世の中には、二種類の人間がいる
風魔法発動のための感覚がわかる者と、風魔法発動のための感覚が全く理解できない者
間違いなく私は後者だ
私の適性は氷魔法だったけど、ついでに風魔法も習得しておくと便利だと言われたので、特訓し始めたのだけど
初っ端から風魔法の師匠が何を言っているのかわからなかった
風魔法の練習をする場所は、凪の間と言われる場所
この空間では、物理的な方法で一定の強さの風を吹かせることができない
手で仰げば、少しくらいの風は起こせるけど、その程度が限界
つまりほぼ無風
この空間なら、魔法で生み出した風が空気の流れに影響を受けづらいから、コツをつかむのにもってこいなのだ
で、師匠によると、凪の間を使う理由がもうひとつあって、風魔法を発動するために必要となるのが、無風の中で風を感じることだかららしい
ムフウノナカデカゼヲカンジルコト?
意味不明、理解不能、何語で喋ってます?
無風なのにどうやって風を感じるというのか
けど周りの人たちは誰一人として疑問に思わず、無風の中で風を感じ、魔法で早速小さい風を起こしていた
嘘でしょ?
来る前は氷魔法も超成績良かったし、そこそこいけるでしょ!などと考えていたのに
私は風魔法発動のための魔力すら練れなかった
なぜなら、存在しない風を感じるという妄想スキルを持っていなかったから
とはいえ、それは私が風魔法に向いていなかっただけで、きっと珍しいことではないだろう
誰しも得手不得手はある
習得できないのは残念たけど、氷を伸ばしながら、風以外の魔法習得を目指そう
そんなことを考えながら師匠を見ると、こちらを向いて驚愕の表情を顔に貼り付けていた
いつもはあんなに落ち着き払っているのに
どうやら私は常に冷静な師匠が驚愕するくらいの、とても珍しいレベルの落ちこぼれだったようだ
「あなた、ふざけているわけじゃないのよね?」
「え、はい、普通に意味がわからなかったです
無風で風を感じるとか」
師匠は何か言いたそうに口を開けるが、言葉が何も思い浮かばず、そのまま口は開きっぱなしだった
こういうのを唖然っていうのかな?
「氷魔法は、できるのよね?」
「はい」
「なんで?」
「私に聞かれましても……困ります」
氷魔法はだって、快適な温度から変わらない定温の間で存在しない氷の冷たさを感じるだけだから、簡単でしょ
風とは全然話が違う
「それができたら、風も感じられない?」
「え?
関係なくないですか?
氷の冷たさと風ですよ?」
「普通、発動するだけなら各系統の内ひとつでもできれば、全部できるのよ
無いものを感じるという点で、同じようなものだから」
なんてことだろう
どうやら私の感覚が風に対してだけ致命的に合っていないらしい
「もう一度、風を感じてみて」
「……ダメです、全然、発動の取っ掛かりすら掴めないです
その感覚は私にはありません」
「そんなバカな」
師匠が頭を抱える
しかし、何か思いついたようで、こちらに向けて強めの風魔法を吹かせた
風力はあるけど、無害なやつだ
「魔法で風を吹かせることであなた自身の体に風の感覚を覚えさせます
これできっと、あなたも風魔法を使えるわ
しばらく吹かせ続けるから、感覚を研ぎ澄ませて」
強いけど気持ちのいい風が吹いてる
これなら何か掴めるかもしれない
それなりの時間、風に当たり続け、寒くなってきたところで魔法が止まった
「忘れないうちに風の感覚を反芻しなさい」
「はい!」
…………
……
…
「師匠、全然わかりません!
無風の中に風は感じられません!」
「…………、…………!!
……!」
師匠は声にならない何かを無音で呟きながら再び頭を抱え、疲れた表情で座り込んだ
大丈夫かな?
私が心配していると、師匠が突然にこやかな笑顔で立ち上がり、私を見た
そして、それはそれはとてもいい笑顔をそのままに、こう言った
「あなたには風魔法の習得は不可能よ
諦めて別の魔法を頑張りなさい」
「はいっ!」
私も笑顔で返事をして、凪の間をあとにした
無理なものは無理だから、さっさと切ってできることに集中したほうがいいよね
あとで聞いた話では、あのあと師匠は数日間寝込んだらしい
そんなにショックだったのかな?
8/9/2025, 11:00:10 AM