ストック1

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5/30/2025, 11:05:14 AM

僕が書いていた物語
それが完結した
これ以上無いくらい、完璧な結末だったと思えるものだ
評判もかなりいい
もうこの物語で書くべきことはなにも無い
この世界で語られる話は、これで終わり
続きは書きようがない
そう考えていた
読者の人たちもそう思っているはずだ
しかし、ある日ふと頭をよぎったことがある
結末とはいうものの、主人公が死んでしまったわけでも、世界が滅亡したわけでもない
当然、現実だったとしたらこの先も主人公の人生は続いていくわけだ
その先の人生を見ることができない
それはなんだか、もったいない気がする
続きを書こうか?
いや、完璧な形で終わったのに、この先を書いては蛇足なのではないか
読む人たちも、絶対に蛇足だと評価するだろう
僕は無理に続きを書いて、評価を落とした作品をいくつか知っている
けど、僕はすでに先を見たくなっている
書かずにはいられないくらいに
けど、僕は中途半端なものや、今までの物語を台無しにするような話は書きたくないし、書くわけにはいかない
書くのであれば、これまでの全てを全身全霊で解き放つ覚悟がいる
だから、僕はすぐには書かない
すぐにでも取り掛かりたい気持ちを抑えて、見識を広げ、様々な人と意見交換をし、自分を成長させてから書き始めよう
まだ続く物語を、駄作と呼ばれないように、素晴らしい物語にするために
自信を持って発表できる物語を、きっと書いてみせる

5/29/2025, 11:45:07 AM

俺は渡り鳥
世界を旅して回っている
様々な国々の様々な街を訪れ、新しい景色に感動する日々
その度に知らない自分に出会ったかのような気持ちになるんだ
旅で得るものはとても多い
俺はいつも、旅の中で自分が成長しているのを感じている
この旅で俺はどんな風に人として成長できるだろう?
現地の人々に、景色に、空気に、何を感じるだろう?
そんなことを楽しみにしながら向かい、着けば俺は、その場所の一部となって、心が旅先に溶けていく
旅は本当に刺激的で、俺の人生になくてはならないものだ
けど、たまにはふるさとでゆっくりと、長い間くつろいでいたい時もある
俺は久しぶりに、長く自宅で休むことにした
さて、自宅にはいつも短い間しかいないから、長くいると聞いて家族はどんな反応をするかな
喜んでくれるかな?

数週間ぶりに帰ると、豪邸がだだっ広い更地になっていた
あれ?
どういうこと?
とりあえず父に電話をかける

「もしもし、家、どうしたの?」

「お前との絶縁の証として土地を売った
俺と母さんと姉、お婿さん、弟は新しい家で暮らしている」

「えー?なんで?」

「おい、この状況でなぜ声が半笑いなんだ
まあいい
お前が俺たちの金で職にもつかずプラプラ海外旅行をし続けるからだ
いつかちゃんとすると思っていたが、もう我慢の限界だ
俺の弟がもうじきそちらに来るはずだ
あいつの自宅にしばらく住ませてもらえ
……本当はお前を押し付けるなんて迷惑は、かけたくないがな
お前の口座には最低限の金は入れた
その資金で食いつなぎつつ就職しろ
そして部屋でも借りて、とっとと一人暮らしでも始めろ
二度と顔を見せるな
以上」

切られてしまった
ま、いいか
渡り鳥生活も楽しんだし
そろそろ仕事してもいいよな
充分稼いで、飽きたり嫌になったら、また渡り鳥になればいいし
それにしても、二度と顔を見せるなだなんて、よっぽど頭にきたんだなぁ
けど、お金用意してくれてるくらいだから、本気で絶縁する気はないでしょ
なんとか許してもらって、お金が貯まったら旅行に招待しよう
きっと喜ぶぞ、アッハッハッ!

5/28/2025, 11:32:33 AM

さらさらと流れゆく時の砂
せき止めようとしても、砂は私の手をすり抜けて、どこまでも流れていってしまう
これほど時が止まってほしいと願ったことが、今まであっただろうか?
君に会うためにここへ来た
話したいことがたくさんあったから
もう一度、君の笑顔が見たかったから
二時間だけ死者と過ごすことのできる部屋
そこで君は、変わらない笑顔で私を迎えてくれた
それだけでとても嬉しい
だけど、できないとわかっていても、どうしても大切な君といつまでも一緒にいたいと願ってしまう
そんな本音を言ったら、君を困らせてしまうだろうし、君だって同じ気持ちだろうから、私がそれを話すことはない
君といる時間は、やっぱり楽しいな
ずっとこのままがいいと願わずにはいられない
それでも、さらさらと流れる砂を止めるすべはなく、別れの時間は来てしまう
大切な私の娘
また会えて嬉しかったよ
君の成長していく姿を見られないのが残念だけど、仕方のないことだ
君の幸せを願っている
君にはいつまでも笑っていてほしいんだ
だから、泣かないで
私がいなくても、きっと、私以外の大切な人たちが君を笑顔にしてくれる
君の前から突然いなくなってしまって、本当にごめん
そして、私の娘として生まれて、元気に生きていてくれて、ありがとう
私は君のおかげで幸せだったよ
さあ、そろそろ私は私の逝くべき場所へ向かわなければ
さようなら
いつまでも元気でね

