「この場所で……決着をつけよう」
ラスボスAが城の前の広場で、落ち着いた口調で俺に告げる
大切な人を救えずに闇堕ちした悲しきラスボスAは、しかし俺の求める敵ではなかった
「悪いけど、ハメ技で倒させてもらうわ」
「なに?」
俺はそのままラスボスAが行動する暇も与えず、数ターンでハメ殺しをして倒した
「この私が、こんな容易く討たれるとは……これも復讐心の代償か
カタリナ、今、君のもとへ……」
情緒もなにもないが、これでいい
俺がラスボスAを倒すのは7回目なのだ
もう一度やり直さないといけないのに、ラスボスAに苦戦している場合ではない
次の周回だ
ラスボスは分岐によって5人のうちの誰かに変わる
ラスボスAはカタリナが途中で死亡した場合にラスボスになる
今の所、他のラスボスに関しては、特定のイベントを達成前にある事実を知ってしまった場合にラスボスになるラスボスC、俺が特定の人物を殺害するとラスボスになるラスボスD、俺が特定勢力に入るとラスボスになるラスボスEと戦闘済み
しかしラスボスBとだけ戦っていない
フラグ管理がシビアなのだ
ラスボスAの条件を、カタリナ死亡以外すべてを満たした時、ラスボスがBになるわけだが、カタリナが死ぬと当然、ラスボスはAになる
そして、カタリナはうっかりしてるとすぐに死ぬ
どんだけ死神に愛されてるのか、と言いたくなるくらいちょっとしたミスで死ぬ
ラスボスA、B分岐ルートでの世界のカタリナへの殺意が半端ない
おそらく、俺はラスボスAの次にカタリナの幸せを願っている
だって、そうしないとラスボスBと戦えないから
そして、厄介な事実がここにある
カタリナの生死とラスボス確定を知るタイミングは、ラスボス戦なのだ
俺は毎回、空から城の前の広場に降り立つラスボスの声と顔を祈るような思いで聴き、見る
そして毎回カタリナが死んでいて、ラスボスはAになるこの地獄
正直俺は嫌になりかけたが、今度こそはBと戦う
今まで取っていない選択肢の存在に気づいたのだ
普通、カタリナを生存させたければ絶対に取らないであろう選択肢
この俺が直接、カタリナを殺害する選択肢だ
矛盾するように見えるかもしれないが、俺はピンときた
この選択肢の出る場面が、明らさまに不自然なのだ
今まで守る、助ける選択肢しかなかったのに、ここに来て突然、カタリナには世界にとって不都合な部分があるから、これ以上カタリナを巡って争いの輪を広げないようにと、俺が殺す選択肢
俺はそこになんらかのトリックを感じ、一縷の望みをかけて選択した
崩れ落ちるカタリナ
叫ぶラスボスA
退散する俺と仲間たち
俺は魔法をカタリナへ撃ったわけだが、派手な代わりに、気絶させるだけで怪我もしない程度の威力の電撃
これで周りはカタリナが死んだと思うし、カタリナのもとへ駆け寄ったラスボスAだけはあとで生存に気づき、どこかへ潜伏するだろう
完璧だ
ラスボスAはラスボスではなくなる
そして、運命の時
「この場所で……決着をつけよう」
ラスボスAと同じセリフを言っているが、声も姿も異なる
世界を救うため、カタリナを犠牲にしようとした男
そいつがラスボスBだ
AルートではラスボスAに復讐で殺される
ようやくBルート
「この時を待っていたぜ」
俺は気合を入れて、初めてラスボスBとの戦いへ臨むのだった
「当店のスマイルは有料です」
気持ちのいい笑顔で対応してくれた店員さんが、恐ろしいことを言い放つ
私は自分の耳を疑った
スマイルが有料?
こちらから要求もしてないのに?
「ご納得いただけないのも無理はありません
しかし、これには理由があるのです」
店員さんによると、これも従業員への負担軽減策なのだという
楽しくもないのに客に笑顔を振りまく
ふざけた客にも笑顔を振りまく
こちらが頑張っていつも笑顔を貼り付けて対応すれば、それが当然だと客はつけ上がる
「しかし、従業員も人間です
調子の悪い時もあれば、とてもじゃないけど笑顔になんてなれない状況も出てきます」
それはそうだ
常に絶好調で働ける人なんていない
世の中には、店員さんをレジ用ロボットか何かと勘違いしているような、礼儀知らずな客もいる
その中で笑顔を絶やすな、なんて私にはとても言えない
「ご理解、痛み入ります
しかし、それでも我々はできるだけ笑顔を保ち続けなければならないのです
もはやそれが世の中の普通になってしまったので
そこで、笑顔に利益を生み、そのお金がそのまままるごと従業員のポケットに入るようにすれば、従業員も笑顔で働けるのではないか……そう思ってスマイル有料が導入されたのです」
なるほど……
店員さんたちが負担なく働けるように、あえてスマイルに実益を与えたわけか
それに有料にすれば、スマイルが当然という風潮も無くなるかもしれない
でも、逆にお金をもらう以上、余計に無理やり笑顔にならないといけないんじゃあ……
「大丈夫です
問題行動が確認されたお客様にはスマイル分返金の上、態度をなんとなく悪くして対応しますので」
防御もちゃんとしてた
「ということで、スマイルが有料でもよければ、ご注文をどうぞ」
私はスマイルにもお金を払うことに決めた
こういう仕事をしたことがないので店員さんの苦労はわからないけど、日々かなり大変そうだと思ったから
私は少しでも、頑張る店員さんを応援したい!
