ここのところ疲労が溜まっている
趣味に取り組む元気もない
友達が、労る言葉や励ましの言葉をくれたけど、気分的に余裕がないからか、いまいち心に響かない
今日がようやく訪れた休みなのがせめてもの救いか
思い切りダラダラと過ごす休日
一日を無駄に消費する罪悪感をごまかしながら、私は休息に全てを注いだ
注いだのだが
まったく疲れが取れないのはなぜだろう
いや、むしろ疲れが増した気がする
休んでいるはずなのに、おかしい
そこでふと気がついた
私は、何もしなさすぎて疲れているのだ
ボーっとしながら、基本的に飲む食べる以外の行動をせず、寝っ転がっているだけ
要するに、疲れて何もできないけど、休むと退屈なのだ
あまりにも退屈で、精神がすり減って疲れが増したのだろう
かといって、楽しいことなんてできない
できる元気があれば、とっくにやっている
どうしたものか
考えるだけの余力も失って、部屋でゴロゴロしていると、強めの雨が降ってきた
降ったのが予定のない休みの日でよかった、などと思いながら、相変わらずゴロゴロし続ける
するとそのうち、窓越しだからだろうか
強く降っているわりに、耳に入ってくる音は、やさしい雨音に聴こえた
私はいつの間にかその雨音を集中して聴いていた
これがなかなか癒やされる
私に必要だったのはこれか
心がだんだん軽くなるのを感じる
天然のヒーリングミュージックを聴きながら、私は今度こそ疲れの取れる休息を取ることに成功するのだった
エイリアン vs エイドリアン
ネットロブスターにて配信開始!
クレイジーな宇宙生物と、夢破れた崖っぷちの女の、熾烈な戦いが始まる!
あ、これ絶対に俺が好きなやつじゃん
タイトルからしてふざけてる、この好みど真ん中の映画は見ないわけにはいかないな
人生がうまくいかず追い詰められた主人公がひょんなことから、地球に現れたエイリアンと戦うことになって、戦いを通して眠っていた才能に目覚めていく、という感じだと予想した!
映画の内容、全然違ったわ
いや、面白かった
すんごく面白い
好みの映画であることは間違いない
でも見る前に予想はできないよアレは
歌手を夢見たけど、鳴かず飛ばずで事務所をやめる直前まで追い詰められたエイドリアンが主人公
ある日、地球に自分の音楽を広めに来たエイリアンが現れるが、それは彼らの科学力でパターンを読み、人類から称賛されることだけを目的とした、中身のない歌だった
エイリアンはその歌に人類を依存させ、無力化することで地球を支配しようとしていたのだ
天性の才能でそのことに気付いたエイドリアンは、歌を侵略の道具に使うエイリアンの計画を阻止するため、打算のない、自分自身が作った好きな歌で、人々の心を動かそうと考える
皆がエイリアンの歌に聴き惚れる中、エイドリアンも、徐々に才能を認められていく
危機感を感じたエイリアンは、エイドリアンに宣戦布告
そうしてエイリアンとエイドリアンの、異種歌合戦が始まる
最初は劣勢のエイドリアンだったが、最後は心から嬉しそうに、聴く人たちのために歌うエイドリアンの歌で観衆が感動
歌合戦は彼女の勝利で幕を閉じる
そして皆がエイリアンの、聴かせるためではなく、支配のために作られた歌の虚しさに気づき、エイリアンの歌の人気は低迷していった
エイリアンの計画は失敗して地球を去り、エイドリアンは、誰もが認める歌手となった
無茶苦茶なストーリーだったが、それがまた面白い、そんな映画だった
ん?
俺の想定した内容とは全然違うけど、字面だけ見ると、さっきの予想したあらすじ、間違ってはいないな
それはともかくこの映画、もちろん星5をつけて熱い思いを書かせてもらった!
