ストック1

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6/18/2025, 11:35:47 AM

運命の赤い糸
愛し合う二人の繋がりを例えた言葉
だけど、私たちは運命の黒い糸で繋がっている
私はあいつを利用し、あいつは私を利用する
私たちは利害が一致している限り、お互いを絶対に裏切らない
関係性が明確な分、下手な愛や友情なんかよりも圧倒的に信頼できる
そもそも、曖昧で、知らない内に移り変わるような心なんてものを信頼するなんて、リスクが大きすぎる
相手がいつ裏切るか、もしくは、いつ相手が私に裏切られたと思い込むか、わかったものではない
なら、利益で動く相手と、利益のみの関係を持つほうが安心できる
そう、相手は利益で動く存在
そう思っていたのに
恋人ができたそうだ
あいつは今の仕事から足を洗うと宣言し、私の前から姿を消した
追うこともできるけど、無駄なのでしなかった
それに、相手が利益ではなく気持ちで動くようになったら、私はそんなやつを信頼できない
また利害の合う、心で動かない相手を探さないと
でも、あいつは幸せそうだったな
私は今、幸せなのだろうか
もう、幸せだとか、嬉しいだとか、そんな感情はわからなくなってしまった
いつからだろう、こんなふうになったのは
そんなことが頭を巡って、気づいたら涙を流していた
そうだ、思い出した
私は、本当はこんなことをしたかったわけじゃない
いつの間にか忘れていたけど、私だって、心で信頼できる相手が欲しかったんだ
でも、他人を信頼して生きていけるような環境じゃなかった
だから、自分の利用価値で相手を判断し、信頼するようになった
私はどうするべきだったのだろう
私は、今からでもやり直せるのだろうか
失くした感情を取り戻せるのだろうか
そんなことを考えていたら、私の中で何かが少しずつ変わり始めた
やっぱり、このままでいるのは嫌だ
私はこの黒い糸を断ち切って、光の射す方へ歩いていきたい
私自身を変えるために、一歩を踏み出す
恋人ができたあいつにも可能なことなら、私にだってできるはず

6/17/2025, 11:36:53 AM

魔王が勇者の私に勝とうと頑張ってる
戦士を育成し、作戦を練って私に強力な部下たちを差し向けてくる
私はビンタ一発で魔王軍を戦闘不能にしていく
勇者たる私の右手にかかれば、彼らがいかに強くても、一撃のもとに沈めることができてしまう
魔王軍は私の敵ではなかった
にもかかわらず、魔王軍は己を鍛え、作戦を練り直し、私に立ち向かう
そんなことをしても、私には届かないのに

相変わらず魔王軍は向かってくる
飽きもせず、来る日も来る日も私に挑み、ビンタされ、ボロボロになって帰っていく
これだけ負け続けているのに、よく諦めないものだ
その点だけは評価できる
ただ、諦めてくれたほうが、お互いにとって有益なのではないかと思うが

ある時、私は魔王軍がどのようなモチベーションで戦っているのか気になったので、バレないように魔王城へお邪魔することにした
私は潜入も得意なのだ
作戦室らしき場所を覗いてみると、魔王を始め、魔族たちが多く参加していた
彼らは立場に関係なく、積極的に発言し、意見をぶつけ合い、議論している
その姿はとても楽しそうで……私は孤独感が溢れそうになった

私は昔からひとりだった
子供の頃から、私の能力は高すぎたのだ
何をやっても一番
周りは私に決して追いつけない
圧倒的すぎて、友達はできなかった
嫌われたわけではない
おそらく、自分たちでは手の届かない大物だと思われたのだろう
それは今も変わらない
私の圧倒的な力を前に、ともに戦おうと考える者などいるだろうか?
すべて私だけいれば済むというのに?
いるはずがないのだ

私は、魔王軍を羨ましく思った
私も、あの中に入りたい
そんな願いは届かないのに、望んでしまう
今わかった
彼らは私に勝つために、仲間と顔を突き合わせて作戦を練るのが楽しいのだ
だから何度負けても私に挑む
きっと、勝敗よりもこの過程を楽しんでいる

ある日、私の弟子になりたいという者たちが現れた
わざわざ私に師事しようとは、変わった者がいるものだ
だが悪い気はしないし、断る理由もないので、弟子にとることにした
彼らは飲み込みが早く、実践レベルにまで成長するのに、そう時間はかからなかった
ならば、私の代わりに魔王軍と戦ってもらうのもいいだろう
いつも負けっぱなしの魔王軍にも、少しは接戦を体験させてやる
弟子とともに作戦などを立てるのは楽しかった
これこそ、私が憧れていたものだったのだ
それ以来、私は前線から退き、戦闘指揮に徹することにした