5/27/2025, 11:25:13 AM

長く続いた裁判も今日で終わる
被告人 剛立 猛々史(ごうだつ たけだけし)の最終判決が今、確定しようとしていた

被害者 伸火野 美太(のびの びた)は緊張しながらも、強い意思で被告人を見つめている
検事 皆素 烈日(みなもと れっか)は、どこか確信めいた瞳で静かに佇む
弁護士 本音仮話 常夫(ほんねかわ つねお)は少しの悔しさをにじませているが、できることはやりきった、という表情だ
被告人 剛立 猛々史は、無罪は無理だと思いつつ、しかし、勝利を確信したかのような余裕の態度を崩さなかった
今までも、彼はやり手の本音仮話の弁護により、常勝とまでは行かずとも、軽罰で済ませてきたのだ
全勝はしていないが実質上の不敗
伸火野が逆らってきたのは予想外だったが、今回もたいしたことはないだろう
そう考えていた

いよいよ、裁判官 寅 左衛門(とら さえもん)が判決を言い渡す

「被告人 剛立 猛々史は、嫌がる被害者から無理やりこ◯亀全巻を借り、そのまま逮捕に至る一年間、返却しないという悪質な借りパク行為を行った
また、ジョ◯ョの既刊全巻も借り、そのまま十ヶ月間返却しない借りパク行為をするだけにとどまらず、友人に自分のものだと嘘をついて又貸し
返さなくてもいいなどと言い、行方不明となる原因を作った
大切に保存していた被害者の精神的苦痛は察するに余りある
また、被告人はその後も、しょうがねえだろ、借りたこと忘れて自分のだと思ったんだから、などと笑いながら周囲に話しており、反省の色もなく悪質極まりない言動であり、酌量の余地はない
また、前科も複数あり、更生しているとは言い難い
これらを踏まえ被告人には、くさや、シュールストレミング、サルミアッキ、全部食べきるまで帰れませんの刑を下す他ないと考える」

法廷内がどよめいた
被告人、弁護士、傍聴人
法廷内にいる多くの人々は、一週間納豆パクチー生活の刑で済むのではないか、と考えていたからだ
しかし、検事と被害者にとっては予想通りだった
被告人はあまりにも多くの罪を重ねすぎた
そして、今回は特に悪質性が高いと判断されたのだ
エリート弁護士 本音仮話の実力を以ってしても、更生の意思がなく、さらに悪質な罪を重ねた剛立を軽罰で済ませることはできなかったのである
今回下された判決は、非常に恐ろしいものだ
過去には、非人道的だとの批判も上がったほどである
これまで、この刑が執行された全ての罪人は、強烈なトラウマを植え付けられ、二度と悪事はせず、狂ったように社会奉仕活動に邁進するようになったという
この刑を受けることで、被告人 剛立 猛々史が重ねる罪も、これで最後になるだろう

5/26/2025, 12:40:11 PM

それは不思議な体験だった
子供の頃の話だ
その年の夏休みに、三日間だけ会えた子がいた
今でもよく覚えている
あの子と過ごした、三日間を


退屈だ
友達と遊ぶ約束が向こうの急用で中止になった
けど、出かける気満々だったのに、いまさら家で過ごすのはなんか嫌だな
行く先があるわけじゃないけど、ちょっとそのへんを散歩しよう
そう考えて、ちょっと遠い、いつも行かない公園を目指して歩いていった
思えば、公園への道の途中から不思議なことは起きていた
公園まで半分のところへ来たあたりから、通行人が誰もいなかったし、車も一台も通らなかったのだ
珍しいな、と思いながら公園へ着くと、ベンチに女の子が座っていた

「君、このあたりの子?」

突然話しかけられて僕は少し驚いたけど、別に人見知りではないから普通に返事をする

「そうだよ
君は、このへんに住んでないの?」

「うん
遠い場所から来た」

夏休みだし、おじいちゃんおばあちゃんの家に遊びに来ているのかもしれない
神秘的と言うのかな?
そんな雰囲気を感じる子だ

「君、ひとり?
誰かと待ち合わせしてるの?」

「遊ぶ予定だったけど、友達に急用ができちゃったんだ
それで、暇つぶしの散歩のゴールってことで、ここに来ただけだよ」

「そうなんだ」

それにしても、見ず知らずの相手にこんなに喋りかけるなんて、珍しい子だな
僕だったら絶対にそんなことはできない

「よかったら君のこと、聞かせてよ」

そう笑顔で言うその子に、僕は懐かしさに近い、でも根本的に何かが違う、変な感覚を感じながら、隣りに座った
彼女は色々と質問してきて、僕はそれに答えたり、話を広げたりした
聞き上手な子で、僕も楽しみながらたくさんの話をしていく

