ストック1

Open App

最近、妙な夢を時々見る
俺には妻と二人の子供がいて、毎日充実した生活を送っているのだが、その夢の中では、俺は独身で、昔からの友人たちと楽しく過ごしているんだ
結婚どころか、恋人なんてものにも、興味がない感じで
別に今の生活に不満なんて無いんだけど、心の奥底では、ひとりを求めている自分がいるのだろうか
夢の話を妻に話すと、

「あなたみたいな寂しがり屋が独身になったら、死んじゃうんじゃない?
だから、願望とかじゃなくてただの夢だよ」

と笑われてしまった
確かに俺は寂しがり屋で、独り暮らしなんてできないだろうし、家族と一緒じゃないと不安になるタイプだ
夢なんて、変な内容であることも多いし、考えるだけ無駄かな


「お前、最近ボーッとしてること多くない?」

友人が俺を心配そうに見る

「そうか?」

自分ではあまりそんな気はしないんだけど

「寝不足でもしてるんじゃないか?
睡眠は大事だぜ」

寝不足か
そういえば、最近変な夢を見るな

「なんか、夢の中で俺は結婚して子供もいてさ
その夢を見てからちょっと変な感じはするな
ま、関係ないだろうけどさ」

「なんだそりゃ
お前、絶対に一生結婚しないだろ
他人に束縛されたくないーとか言ってさ」

それはそうだ
恋愛や結婚したら自分の人生、他人に分けるようなもんだ
それを否定はしないけど、俺はそういうのに興味ないし、自分が一番大事だ

「案外、結婚願望があったりしてな」

「ないない」


嫌な夢を見た
幸せすぎて不安でも抱えてるんだろうか
独身なんて考えられないし、自分を二の次にしてでも大切にしたい人と出会えるのは、幸運なことだと思うのに

「パパ、なんか疲れてない?」

「パパ、具合悪そうだよ?」

子供たちが心配して顔を覗き込む
情けない
この子たちにもわかるくらい、態度に出ていたか

「大丈夫
ちょっと悪い夢を見ただけだよ」

「そっか
無理しないでね?」

無理しないでね、か
そうだな
少し、心を休めたほうがいいかもしれないな
しばらく横になろう
また変な夢を見なければいいが


「病院行ったほうがいいぞ?
しんどそうだ」

友人が、とても心配していることが伝わる表情で言ってきた
やはり自分ではわからないが、そこまで言うのなら、俺はどこかおかしいんだろう

「わかった
明日にでも診てもらうよ」

「なんかあったら、連絡してくれよ?」

「ああ、ありがとう」

俺は友人と別れ、自宅へ向かう
遠くから友人が何かを叫ぶ声が聞こえた
しかし、何を言っているのかはわからない
その時、本当に俺はおかしかったのだ
全く気づかなかった
俺が赤信号で交差点へ進み、車が俺に迫っていることに


事故に合う夢を見た
これは何かの暗示か?
まあ、ただの夢だし、気にし過ぎはよくない
それにしても、やけにハッキリした夢だった
夢?
本当に?
いや、あれは夢じゃない
違う、向こうが俺の現実だ
俺は事故にあって、どうした?
ここはいったい……
そうだ、この場所こそ夢なんだ
どうにかして現実に戻らなくては
俺はなんとなく、家を出ようとした
そうすれば夢から醒める気がしたからだ
急いでドアを開けて出ようとする
しかし、俺の腕を誰かが掴んだ
恐る恐る振り向くと、妻と二人の子供が、いつもの笑顔で、固く、強く、俺の腕を掴んでいた

「あなたは私たちの家族なんだよ?
どこへ行くの?」

「やめろ、離せ
俺はこんな夢からは醒めるんだ」

「パパ、家に戻ってきて?」

「俺は現実に戻るんだ!
離してくれ!」

「パパ、ここでずっと、ずーっと一緒に暮らそう?」

だんだんと、家に引きずり込まれる
俺は全く進むことができない
このまま引きずり込まれたら、もう現実に戻れない
そんな嫌な予感を強く感じる

「やめてくれ!
離せ、離してくれ!」

ダメだ、振りほどけない
もう、ダメだ
必死の抵抗も虚しく、俺は三人に家の中へと引きずり込まれて、そして……


なにか、変な夢を見ていた気がするが、思い出せない
まあいいか
夢はしょせん夢だ

「あ、おはよう」

「おはようパパ」

「パパおはよう
今日は起きるの遅かったね」

今日も家族は笑顔で俺を迎えてくれる
俺は幸せ者だな
三人の笑顔を見られる
それだけで俺は充分だ


『昨夜七時頃、会社員の男性が軽自動車にはねられる事故が発生しました
男性は意識不明の重体です
目撃者によると、男性は赤信号で交差点を渡っていたとのことで、警察は詳しい事故原因を……』

8/8/2025, 11:03:53 AM