魔王軍と私の弟子たちは、まさに互角
お互い、勝ちも負けも何度も味わった
魔王軍は以前より楽しそうに戦っており、私の弟子たちも魔王軍に刺激を受けたようだ
実に生き生きとしながら作戦を練り、戦っている
私も、感じたことのない楽しさに心を満たされていた
私では手が届かないと思っていた願い
しかし、弟子たちによって願いは叶い、弟子たちと魔王軍のおかげで充実した日々を送っている
私は、この楽しい毎日を大切にしていきたい
こんな毎日をくれた弟子たちと魔王軍に、感謝をしよう

6/16/2025, 11:52:21 AM

記憶の地図ではこのあたりにあったはずだ
あったはずなんだが、無い
俺が会社員時代によく通っていた喫茶店
あそこのナポリタン、美味かったんだよな
変に凝った作りじゃなくて、昔ながらのナポリタンって感じでさ
その上で、主張しすぎない確かな個性を感じさせてくれる味だった
最後に食べたのはいつだったろう
ここへ来るまでに長い月日がかかってしまった
あの頃の店主の年齢から考えれば、店を畳んでしまってもおかしくはないか
残念だが、諦めるしかない
……いや、店主には息子さんがいて、将来は親父の店を継ぐつもりなんですとか、俺にこっそり教えてくれたはずだ
その時の意志が変わっていないなら、今は二代目店主になっていてもおかしくはない
もしかしたら、喫茶店は移転したのではないか?
可能性があるなら家族に頼んで聞き込みだ
家族は快諾してくれた
ありがたい
早速近くの人に聞きに行ったわけだが、結果を言おう
やはり移転していた
予想通り、今は息子さんが二代目だそうで、いまだ地域で愛されているらしく、すぐに知っている人と出会えた
というか、最初に話しかけた人が知っていた
教えてもらった通りの場所へ行くと、あの頃と似た雰囲気の喫茶店がそこにあった
入ってすぐ、いらっしゃいませ、と穏やかな声が聞こえた
ああ、間違いない
息子さんだ
あの時、ちょっと騒がしい高校生だった彼が、落ち着きのある素敵な店主になったじゃないか
向こうは変わってしまった俺に気づかないだろうけど
表には昔と同じメニューが並ぶ
懐かしいな
俺はもちろんナポリタンを注文した
しばらくして運ばれてきて、俺は早速フォークに巻いて口に運ぶ
それはまさしく、あの頃の味だった
先代の、親父さんの味をしっかりと受け継いでいるじゃないか
ふと店内を見回してみると、いくつかの写真が額に入って飾ってあった
見覚えのある顔
常連客の人たちだ
みんなにも、長く会えていない
きっと、会って会話することもできないだろう
その中に、昔の俺と初代店主、二代目店主が写る写真があった
俺も、大切な常連だと思ってもらえていたんだな
そういえば、この喫茶店は客との距離が近く、親父さんはよく会話を楽しんでいたが、今の店主はしないのだろうか?
そんなことを考えていると、店主がこちらに来た

「あの写真が気になりますか?」

「ああ、はい
いい写真だなと思って」

あの写真
俺が写った写真だ

「あれ、私と父と、昔よく来てくれた常連の方なんですよ
今は引退してしまった父のナポリタンを気に入ってくれていた人でした
あの人に、僕のナポリタンを美味しいと言ってもらうのが目標だったんですけどね
納得のいくものを作れるようになって、これなら満足してもらえるだろうというものを作れるようになった頃には、もう亡くなってしまっていましてね
僕が父の店を継いだ今の姿、見てもらいたかったな」

彼は、寂しそうに言った

「すいません、こんな話されても困りますね
でも、なんででしょうね、突然話したくなってしまいました」

「その人、きっと喜んでいると思いますよ
お店を継いで、続けてくれたって」

「そうですね
天国で、見ていてくれると嬉しいですね
ありがとうございます」

生まれ変わった今の俺は、常連ではないただの小学6年生の少年
だが、時代が変わり、店主が変わり、生まれ変わっても、このナポリタンの味は変わらず美味かった
一緒に来てくれた家族にまた頼んで、たまに食べに来よう

6/15/2025, 10:57:41 AM

温かい飲み物を飲む際に使うマグカップ
英語ではマグでいいらしい、和製英語のマグカップ
そう、マグカップ
少なくとも、日本でこれはマグカップなのだ
さて、ここで僕の友人Aの言葉を聞こう

