漫画やアニメのかっこいい、かわいいキャラが眩しくて、憧れたことがある人もいると思う
そのキラキラと眩しく輝くキャラに自分を重ね、こんなふうになってみたい、なんて考えることだって珍しくはないはず
それで、私生活で実際にそんなキャラの口調の真似をしたり、自分の設定を作ったりすることを厨ニ病なんて言い方をするわけだけど
まさしく僕もそんな一人だった
魅力を感じたキャラを見つけ、こうなりたいと憧れた
ただ、僕の場合は、普通憧れるようなキャラとは違う感じ
正直、珍しいタイプだと思う
僕は自分でも真面目だと思うくらい真面目な性格でね
そして大人しい
自分の真面目さは認識しつつも、そのことになんの感情も抱いてなかったんだ
僕にとっては、自分が真面目であることは当たり前のことだったから
そんなある日、友達から漫画を勧められた
僕はそれまで、あまりそういうものに興味は持たなくて、読んでこなかったんだけど、勧めてくれたんだからと、試しに読んでみたんだよ
そしたら、見事にハマっちゃって
内容は、クールな主人公が仲間と一緒にスタイリッシュに戦う、すごくかっこいいアクション漫画だった
でも、僕がいいと思ったキャラは、そんなスタイリッシュなキャラたちじゃなかった
メインキャラでありながら、人気はそれほど高くない
しかも戦闘能力も高くないから、バトルではほとんど活躍しない
だけど、仲間からは愛されているっていうキャラだったんだよ
いわゆるムードメーカー
お調子者で、みんなの肩の力を抜けさせる役割
衝撃を受けたよね
こんな生き方があるのかって
僕は面白い人間になろうと思って、そのキャラの真似をし始めた
最初はただの真似だったんだよ
面白キャラを演じる感じ
クールキャラに影響された人がかっこつけるように、お調子者になりきってた
でもしばらくして、なんかおかしいと思い始めてさ
これじゃあ上辺だけだなって
それで、本当に面白い人間ってなんだろう、なんて考えるようになった
面白キャラについてすごく真面目に考えたんだよ
自分の真面目さを初めてありがたいと思ったね
それで、自己満足じゃなく、相手のための面白さを追求しようと思い至ったわけだ
最初はみんな、どうした?みたいな感じだったけど、次第に僕は面白キャラを確立していった
ただの面白い人の設定から、本当に面白い人に成長したって感じたよ
それで今に至る、って話
僕の場合は面白さだったけどね、最初はかっこつけの真似だったとしてもさ
正しく自分の中に取り込めば、それはもう真似じゃなくてかっこいい人なのかもしれないね
熱い鼓動とは、大抵、自分が熱意を向けるなにかによって気分が高揚し、興奮とともに心臓が強く打ち付けることを指すわけだが……
このポジティブかつハイテンションな鼓動は幸せな気分に誘発されたものだろう
こんな鼓動なら、俺は健康に害が出ない程度に打ち鳴らしたいものだ
それだけ自分が楽しんでいるという証明なのだから
楽しい時は多いほうがいい
ところで、冷めた鼓動って聞かないよね
冷めた鼓動ってなんだろう
私の考えでは、熱い鼓動とは逆にネガティブな鼓動なんじゃないかなと思う
恐怖心とか、緊張とか、混乱とかによる鼓動だよ
肝を冷やすとも言うし
ホラー作品を見たり、わけのわからない状況に陥ったり
そんな時に心臓がバクバクする
こういうのが、冷めた鼓動なんじゃない?
熱い鼓動、冷めた鼓動
では常温の鼓動は?
ポジティブな感情による鼓動でも、ネガティブな感情による鼓動でもない
そんな状況の鼓動ってなんでしょう?
平静な心なのにもかかわらず、運動以外で心臓が鼓動を打ち付ける
これは……動悸ですね
病気のサインじゃないですか
常温の鼓動が発生したら、すぐ病院へ行ったほうがいいですよ
最近、タイミングのいいことが多すぎる
乗り遅れたはずの電車が、遅延で私が着いた途端に来たり
たまたま見つけた商品が、欲しいけどちょっと高いなと思ってたら翌日、セールになったり
他にも、たまたま出かける予定を取りやめた日に荷物が配達されたり
色々とタイミングのいいことが重なっている
こうもタイミングがいいと少し不安になるのが、私のネガティブなところで
なにか悪いことの前触れだったりしないか、ちょっと心配ではある
「あ、違いますよ
あなたの貯まりに貯まった運が消費されてるだけです」
いきなり目の前に幸運の女神が現れてビックリした
いつものことながら、突然現れるのはやめてほしい
久しぶりな気がするけど、前に会ったのは、倍率の高いイベントの抽選に当たった時だったかな?
