僕たちは目の前の光景に、悲しみを抑えられなかった
目の前には心折れた友人がうなだれている
心の暗さを示すその目には、はっきりと涙の跡がある
赤く充血しているのだ
僕にはかける言葉も見つからない
場を沈黙が支配する
他の友人たちも、彼になんと言っていいかわからないのだ
友人は同じクラスの子を好きになり、思い切って告白
しかしフラれてしまった
いや、それで話が終わっていたのなら、よくある失恋だと、彼の心も少し大人になって切り替えられたのかもしれない
しかしそうはならなかった
恋した相手にごめんなさい、と言われたあとのことだ
相手から衝撃発言が飛び出した
実はその子は、一番の大親友だと彼が言っていたクラスメイトと付き合っていたのだ
大親友は、彼を驚かせるために黙っていたという
そして今日、打ち明けるつもりだったとか
フラれたのがショックなのではない
知らずに大親友の恋人に告白した罪悪感と、よりによって大親友が自分が好きになった相手と付き合っていること、その他様々な思いがごちゃまぜになったため、深いショックを受けたのだ
ちなみにこの場に大親友はいない
彼は大親友には自分が恋をしたことを言わなかったらしい
大親友だからこそ話すのが恥ずかしかったのと、うまくいったら驚かせようと思ったからだそうだ
悪い意味で奇跡
奇跡的なすれ違いで起きた悲劇だ
僕たちは彼から、今日告白すると聞いて内緒で見守り、成功したら頃合いを見て駆け寄り、祝福ドッキリをしようと待機していた
無駄になるどころか、非常に気まずい
しかし、悲しみをこらえて笑顔でその場をやりすごし、相手が去るまで決して涙を流さなかった彼に、僕は敬意を表する
ただ、震えの混じる深いため息をつく彼の姿は見ていられない
かと言って話すことも思いつかない僕は、とりあえず隣に座って、背中をさするのだった
彼はありがとうと言うと、再び涙を流した
気が済むまで泣くといいよ
私はね、夏の間はできる限り涼しく過ごしたいのだよ
私の外見を見てくれ
グレーの整った髪に、ダンディな髭
いかにもきっちりした紳士的な服装で街を歩いていそうだろう?
だがね、私は暑さに弱い
この酷暑の中、そんな服装で歩いたら死んでしまう
にもかかわらず
にもかかわらず、だ
周囲は私の半袖のアロハシャツに半ズボンスタイルを似合わないだの、イメージと違うだの、好き放題言ってくる
びしっと決めてほしいなどと、よくこの暑さの中で言えたものだ
そもそも、私はラフな格好が大好きなのだ
髭を生やしたのも、愉快なおじさんを演出したかっただけだというのに
下手に髪や髭の形が整ってしまうから、紳士風になってしまった
私は冬でも本当は半袖で過ごしたい、半袖愛好家なんだぞ
冬でも暑がりの私は、よほど低い気温にならなければ、半袖がいいんだ
まあ変な目で見られるから、冬の間は長袖のちゃんとした服装で過ごしているが
本当に、私の理想とする自分と周りが求める姿が違うのも面倒だな
周囲を気にせず自分の好きなようにすればいい、とは言うが、どうせなら周りにも認められたい
私は半袖アロハシャツが似合い、それに加えて面白い人間だと思われたいのだ
いや、私自身、自分の理想である愉快で面白いおじさんになりきれているかというと、ユーモアの足りなさは感じている
だからといって、落ち着きあるおじさんのつもりもない
なぜ周りは私に落ち着いた紳士のようなイメージを持つのか
私はもっと努力するべきなのかもしれないな
私の理想とする自分に近づくため、もう少し面白さを追求してみよう
私の好きな半袖アロハシャツが似合うと言われる男になるために、私の中の愉快さを磨くしかない
もしも過去へと行けるなら、みんなはどうするだろう
今のままの運命を受け入れ、過去へのチケットを捨てる?
それとも、過去へ行き、運命を変えるだろうか?
もしくは、運命をあまり変えず、失われた過去を再び体験したい、なんてこともあるかもしれない
僕は運命を変えることを選んだ
目の前には、いかにも怪しそうな男が一人
人に過去へ行く権利を与え、その様を見て楽しむ、なんだか悪趣味な存在らしい
自分で悪趣味だと言ったのだから間違いない
ニタニタ笑っているのが実にいやらしい
ただ、過去に飛ばしてくれるなら、目の前の男が悪趣味だろうとどうでもいい
過去に行ったあとは干渉してこないらしいから、そこは安心できるだろう
僕は男に、五日前に飛ばしてほしいと頼んだ
そこでやらなければならないことがある
おそらくこの男は、僕が運命を変えたことによって絶望的な状況に陥ったりとか、そういう不幸を期待しているのだろう
どっちに転ぶかわからないが、僕は目的さえ達成できればいい
五日前の目的の時間にたどり着いた
人々で賑わう野外会場
僕はステージ裏で待機していた
少し待って、僕の出番が来る
この時をやり直したかった
緊張はない
今ならやれるはず
僕は、渡されたマイク片手に十八番の歌を熱唱した
前回はあまりの緊張で声が上ずってしまったのだ
今回は違う
落ち着きながらも熱く歌い上げる
僕はなんのミスもなく歌い終えた
全員が歌い終わり、いよいよ結果発表
そう、僕はこの野外カラオケ大会で本来の実力を発揮するために、やり直したのだ
正直、結果がどうなろうともかまわない
僕は緊張で失敗した過去を消し、全力を出し切りたかっただけ
優勝者の発表になった
残念ながら僕は優勝できなかった
しかし、それでも持てる力の全てを出し切ったので、悔しさはない
ただ、上位入賞はできたので、ちょっとした景品はもらえた
観客席をよく見ると、過去へ飛ばした男が唖然としている
たぶん、過去へ飛んだ理由がしょぼいと思って、ガッカリしているのだろう
これでは大して運命も変わらないだろうからね
絶望させられなくて残念だったな
でも、僕は身の程をそれなりにわきまえてるんだよ
過去の改変はこれくらいにしておくのがいいんじゃないかな
True Loveという字に目がいった
日本語にすると真実の愛?