「そろそろ行かなきゃ」

そう言って女の子が立ち上がった
どれくらい話しただろう?
時間の感覚がない

「明日も、ここで話さない?」

「え、いいけど」

提案された僕は困惑したけど、別に断る理由もないのでOKした
友達にまた誘われるかとも思ったけど、まあそれはいいか
ごめんだけど、断ろう


次の日、公園にはまたあの子がいた
今度は僕が彼女のことを聞こうと思っていたけど、公園に来たらそんなことはすっかり忘れて、気がついたら聞かれるがまま、僕の話をしてしまう
でもしばらくして、その子の方から自分の話をし始めた
とは言っても、自分の生活のことじゃなかったけど

「私、探してる場所があって」

聞けば、この街のどこかに、とある石碑があるらしい
それがなんの石碑なのかは教えてくれなかったけど、探しているそうだ
その石碑の場所へ行きたくても、どこにあるかわからない
だから一緒に探してほしい、とのこと
僕はどうせ暇なので、付き合うことにした

「見つからないね」

「うーん、闇雲に探してもダメじゃないかな」

正確な時間はわからないけど、長く探した気がする
でも全然見つからない
ただ、誰かに聞こうにも、周りに人がいない

「今日はもうここまでにしようか
明日も、一緒に探してくれないかな?」

僕は「うん、いいよ」と答えた
なんだか、放っておけなかったから


次の日、やっぱり公園にその子はいた
どうやら、あのあと少し調べたらしく、今日こそは見つかりそうだと言っていた
僕は彼女に付いていきながら、促されるまままた、自分のことをたくさん話した
向こうは自分の話を、やっぱりしなかったけど
僕自身も、この子の話を聞こうと思っていたことをすっかり忘れていた
そうしてようやく、木が鬱蒼と生い茂る林の前に石碑を見つけた

「これを探してたんだ
この先に、行きたい場所があるんだけど、来てくれる?」

彼女は来るよね、という感じの表情をしていて、僕はここまで来たのだから、最後まで付き合うことにした
石碑の裏の林の道を進むと、階段があった
この街にこんな場所があったんだ
二人で階段を登っていく
すると神社に似た、けど神社とは違う、不思議な建物にたどり着いた

「私、ここへ来たかったんだ」

「そうだったんだね
なんだか、不思議な場所だな」

「うん、とても不思議な場所
君のおかげでたどり着けたよ」

僕はその時、そういえば、この子の名前を知らないな、と思って名前を聞いた

「私?
私は×××××」

それが、この子の名前か
名前を聞いた僕は、不思議な感覚に包まれた

「僕は永島 湊」

「うん、湊ね
あのね……湊
私、ここでやることがあるんだ
ここまで付き合ってくれてありがとう
ちょっと時間がかかることだから、先に帰ってて」

「わかった」

その時、僕はなんでか、この子が何をしようとしているのか、全然気にならなくて、素直に帰ろうと思った

「じゃあね、×××」

「うん、またね」

×××
初めて君の名前を呼んだ日、それが最後に会った日になった


その後、公園に行ったけど、あの子には会えず、記憶を頼りに石碑を見つけたけど、林も階段もなく、石碑の後ろはただの駐車場だった
そして僕は、聞いたはずの名前を思い出せないことに気付いた
あの子はいったい、何者だったんだろう?
とても不思議な子だった
もしかしたら、神様だったのかな?
またね、と彼女は言った
なら、きっとまた会えるよね


それから数十年が経って、僕は結婚し、子供ができた
そして成長した娘を見て、ふと、あの時の子の顔が重なった
娘の名前は永島 真理華
思い出した
あの時、僕が一緒に石碑を探した子も、永島 真理華だった
どうしてだろう?
今まで忘れていた
もしかしたら、この子は、僕の知らない理由で過去へ行き、小学生の僕に会いに行ったのではないか
なぜ過去へ行ったのか
あの石碑は、あの建物は何だったのか
気になることは色々ある
だから本人に聞こうと思ったけど、やめた
人は誰しも……親子であっても秘密があるものだし、なんとなく、その時が来たら話してくれる気がしたからだ
またね、か
ずいぶん長くかかったけど、やっと再会できた
そんな気がした夏の日だった

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