これは、俺が今まで活動してきた中で一番困惑した、真夏の記憶である
気がつくと俺は、展示会の会場として使われそうなだだっ広い空間にいた
周りを見ると、様々な人が俺と同じように、あたりを見回していた
だが、彼らに困惑は無い様子
どちらかというと警戒のほうが強い
俺は普通の人間ではないため、警戒感がすぐにわかった
困惑ではなく警戒とは、彼らも一般人ではなさそうだ
それにしても、壁の前に置いてあるでかいモニターが気になる
あまり詳しいわけじゃないが、デスゲームでも始まるんじゃないだろうな
そんな雰囲気が漂ってるぞ
なんて思っていたら、モニターが点き、趣味の悪いニヤケ面の白いマスクをかぶった奴が現れた
「目覚めたかね諸君
私はゲームマスターのサンデーだ
君たちには今からあるゲームをやってもらう」
俺含め、全員がとりあえず何も言わず、相手の話を聞くことにした
以下、サンデーの目的である
サンデーは昔から、変身ヒーローの力がどれほどなのか、誰が一番強いのか知りたかったらしい
そして自らの特殊能力で様々な変身ヒーローを集めたのだという
まさか周りの方々が同業者だったとは
そして、この場所で俺たちにゲームをやらせて、最強のヒーローの雄姿をこの目で見ようと考えたというわけだ
ヒーロー同士で殺し合いをさせようとは、悪趣味な
だがヒーロー相手にこんな真似をしてただで済むと思っているのか?
他のヒーローたちも口々に呆れの声を上げている
しかし、サンデーは慌てた様子でヒーローたちの言葉に訂正を入れる
「待ちたまえ!
私は殺し合いなどさせるつもりはない!
これはデスゲームじゃなくて、純粋なスポーツだよ!
いくつかの競技で能力を競ってもらいたいだけだ!」
本気で言ってるのか?
罠とかではなく?
「だって知りたいじゃないか!
変身ヒーロー同士の本気のスポーツ!
夢があると思わないか!?
夢の共演系の作品とか、興奮しない!?」
こいつどうしようもないな
しかし、ここにいる全員、ここで断ってうざ絡みされたり執着されても面倒だと判断し、付き合ってやって、あとでしょっぴくことにした
組織の規模的に、俺がしょっぴくのが妥当かな
というか、特殊能力がすごいわりに、考えることや用途が幼稚だ
殺し合いさせられなくてよかったけど
「では早速変身してくれ」
全員、戦うべき敵もいないのに口上を言いながら変身するのは恥ずかしい感じだったが、とりあえず俺からやることにした
本来は仲間とやるんだけどね
「荒れ狂う炎の刃、ブレイドレッド!
エネルギー、解放!」
全身が赤い戦闘服に包まれる
「剣王戦士、ブレイドソルジャー!」
変身完了だ
よし次
中学生くらいの女の子が舞い始めた
「はじける元気!彼方へ届け!
シャインウィッチ!」
いかにも魔法を使えそうなロッドを持ち、動きやすそうなドレス姿になっていた
はい次
スタイリッシュな男性だ
俺と同い年くらいかな?
「Target Lock On!
変身!」
ベルト?が光り、動物か何かみたいなヘルメットと、装飾の多い派手なバトルスーツ姿になった
次行ってみよう
変身アイテムを掲げて、全身が輝いている
特に口上は無かった
「シャオ!」
この人、多分本来はでかい宇宙人だ
なんらかの技で人間サイズになってるけど
あと、人間の姿じゃないと日本語ダメみたいだな
次
彼女で最後だ
高校生くらいかな?
「暗き闇の意思にて、立ちふさがるものを駆逐する……!
ダークハンター・ブラッディナイト」
なんか全然毛色が違うの来た
赤黒い怖さを感じるドレス着てるし
こんなヒーロー見たことないんだが?
ひとりだけ何か間違えてないか?
モニターを見るとサンデーが悶ていた
感無量といった感じで
さっさとゲーム始めろよ
「ええと、なんだっけ
ああそうだ
これから諸君には、夏の風物詩である水泳、射的、金魚すくい、輪投げに挑戦してもらう
総合成績の良かったものが優勝だ」
うん……?
内容が思ってたのと違うな
水泳はまだわかるけど
なんか、夏祭りの定番の遊びが並んでいる気がするんだが?
「いや、正直もっとすごいものを作りたかったんだが、この会場とプールを貸し切るだけでほぼ資金が底をついてしまい……」
ええ?
なにそれ?
いや、こんなこと言っちゃダメだけど、ちょっとワクワクしてたんだよ
自分の力を戦い以外で発揮するシチュエーションに
期待してたのにその結果が祭りの遊び?
一気にやる気なくしたよ
周りもガッカリしてるし
「真夏だし、夏っぽいことをすればいいかなって……」
「それは安直だし、俺達をバカにし過ぎだよ
もう少しなんとかできるようにしてから、もう一回呼んでくれ
正直、本気の気持ちで挑む内容じゃない」
「そ、そんな!」
「お前だって心の底から楽しめないだろ?
こんなしょぼい夢の共演じゃあさ」
「うっ、たしかに……」
「もう一回よく考えて、お金貯めて、本格的な競技ができるようになったらまた呼んでくれよ
俺たち、また来るから
みんなもそれでいいか?」
周りの変身ヒーローも頷いている
決まりだな
「なんというか、私が不甲斐ないばかりにすまなかった
また、出直してきます」
こうして、変身してだけで何も起こらず、ゲームは終了と相成ったのである
8/12/2025, 11:37:49 AM