注文を終えた私は、上乗せされたスマイル代も払い、心の中でエールを贈るのだった
Kiss
ああなんてロマンチックな言葉だろう
二人の愛を育む尊いものだ
しかし俺が今しているキスは、ロマンもなにもない、嫌なものだ
問題は俺がキスしている相手
嫌なのだからもちろん恋人などではない
ならばキスの相手は誰か?
人間ではないし、動物でもない
地面だ
俺は地面にキスしている
あまりの衝撃で痛む体を動かせない
あんな化物だなんて聞いてなかったんだ
束になってかかりゃボコボコにできると高をくくってた俺を責められるやつはここにはいないだろう
みんな同じことを考えていたはずだからな
まずは蹴りで五人ふっとんだ
次にパンチ二発で四人が回転して倒れた
その後、チョップで俺が地面とキスをした
あとは、仲間の怒号と悲鳴が聞こえて、なんとなくどういう状況かわかる
この世に主人公がいるとしたら、ああいうやつなんだろうな
そんな考えが頭に浮かぶ
くだらないことを考えているのは余裕があるからじゃない
現実逃避して今日の出来事がトラウマになるのを必死に防ごうとしているからだ
効果のほどは怪しいが
このぶんじゃ、あいつはボスのもとまでたどり着くだろう
そうなりゃこの組織もおしまい
カリスマ性はあるが、椅子に座ってふんぞり返るだけのボスじゃ勝てるわけがない
あーあ
こんなことになるんなら、組織に誘われた時に断っとくんだったな
これが金に目が眩んで道を外れたやつの末路か
因果応報ってこういうのをいうんだな
ま、生きてるだけいいか
相手が相手なら俺はとっくに殺されてただろうぜ
道は厳しいが、今度はまっとうな職について、まっとうな生活をしないとな
しかし、俺もキスできるくらいのラブラブな恋人が欲しかったぜ
地面じゃ恋人にできねえよ
彼は1000年先も見通す未来視の能力を持っている
彼の能力を欲しがるものは多い
そのため、彼の力を悪用されないように、時の権力者は彼に広い屋敷を与え、そこから出ないように命じた
彼の人としての尊厳を守りたいものたちは、一生を屋敷の中で過ごさせるつもりかと抗議の声を上げたが、決定が覆ることはなく、彼は残りの人生を屋敷で過ごし続けることになってしまう
ある者は嘆かわしいと怒り、ある者は哀れみ、ある者はしかたのないことだと諦めた
しかし彼自身はこの処遇について、どう思ったのか
一生屋敷の外へ出られぬことに絶望したのか?
否
己の自由を奪い去った権力者への憎しみをたぎらせたのか?
否
自らの力が不幸を招くならと、閉じ込められる運命を受け入れたのか?
否
歓喜
彼は、黙っていても食事が与えられ、必要なければ人とも話さなくてよい
そして、よほどのことでなければ、ある程度のワガママが許されるその環境に、抑えきれぬ喜びをあらわにしたのだ
なぜ彼は、ここまで喜んだのか?
高待遇であるのは確かだが、それだけで屋敷から一生出られないことを許容はできない
普通ならば
彼は普通ではなかった
彼の未来視は、1000年先をも見通せるのである
それこそが理由であった
いわく
「漫画やアニメという娯楽があまりにも面白くて、時間がいくらあっても足りないのだ」
彼は遥か未来の、漫画・アニメと呼ばれるものにハマった
それまでつまらない人生を送ってきたと自分を評価していた彼だが、未来視でたまたま発見したこれらに、心を奪われたのだ
これらの娯楽さえあれば、もう他に何もいらない
生きている以上、人は己の人生に責任を持ち、働かなければ生きられない
しかし、時の権力者は彼を絶対の安全と引き換えに閉じ込める決断をした
彼にとっては、自分のために権力者が楽園を作ってくれたような感覚だ
彼は楽しんだ
未来の娯楽をただひたすら楽しんだ
さらに幸いなことに、彼には他人と楽しさを共有するという欲求がなかった
自分が楽しめれば、他人との交流などどうでもいい
それが彼の楽しみ方である
歴史書によれば、彼は己の悲運を悲運とも思わず、能力を悪用されるくらいならば、人のため、自らを封じようと決意した高潔な人物として記されている
だが実のところ彼は、自分が一生楽しめる環境を手に入れて喜んでいただけであった
I LOVE... myself
そう、俺は自分を愛している!
おい、誰がナルシストだって?
そういう意味じゃないんだよ!
俺は他人に対して優しいだろ?
自分で言うなって?
事実なんだからしょうがない
で、なんで優しいかって言うと、自分のことを愛しているから
心に余裕があるんだよ
自分を愛する余裕があるから、他人に優しくできるわけだな
自分を愛する余裕のない人間は、他人に優しくできないかもな
そもそも他人に気が回らないか、他人を憎み始めるか、そんな感じが多いんじゃないの?
たぶんな
まあ、他人に優しくできるけど余裕がなくて、その優しさでさらに自分を追い詰める人もいるか
一方で俺は楽しく優しさを発揮しているから、余裕があると言えるわけだ
そんな優しい俺はだな、心に余裕のない人間に寄り添って、健全に他人へ優しくできる存在に変身させたいわけだ
俺にはすごい力はないけど、できる限りそういうことをして、優しくなれた人間が他の人も救うようになったら万々歳
そうはならなくても、ひとりの人の心に余裕をもたらしたことは事実なわけだ
そうすると俺ももっと自分を愛せる
お互いハッピー
ま、俺の活動はまだ始まったばかりだけどね
手始めに君が自分を愛せるように協力をしよう!
俺のさらなる活動のための礎となってくれ!
なんてね
冗談はさておき、自分を愛せば目の前の世界は明るくなるぜ?
俺と一緒に自分への愛を取り戻しに行こう!