真実の愛か
真実はひとつ!
って言ったりするよね
つまり真実の愛は一途なのかな?
いや待って
真実は人の数だけあるとも言うね
つまり、人によっては一途でない愛が真実の場合もある?
考えれば考えるほどわけがわからなくなってくる
真実の愛ってなんだろう
そもそも誰が言い出したのか
愛の真実性は誰がジャッジするんだろう?
他人に対してそれは真実の愛じゃない、なんてとてもじゃないけど私は言えない
判定できる人なんてこの世にいるのかな
心の底から相手のために行動するのが愛?
でも世の中にはよかれと思って相手に害を与える愛もあるけど、それは真実の愛に含まれる?
相手を幸せにできるけど、私欲がたくさん混じった愛は、真実の愛じゃない?
相手のことを心の底から考えて、一切の害を与えず、かつ幸せにできる行動を取れる人
そんな人はどれくらいいるのだろう
それが真実の愛なら、そんなもの、存在しないのかもしれない
なにが真実かは結局、愛を持つ人の気分しだいってことになるのかな?
でも事実として、誰かのために愛をもって行動できる人は、この世界にたくさんいるんじゃないかな
それが真実の愛かどうかは、幸せの前にはどうでもいいのかもしれないね
まさか、勇者とその仲間たちがここまで強かったとは
よかろう
今回は負けを認めよう
だがこれで終わりではない
またいつか、私は復活し、その時こそ魔族による人間の支配を達成してくれよう
フハハハハ!
あれからどれほどの時間が経ったのだろう
いや、今がいつだろうと関係はない
魔王として、私は再び同胞とともに人間に対し侵攻を開始する
目覚めたのは広場だった
ここは私の城ではないのか?
長い年月によって無くなってしまったか
周囲を探っていると、変わった黒い服を着た魔族たちが現れた
迎えが来たようだな
「魔王様ですね
お目覚めになるのを待っていました」
「うむ、ご苦労」
「この時代についてお話しますので、こちらへ」
私はその後、自動車とかいう馬のいない馬車に案内され、そこで大まかな状況を聞いた
正直に言うと、その話で頭が真っ白になりかけた
封印のあと、何十年かかけて人間と魔族は和解したらしい
魔王である私がいなくなったことで、魔族は人間に対し、友好関係を築く道を模索
説明する魔族たちは言いづらそうにしていたが、私が強硬的な態度を取らなければ、とっくに魔族は戦いをやめていたことだろう、とのことだ
そして和解から数百年が経ち、今に至るらしい
私は魔族のため、人間を支配せよと先代魔王から教育されてきた
それが魔族を救うと
だが、私のしてきたことは、同胞を救うどころか逆効果だったのだ
多くの魔族は対立を望んでいなかった
自動車の外の景色を見る
魔族と人間が、仲が良さそうに談笑しているのが見えた
「魔王様、あなたは数百年間封印されていました
これからあなたがこの時代で生活できるよう、私たちでサポートいたします
それと、この時代で生きていく以上、あなたは魔王という立場を捨てる必要があります
もう、そのような時代ではないので
それと、人間も、もはや敵ではありません
そのことを肝に銘じてくださいね」
「ああ、そうだな
この時代のこと、生きる術
色々と教えてくれ」
それから私は、様々なことを彼らから教わった
短期間に詰め込まれたが、魔王としての能力で、この時代の常識、知識はすぐに覚えることができたため、問題はない
時には人間とも交流をする
さすがに、敵対していた種族と友好的に接するのは、緊張したが
そんな日々の中で私は、あるものに惹かれた
私は幼い頃から、次期魔王として育てられ、周りからは常に敬われ、友人などというものはできなかった
そのため、そういった関係に憧れを持っている
この時代には学校という、同年代が集まり、勉学などに励みながら友人とともに過ごす施設があるようだ
私は13歳のときに魔王になり、封印されたのが15歳
ちょうど、この時代ではそろそろ高校生になろうかという年齢
私の世話をしてくれる魔族たちによると、あと数ヶ月で入学試験が始まるという
そして、高校へ通うことを望むのなら、入学試験に参加できるよう手を回す、と言ってくれた
試験も、私の学力なら十分受かるだろうとのこと
私は彼らに頼み、試験を受けることにした
結果は合格
晴れて私は高校へ通うことになった
魔族と人間がともに歩む時代で、私の高校生としての日々が始まる
その日々を、皆は青春、と呼ぶそうだ