ストック1

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「昨日と違う私を見て!」

遊びに来ると約束した友達が、私が玄関のドアを開けた途端にそんなことを言い出した
ポーズをキメてるけど、見たところ何も変わっていない

「ええと、髪切った?」

「切ってないよ」

「爪切った?」

「切ってないし、そんなところ気づかれたら気持ち悪いよ」

「だよね」

しかしどう見ても、昨日と違う私なんてことを言うほどの変化は感じられない
もうギブアップしよう

「で、なにが違うの?」

「昨日負けたあと、スピードの特訓を家族としまくったんだよ
今日の私は超強くなってるよ!」

わかるか
というか、そんなことをするほど悔しかったの?
よく友達とのトランプ遊びでそこまで悔しがれるな
成長する力が強そう

「じゃあ、手を洗って準備してて」

「はいはーい」

私はトランプを取り出し、テーブルの前に座る
友達も対面に座った
赤と黒に分けたトランプをシャッフルし、赤を私、黒を友達に台札としてセット、そこから四枚の場札を置いて準備完了
ルールは、お互い台札から引いた赤と黒のカード一枚を隣同士に置いて、ゲームスタート
数字が次か前の場札を、置いてあるカードへ素早く重ねていく
場札が四枚未満になったら、台札から四枚になるまでは補充可能
先に台札と場札が尽きたほうが勝ちだ

昨日までの友達は恐ろしく弱かった
そんなに強くない私が言うのだから間違いない
しかし、今日は気迫を感じた
昨日の特訓で仕上げてきたようだ
これは私が負けるかも

「では、お手並み拝見」

二人で構えを取る

「「せーのっ」」


…………
……

あの気迫はなんだったのだろう
一朝一夕で強くなれるほど、スピードは甘くなかったらしい
「昨日と違う私を見て!」
と自信を持って言いながらも、昨日と一片も違ってなかった友達は、私の手さばきについていけず、無惨にもボロ負けを喫した

「なんでだぁぁぁ!」

「強さが下の下だからでは?
実力の差だよ
ちなみに私は自分を下の上だと思ってる」

「そんなセリフ言ってみたい」

「自分が下の上って、そんなに言ってみたい?」

「……実力の差だよ、の方」

友達はその後
「一週間!一週間で仕上げてくるから!
その時は絶対に目にもの見せてやるから、待っててね!」
などと啖呵を切って帰っていった
一週間でどこまで強くなれるのかは知らないけど、今日と違う友達の実力を見られたらいいな、とは思う
その方が絶対に面白い
早く私を越えるがいい……なんてね
下の上が何言ってんだ

5/22/2025, 11:25:05 AM