「マグコップにはホットココアだよな」

おわかりいただけただろうか?
彼はマグカップを、マグコップと呼称している
確かに、英語ではコップもカップも変わらない
日本語で勝手に呼び分けているだけだ
元の意味を考えればどっちでもいい話なのだろう
しかし、我々は日本語で話しているのだ
和製英語も日本語の内
日本語ではマグカップこそが正しく、マグコップという呼び方は間違いである
さらにカップとコップは日本語では少し異なる意味で使われる
ゆえにもう一度言うが、マグコップではない
マグカップだ
なぜ彼はこんな変わった呼び方をしているのだろう
マグコップだとまるで警察官のようではないか
杯刑事(デカ)
マグカップで何か飲みながら捜査や張り込み、推理などをするのだろうか?
マグカップでコーヒーでも飲むと、推理が冴え渡るのだろうか?
ところで、考えてみたらマグもカップもコップも、日本語にしてしまうとどれも行き着く先は「杯」ではないか?
つまりマグカップにしろマグコップにしろ、あえて直訳した場合杯杯(はいはい)になるのではなかろうか?
なお、杯杯(さかづきさかづき)については考えないこととする
ともかく、はいはいだ
赤ちゃんが移動しているのだろうか?
手にプラスチックのカップをはめて
癒やしの笑顔で親の元へはいはいして来るわけだ
杯杯で、はいはい
で、危ないからとカップを取り上げられてしまう、と
僕は一体何を考えているのか
友人がマグカップをマグコップと呼んでいるだけでよくこんなくだらないことが頭の中から出てくるものだな
それにしても、なぜ彼が頑なにマグコップと呼ぶのか気になる
聞いてみるか

「マグカップって言うとワールドカップとかを連想するわけよ
俺はまだ大会に出られるようなすごい人間じゃないからさ、わざとマグコップって呼んでんだよ」

思いもよらない意味不明な回答が来た
なぜマグカップでワールドカップを連想するのか
いや、それはまだいい
ある言葉から全然別の何かを連想するくらいなら普通にあるだろう
で、大会に出られるような人間じゃないからあえてマグコップと呼んでいる?
まず何の大会に出ようというのか
そして、そのなんらかの大会に出られないからなんだというのか
なぜそれがマグカップをマグコップと呼ぶ理由に繋がるのか
まったく理解できない
しようと思っても、手がかりすらつかめない
友人Aとは長い付き合いだが、まだまだ僕の知らない彼の一面がたくさんあるようだ
今日は友人Aの心の深淵の一端を垣間見た気がする

6/14/2025, 11:24:28 AM

「もしも君が味方だったら、友になれたかもしれないな」

戦いのさなか、彼は少し悲しそうに言った
俺と彼は非常に似た思考をしており、俺自身も、仲間であったならば、気の合う友として背中を預け、信頼しながら戦えただろうと思う
いや、戦い以外でも、きっといい友人関係を築けたに違いない
だが、俺と彼は相容れぬ敵同士
友になれるはずはなく、お互い相手を殺さなければならない
そんな間柄だ
俺が先に死ぬか、彼が先に死ぬか
どうなるかはわからないが、それで関係性は完全に終わる
互いにそれだけの存在
そのはずだった

世の中というもの、常に何かが変化し続ける
環境も、状況も、人の心さえも
俺が仕えていた主は、勝利するために禁断の力に手を出した
決して手に入れてはいけない、おぞましき力
戦いを続けるうち、狂ってしまったのだろう
その瞳は、もはや正気ではなかった
彼はもともと、大きな野望を持ち、目的のためなら手段を選ばないところがあった
だが、ついに越えてはいけない一線を越えたのだ
その力は、敵も味方も関係なく、無惨に喰らい尽くしてしまう、世界を揺るがす力
俺は他の仲間とともに、主を止める決意をし、追手からの追撃を掻い潜り、命からがら敵の、俺と友になれたかもしれない彼のもとへたどり着いた
彼なら俺たちの言うことを信じ、話を通してくれると思ったのだ


俺たちはしばらく拘束された後、証言の裏が取れたらしく、相手方の主に詳しい状況を伝えることとなった
敵である俺たちは、用済みになったら処刑されるのではとの懸念もあったが、どうやら味方として引き入れてくれるようだ
ひとまずホッとしたが、大切なのはこれからだ
仕えていた元主の野望を、なんとしてでも阻止しなければならない
緊張がにじむ中、彼が言った

「大変なことになったが、僕としては少し、嬉しく思っているんだ
不謹慎だけどね」

言いたいことはわかる
俺も実は緊張とともに、内心ワクワクしている自分を感じていた
敵でなければ友となれたであろう相手
その相手と仲間になることができた
彼の強さは嫌というほど理解している
そんな人間が今は味方だ
これほど心強いことはない
おそらく、向こうも同じ思いだろう
そして何より、俺はようやく彼と友人になることができたのだ
二人で協力すれば、どれほど強大な相手であろうと、負ける気がしない
さあ、行こう
この戦いを、おそらく最初で最後の共闘を、勝利で終わらせるために

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