それを見られてはいけない
気づかれてはいけない
カモフラージュとなる包装紙でそっと包み込んで、決して中身がバレないように、気を付けて守りながら自宅へ向かう
緊張を周囲に気取られるな
普段通りに歩け
僕の心はいたって平穏
おかしなところはなにもない
ごく普通の日常の中で、自宅へ帰るだけ
そう、自分に言い聞かせるんだ
心の隙は不自然さを発生させる
万全を喫して警戒しつつ、表面上はのんきな通行人Aでいなければならない
店を出てから尾行されている気配はないが、念の為、信頼できる友人の住むマンションへ寄る
僕はそこで着替えた後、荷物をキャリーバッグに入れ替え、友人が趣味で使うウィッグを借りて変装をした
もちろんサングラスもかける
完璧だ
警戒は解かないが、これで奪われる恐れは低くなった
尾行する者がいても、僕だと認識できないだろう
まさかここまでするとは思わないはず
結果として、僕は全くトラブルに遭わず、自宅に帰ることができた
いつもの道だけど、とても疲れた
大げさに思えるかもしれないが、何かと物騒な世の中だ
こうでもしないと危ない、と考えてしまうのは仕方のないことだろう
待ちに待った、抽選を勝ち抜き発売日に手に入れた次世代ゲーム機
開封の儀を始めよう
「昨日と違う私を見て!」
遊びに来ると約束した友達が、私が玄関のドアを開けた途端にそんなことを言い出した
ポーズをキメてるけど、見たところ何も変わっていない
「ええと、髪切った?」
「切ってないよ」
「爪切った?」
「切ってないし、そんなところ気づかれたら気持ち悪いよ」
「だよね」
しかしどう見ても、昨日と違う私なんてことを言うほどの変化は感じられない
もうギブアップしよう
「で、なにが違うの?」
「昨日負けたあと、スピードの特訓を家族としまくったんだよ
今日の私は超強くなってるよ!」
わかるか
というか、そんなことをするほど悔しかったの?
よく友達とのトランプ遊びでそこまで悔しがれるな
成長する力が強そう
「じゃあ、手を洗って準備してて」
「はいはーい」
私はトランプを取り出し、テーブルの前に座る
友達も対面に座った
赤と黒に分けたトランプをシャッフルし、赤を私、黒を友達に台札としてセット、そこから四枚の場札を置いて準備完了
ルールは、お互い台札から引いた赤と黒のカード一枚を隣同士に置いて、ゲームスタート
数字が次か前の場札を、置いてあるカードへ素早く重ねていく
場札が四枚未満になったら、台札から四枚になるまでは補充可能
先に台札と場札が尽きたほうが勝ちだ
昨日までの友達は恐ろしく弱かった
そんなに強くない私が言うのだから間違いない
しかし、今日は気迫を感じた
昨日の特訓で仕上げてきたようだ
これは私が負けるかも
「では、お手並み拝見」
二人で構えを取る
「「せーのっ」」
…………
……
…
あの気迫はなんだったのだろう
一朝一夕で強くなれるほど、スピードは甘くなかったらしい
「昨日と違う私を見て!」
と自信を持って言いながらも、昨日と一片も違ってなかった友達は、私の手さばきについていけず、無惨にもボロ負けを喫した
「なんでだぁぁぁ!」
「強さが下の下だからでは?
実力の差だよ
ちなみに私は自分を下の上だと思ってる」
「そんなセリフ言ってみたい」
「自分が下の上って、そんなに言ってみたい?」
「……実力の差だよ、の方」
友達はその後
「一週間!一週間で仕上げてくるから!
その時は絶対に目にもの見せてやるから、待っててね!」
などと啖呵を切って帰っていった
一週間でどこまで強くなれるのかは知らないけど、今日と違う友達の実力を見られたらいいな、とは思う
その方が絶対に面白い
早く私を越えるがいい……なんてね
下の上が何言ってんだ
着陸成功
機体のステルス状態を確認
では行こう
作戦名はBy Sunriseだそうだ
『どういう意味だ?』
地球の英語という言語で、日の出までに、という意味らしい
我々の地球での活動期限が日の出までだから、とのことだ
『わざわざ誘拐する相手の使う言語で作戦名を付けるなんて、なんだかなぁ』
私もどうかと思うが、あの人のセンスが悪いのはいつものことだ
ま、ここでは日本語が主流らしいがね
一番近い英語圏はどこだったか……いや、今はどうでもいいか
『しかし気が乗らないよな
よその星の別種の生物とはいえ、知的生命体で、俺たちとそう思考の変わらない存在を誘拐し、連れ帰ってそこでの生活を強制するんだろ?
