ストック1

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魔王が勇者の私に勝とうと頑張ってる
戦士を育成し、作戦を練って私に強力な部下たちを差し向けてくる
私はビンタ一発で魔王軍を戦闘不能にしていく
勇者たる私の右手にかかれば、彼らがいかに強くても、一撃のもとに沈めることができてしまう
魔王軍は私の敵ではなかった
にもかかわらず、魔王軍は己を鍛え、作戦を練り直し、私に立ち向かう
そんなことをしても、私には届かないのに

相変わらず魔王軍は向かってくる
飽きもせず、来る日も来る日も私に挑み、ビンタされ、ボロボロになって帰っていく
これだけ負け続けているのに、よく諦めないものだ
その点だけは評価できる
ただ、諦めてくれたほうが、お互いにとって有益なのではないかと思うが

ある時、私は魔王軍がどのようなモチベーションで戦っているのか気になったので、バレないように魔王城へお邪魔することにした
私は潜入も得意なのだ
作戦室らしき場所を覗いてみると、魔王を始め、魔族たちが多く参加していた
彼らは立場に関係なく、積極的に発言し、意見をぶつけ合い、議論している
その姿はとても楽しそうで……私は孤独感が溢れそうになった

私は昔からひとりだった
子供の頃から、私の能力は高すぎたのだ
何をやっても一番
周りは私に決して追いつけない
圧倒的すぎて、友達はできなかった
嫌われたわけではない
おそらく、自分たちでは手の届かない大物だと思われたのだろう
それは今も変わらない
私の圧倒的な力を前に、ともに戦おうと考える者などいるだろうか?
すべて私だけいれば済むというのに?
いるはずがないのだ

私は、魔王軍を羨ましく思った
私も、あの中に入りたい
そんな願いは届かないのに、望んでしまう
今わかった
彼らは私に勝つために、仲間と顔を突き合わせて作戦を練るのが楽しいのだ
だから何度負けても私に挑む
きっと、勝敗よりもこの過程を楽しんでいる

ある日、私の弟子になりたいという者たちが現れた
わざわざ私に師事しようとは、変わった者がいるものだ
だが悪い気はしないし、断る理由もないので、弟子にとることにした
彼らは飲み込みが早く、実践レベルにまで成長するのに、そう時間はかからなかった
ならば、私の代わりに魔王軍と戦ってもらうのもいいだろう
いつも負けっぱなしの魔王軍にも、少しは接戦を体験させてやる
弟子とともに作戦などを立てるのは楽しかった
これこそ、私が憧れていたものだったのだ
それ以来、私は前線から退き、戦闘指揮に徹することにした

魔王軍と私の弟子たちは、まさに互角
お互い、勝ちも負けも何度も味わった
魔王軍は以前より楽しそうに戦っており、私の弟子たちも魔王軍に刺激を受けたようだ
実に生き生きとしながら作戦を練り、戦っている
私も、感じたことのない楽しさに心を満たされていた
私では手が届かないと思っていた願い
しかし、弟子たちによって願いは叶い、弟子たちと魔王軍のおかげで充実した日々を送っている
私は、この楽しい毎日を大切にしていきたい
こんな毎日をくれた弟子たちと魔王軍に、感謝をしよう

6/17/2025, 11:36:53 AM