なぜかこの女神は度々私の前に現れる
暇なのかな
「暇じゃないですよ
役目が面倒になったので、息抜きにサボ……休暇を取ったんです」
言い直した部分は聞かなかったことにしよう
役目が面倒というのも、まあ聞かなかったことにするか
「前も説明したとおり、運の良さは大きい運、普通の運、小さい運の3つからなっていて、運の器に貯まっていきます
大きい運ほど体積が大きく、貯まりづらく、必要量も多い
小さい運ほど体積が小さく、貯まりやすいんですよ
必要量も少ないです」
それは前に聞いた
だから大きく運のいい出来事は、起こりづらく、しかもちょっとしたことで器からこぼれていくから、余計に運が貯まっていかない、と
「で、あなたはここのところ、小さい運がやたら貯まっていたんです
大きい運も普通の運も貯まらず
そして消費もされなかったので、今、器に貯まりきった小さい運の良さが一気に発散されている状態です」
どうせなら大きい運が貯まってほしかったな
私、あなたの暇つぶしの相手をしてあげてるじゃん
ちょっとさあ、いい感じに運のボーナスをくれないかな?
「あー、無理ですね
それやると色々と違法になるので」
神の行いにも合法違法があるのかあ
じゃあしょうがない
「あ、もうすぐ運が底をつくので、しばらく運のいいことは起こらないはずです」
それは残念
まあ、また運が貯まるのを待つよ
「それと、そろそろ小さい運の悪さが最大まで貯まるので、ちょっとした不運が連続して発生すると思います
気をつけてくださいね」
やっぱりタイミングの良さは悪いことの前触れじゃん!
「前触れじゃないですよ?
運の良さと運の悪さは別枠なので」
運の消費の順番が逆だったら良かったのに……
なんか、今までの運の良さが台無しになった気分だよ
憂鬱だな
虹のはじまりを探して、虹を失う
私の故郷にあることわざだ
意味としては、物や能力など、相手が持たないものを求めすぎた結果、相手に愛想を尽かされる、ということ
存在しない虹のはじまり……つまり根本のある場所を探しているうちに、肝心の虹が消えてしまう、という状況で例えたのだ
言いたいことはわかる
しかし、私はこのことわざが虹で例えたことが気に食わない
虹なんていうロマンティックな存在
そのはじまりを探すなんていう夢のある話を、迷惑な行動に当てはめている
きれいな虹をこんなことの例えにしたら台無しだろう
作った人間はよく考えてほしい
自分では傑作だと感じたものと思われる
しかし、センスがないと言わざるを得ない
なぜわざわざ夢のあるものに対して、嫌な現実で水を差すのか
私はこのことわざを作った者にこそ、なんらかの皮肉ったことわざが必要なのではないかと思わずにはいられない
なぜ私がここまで過剰にこのことわざをこき下ろすのか
簡単だ
私は虹が好きで、見えた虹の根本を探しに、自転車を走らせた経験があるからだ
このことわざを聞くたび、私は自分の虹に対する幻想的な感情と、あの日の夢中で自転車をこいだ思い出を否定された気分になる
ともかく、いつかこのことわざが忘れ去られ、この世から消滅する日が来ることを願うばかりだ
本当に、虹のはじまりを探して夢を追った全ての人々に謝ってほしい
ここは都会のオアシス
私は暑さの激しい、ビルの立ち並ぶ都会の中でとても心地よく過ごしている
屋外にありながらここはとても快適で、涼しい
そう、オアシスだ
都会の真ん中に、突如木が生え、大きな池が出てきたのだ
ここだけなぜか気温が低く、池の水はとてもきれいで健康上飲んでも問題はない
さらにここの水は信じられないくらい美味くて、それ目当てで飲みに来る人もいるくらいだ
私もすっかり、このオアシスへ通うことが日課のようになってしまった
なぜ、こんなところにオアシスができたのかはわからない
が、そんなことは心の底からどうでもいいことだ
ここは快適で、水が美味くて、心身を癒やすことができる
それだけわかっていれば十分だ
さて、しっかり休めたし、名残惜しいがそろそろここを出よう
また暑い都会に戻るのは残念だが、いつまでもここにいるわけにはいかない
おや?
立ち上がれないぞ
なんだか頭もフワフワしてきたような
うん?
いや待て、オアシスってなんだっけ?
なんだか目の前が歪んで……
「ここは?」
「ああ、よかった
意識がはっきりしてきましたね
ご自分の名前、わかりますか?」
私は促されるまま名前を言った
その後、様々なことを聞かれたり、促されたりして、ようやく状況がわかった
ここは病院だ
そうだ、私は暑さで倒れて、そのあと夢か幻覚か、都会のオアシスでくつろいだ気になっていたのだったな
どうやら熱中症にかかったらしい
そういえば水分をあまりとっていなかった
下手をすれば命を落としかねない危険な状況だ
これからはもっと気をつけねば
しかし、都会のオアシスか
あんなオアシスが都会の真ん中にあったら、この暑い夏も頑張れそうなのに
熱中症の中で見た、儚い幻だったな