さらにそれを観察するなんてさ』
非人道的だとの意見も多かったはずだが、いつのまにか承認されていたな
不透明さが気に食わんが、私たちは嫌だと言ってもやるしかない
生活がかかっているからな
『地球ってのを見てきたけど、ここより遥かに文明が高い俺たちの、思考レベルっていうのかな
なんというか、社会的な賢さが大して変わらないと知った時はショックだったぜ
地球で起きてる問題とあんま変わらねえ
俺たちは文明以外成長してねえなってさ』
そうだな
さらに研究のために誘拐なんていう野蛮行為に手を染めようとしている
とはいえ、それはそれ
仕事は仕事として取り組むよ、私は
『自分が情けなくなるが、こればっかりはな
おっ、ちょうどよさそうなやつがいるぞ
深夜に一人
他に人はいない』
最適な相手に出会うのが、思ったより早かったな
心苦しいが楽で助かる
行くぞ、3、2、1、ゴー!
「えっ!?」
『心の痛い、簡単な仕事だったな』
仕事はまだ終わっていない
この地球人に事情を説明しなければ
翻訳機能は、大丈夫そうだな
よし
突然すまない
我々は君たちの言うところの宇宙人……もしくは異星人といったところだ
君に危害を加えるつもりはないことを、先に言っておく
「え、う、宇宙、人?」
混乱するのも無理はない
我々は君たちに近い姿をしているが、本当に宇宙人なんだ
よく見れば人ではありえない瞳や耳、ところどころに鱗なんかもあるだろう?
「……」
『いきなりすまなかった
混乱している中、もうひとつ伝えないといけないんだがな、君は長い間俺たちの星で生活しなくちゃならない
ひどいことだが、上からの命令でさ、君を誘拐して、異星での生活を観察するって実験をやるんだ
できる限り不自由のないようにするが、地球には気軽に戻れない』
そんな気になれないだろうが、向こうで友人も作れるし、娯楽も揃ってはいる
……なんて言っても、今は頭に入らないかも知れないから、後で詳しく話すが、本当にすまないと思っている
それは本心だよ
「……あの、事情はなんとか飲み込めました
まだ、混乱してるけど
それで、こんなこと聞いていいのか、わからないですけど、地球に二度と帰らなくても大丈夫、ですか?」
うん?
二度と?
地球にいたくないのか?
別れたくない相手とか、君がいなくなって悲しむ人がいるんじゃないか?
「もうそんな人、いないです
家族は亡くしたし、周りの人は、私が邪魔みたいで、辛く当たってくるし……
もういっそ死んでやろうかと思ったけど、それも怖くて、それでなんとなくうろついてたんです」
そ、そうなのか
『……なぁ相棒、なんだか、思った展開と違うっつーか、可哀想だぜ
この子をなんとかしてやりたいよ俺は』
そうだな
だが、ちょうどいいんじゃないか?
『まぁ上も、被験体にする以上、楽しい毎日を報酬として提供するって言ってたもんな』
聞いてくれ
君が私たちの星で生活し続けたいというのなら、そうしてやれる
気のいい友人もできると思うし、こちらもそのサポートはする
地球では味わえなかった楽しみや、平穏な暮らしを約束するよ
もちろん、自由だって保証する
もう、苦しまなくて大丈夫だ
「ありがとうございます
……なんだか、ホッとしました」
『よほどつらかったんだな
だが、そんな生活とはもうおさらばだ
まだ着いてないけど、ようこそ我が母星へ
俺たちは君を歓迎するよ』
なにはともあれ、By Sunriseは成功だ
私としては、悪行をするはずだったが、人助けになって、少し安心しているよ
『誘拐には変わりないけどな』
「あの、By Sunriseって?」
作戦名だ
日の出までに誰かひとり誘拐する、というな
それに君が選ばれた
「日の出、ですか
別の星で、これから私の人生の日の出が見られそうですね」
『おっ、まさにその通りだ!』
これから存分に幸せになるといい
私たちも応援しているよ
「はい!」