ストック1

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そいつは超常の存在であるが、無害で、なおかつなんの利益も与えない
ただ、存在しているだけで、何もしないのだ
だが、そいつの特徴はそれではない
そんなのはいくらでもいる
珍しくはないのだ
ではどんな特徴か
そいつは通称、「言葉にならないもの」と呼ばれている
実は通称だけで、明確な名前は付けられていない
通称だって、そいつを見たことのない人間が、仮の名前として呼んでいる状態だ
正式な名前は、実際に見て、どのような特性を持つのかを見極めなければ付けられない
だが、「言葉にならないもの」だけはそうはいかない
その理由がそいつの特徴であるらしい
俺は見たことがないから、らしいとしか言えない
一度でも「言葉にならないもの」を見た人間は、そいつを表す言葉を表現できなくなる
なので、名前は付けられない
通称も言えなくなる
例のやつとか、あいつとか、そういった言葉ですら表現できなくなるようだ
文字も、蛇がのたうち回ったような意味のないものになり、キーボードやスマホなどは、そもそも入力する指が止まる
手話や点字も不可能
暗号や信号、その他諸々
ありとあらゆる言葉による表現が阻まれるのだ
それには外見的特徴も含まれる
なので、見た人間が「言葉にならないもの」について話す際、例えば「あいつを見たことがある」と言いたい時、「見たことがある」としか言えない
聞く方はなかなか大変だ
まあ、存在しているだけの無害なそいつを、わざわざ話題に出す機会はなかなか無いわけだけれども
そして、面倒なことに、写真や動画、似ている上手い絵などでも表現できない
撮ろうとするとカメラは一時的に機能停止し、絵を描く場合、どんなに上手い人でも、幼い子どもが描いたようなただのグルグルになる
つまり、外見は直接見た人間以外知りようがないわけだ
しかし、研究もわりと進んでいるようだから、そのうち見た人も「言葉にならないもの」を表現する言葉を言える日も来るかもしれない
とはいえ、表現不可能という特徴があったところで誰が困るわけでもないから、今のままでもいい気はするな
無害であることは、疑う余地のない事実のようだし

8/13/2025, 11:33:27 AM