着陸成功
機体のステルス状態を確認
では行こう
作戦名はBy Sunriseだそうだ
『どういう意味だ?』
地球の英語という言語で、日の出までに、という意味らしい
我々の地球での活動期限が日の出までだから、とのことだ
『わざわざ誘拐する相手の使う言語で作戦名を付けるなんて、なんだかなぁ』
私もどうかと思うが、あの人のセンスが悪いのはいつものことだ
ま、ここでは日本語が主流らしいがね
一番近い英語圏はどこだったか……いや、今はどうでもいいか
『しかし気が乗らないよな
よその星の別種の生物とはいえ、知的生命体で、俺たちとそう思考の変わらない存在を誘拐し、連れ帰ってそこでの生活を強制するんだろ?
さらにそれを観察するなんてさ』
非人道的だとの意見も多かったはずだが、いつのまにか承認されていたな
不透明さが気に食わんが、私たちは嫌だと言ってもやるしかない
生活がかかっているからな
『地球ってのを見てきたけど、ここより遥かに文明が高い俺たちの、思考レベルっていうのかな
なんというか、社会的な賢さが大して変わらないと知った時はショックだったぜ
地球で起きてる問題とあんま変わらねえ
俺たちは文明以外成長してねえなってさ』
そうだな
さらに研究のために誘拐なんていう野蛮行為に手を染めようとしている
とはいえ、それはそれ
仕事は仕事として取り組むよ、私は
『自分が情けなくなるが、こればっかりはな
おっ、ちょうどよさそうなやつがいるぞ
深夜に一人
他に人はいない』
最適な相手に出会うのが、思ったより早かったな
心苦しいが楽で助かる
行くぞ、3、2、1、ゴー!
「えっ!?」
『心の痛い、簡単な仕事だったな』
仕事はまだ終わっていない
この地球人に事情を説明しなければ
翻訳機能は、大丈夫そうだな
よし
突然すまない
我々は君たちの言うところの宇宙人……もしくは異星人といったところだ
君に危害を加えるつもりはないことを、先に言っておく
「え、う、宇宙、人?」
混乱するのも無理はない
我々は君たちに近い姿をしているが、本当に宇宙人なんだ
よく見れば人ではありえない瞳や耳、ところどころに鱗なんかもあるだろう?
「……」
『いきなりすまなかった
混乱している中、もうひとつ伝えないといけないんだがな、君は長い間俺たちの星で生活しなくちゃならない
ひどいことだが、上からの命令でさ、君を誘拐して、異星での生活を観察するって実験をやるんだ
できる限り不自由のないようにするが、地球には気軽に戻れない』
そんな気になれないだろうが、向こうで友人も作れるし、娯楽も揃ってはいる
……なんて言っても、今は頭に入らないかも知れないから、後で詳しく話すが、本当にすまないと思っている
それは本心だよ
「……あの、事情はなんとか飲み込めました
まだ、混乱してるけど
それで、こんなこと聞いていいのか、わからないですけど、地球に二度と帰らなくても大丈夫、ですか?」
うん?
二度と?
地球にいたくないのか?
別れたくない相手とか、君がいなくなって悲しむ人がいるんじゃないか?
「もうそんな人、いないです
家族は亡くしたし、周りの人は、私が邪魔みたいで、辛く当たってくるし……
もういっそ死んでやろうかと思ったけど、それも怖くて、それでなんとなくうろついてたんです」
そ、そうなのか
『……なぁ相棒、なんだか、思った展開と違うっつーか、可哀想だぜ
この子をなんとかしてやりたいよ俺は』
そうだな
だが、ちょうどいいんじゃないか?
『まぁ上も、被験体にする以上、楽しい毎日を報酬として提供するって言ってたもんな』
聞いてくれ
君が私たちの星で生活し続けたいというのなら、そうしてやれる
気のいい友人もできると思うし、こちらもそのサポートはする
地球では味わえなかった楽しみや、平穏な暮らしを約束するよ
もちろん、自由だって保証する
もう、苦しまなくて大丈夫だ
「ありがとうございます
……なんだか、ホッとしました」
『よほどつらかったんだな
だが、そんな生活とはもうおさらばだ
まだ着いてないけど、ようこそ我が母星へ
俺たちは君を歓迎するよ』
なにはともあれ、By Sunriseは成功だ
私としては、悪行をするはずだったが、人助けになって、少し安心しているよ
『誘拐には変わりないけどな』
「あの、By Sunriseって?」
作戦名だ
日の出までに誰かひとり誘拐する、というな
それに君が選ばれた
「日の出、ですか
別の星で、これから私の人生の日の出が見られそうですね」
『おっ、まさにその通りだ!』
これから存分に幸せになるといい
私たちも応援しているよ
「はい!」
5/21/2025, 11:42:19 AM