベルだ
この世界は美しい
今決めた
みんなすぐ醜いとか言いたがるし、実際悪いことが日常茶飯事でよく起こるけど……
だからといってネガティブな思考でいなければならないわけじゃない
私はポジティブなことに目を向けてみようと思う
大げさなことじゃなくていい
今朝見た動画が面白かったとか
美味しいものを食べられたとか
友達といったカラオケではっちゃけたとか
そんなのを積み重ねて行けば、十分世界が美しく見えるんじゃなかろうか
ネガティブなことがあるなら、ポジティブを増やすことを考えて、相殺できればよし
プラスになれば最高
世の中そういうものかもしれない
ところで
そんな私でも、どうしようもない世界の醜さを見せつけられた時には激しい怒りをたぎらせた
あれは昨日のこと
見事な土砂降りだった
普段なら嫌な気持ちになるところだけど、新発売のケーキを買って気分良く自宅へ向かっていたのだ
そのさなか、車が私の横を過ぎる時、水たまりに突入して、はねた水しぶきが襲い掛かってきた
あまりに突然のことで驚いた私は、よりによってケーキを落下させたのだ
さらにふらついて建物にもたれかかった瞬間、自転車が急いでいたであろうとわかるけっこうなスピードでケーキをひき逃げしたのである
落としただけなら、形が崩れただけで済んだだろう
自転車にひかれたら、それはもう食べられない
あんなに楽しみにしていたのに
私はあの瞬間にこの世界の醜さを悟った
この世は基本的に不幸になるようにできているのだと
私の幸せなど、ケーキが潰れただけで容易く崩れ去るのだと
そして、幸せになるには相応の実力と運が必要なのだと
まあ、今日になったらすっかり機嫌を直して、見ての通りこの世は美しいとか、真逆のことを平然と言ってのけるくらいになったんだけどね
それくらいがちょうどいい
ともかく、ネガティブなことを言ってるとネガティブな考えへと引っ張られて幸せを取り逃すだろうから、ほどほどにしといて、ポジティブを探して行こう