ストック1

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5/11/2025, 11:11:17 AM

地空族は、未来予知能力を持つ種族であり、また、発明家も多かった
彼らはある時、地上が眩いほどの光りに包まれ、人類が滅亡する未来を見た
他の生物は何事もなかったかのようにそこにあり、人間だけが忽然と姿を消す
地空族のリーダーは、我々人類が、神の怒りに触れ、神罰を与えられるのだと告げた
滅亡を回避するため、地空族は空を飛ぶ船の開発を急いで開始する
できる限りの人々を船に乗り込ませ、人類を存続させるために
作られた船は、未来への船と名付けられ、地空族は、人々の未来を守るため、世界に向けて自分たちの未来予知の内容を話した
だが、前回地空族の未来予知が発動したのは、実に500年前
伝承でのみ語られる能力に、他の人々は疑いの目を向けた
結局、誰も彼らの話は信じず、地空族は無力感の中、自分たちだけで未来への船に乗り込んだ
それから少し経ったある日、地上は予知通り、眩い光に包まれ……空にいた地空族を除く全人類が消失した
悲しみの表情で未来への船から降りる地空族たち
彼らは絶望しながらも、残された自分たちで、新たな歴史を作っていこうと決意するのだった


とある場所にて、未来への船に乗らなかった人類たちは、気がつくとそこにいた
自分たちのいた場所よりも、かなり高度に発展した文明
信じられないほど高い建物が並び、空中には、人が乗っているらしきいくつもの塊が行き交う
元いた場所で3000万人ほどいた人類は、地空族を除いたその全員が、場所は違えど同じような光景に驚いていた
そんな中、住人であろう人々が、各地に分かれた合計3000万人に、それぞれの場所で以下のように告げた
あなた達は遠い未来へ来たのだ
あなた達の時代で言う地空族が数万年かけて築き上げた文明が、今目にしている光景だ、と
どうやら地空族は未来予知によって、過去からたくさんの人々が現れるこの事態を知ったらしい
混乱する人々だったが、地空族の丁寧な説明で落ち着きを取り戻していった
なぜこんな事が起きたのか
それは、かつて地空族が予想したような神罰などではなく、宇宙で星の位置が特定の並びになったことによって起きた大災害の一種だという
また、この大災害は、地上にいてなおかつ特定の生物(地空族はDNAがどうだとか言っていた)にしか降りかからないそうだ
未来への船に乗った地空族ではなく、乗らなかった他の人類が、大災害に巻き込まれ、未来への旅をすることとなったというわけだ
事態がまだ飲み込めていないが、地空族はそんな過去の人類たちを温かく迎えた
過去の人類たちはそれだけで少し安心感を覚える
これから、未来へ送られた過去の人類の、新たな生活が始まるのだ

5/10/2025, 11:53:14 AM

私は冒険者組合の定めるクラスAの魔道士となるために、十二賢者のいる地へ巡礼する旅をしている
すでに十一人から証を頂いたので、残るは一人
そして、最後の一人がいる、この静かなる森へ来たわけだが……
これは生きて帰れる気がしないぞ
目の前には、ドラゴンがいる
いや、普通のドラゴンなら問題はないんだ
温厚ならばこちらが危害を加えない限り、襲いかかってくることはない
好戦的だとしても、私一人でなんとかなる
それくらいの実力は私も持っているのだ
だが、目の前のこいつの姿は、以前絵画で見た、数十年前に勇者の力をもってしても倒しきれず、深手を負わせて退けるに留まった邪竜そのものだった
恐怖で呼吸が乱れるのを感じる
勇者が仕留められなかった相手だ
私程度の魔道士では、逃げることは叶わない
しかしなぜこんなところに邪竜がいるんだ
聞いてないぞ
混乱しながらなんとか生き残る術を考えていると、邪竜は口を開けた
炎のブレスでも吐く気か?
と身構えた私だったが、邪竜は私に向かって喋りだした

「お前は、賢者の元を回っている魔道士か?」

なにがなんだかわからないが、とりあえず攻撃の意志はなさそうだったので、私は「そうだ」と答えた

「信じられんだろうが、俺を警戒する必要はない
俺に人を襲うつもりは、もうないからな」

何かわけがありそうだ
私はひとまず警戒を解いて、邪竜の話を聞くことにした
たぶん、大丈夫だろう
大丈夫だよな?

「まず、ここにいた賢者フォングストだがな、半年ほど前、寿命により亡くなった」

賢者が寿命で?
いや、確かに人の寿命を超える長寿でも、不死ではないから、いつかは亡くなるのだろうが、私が生きる時代に賢者が亡くなるとは、想像もしなかったぞ

「俺は勇者に敗れたあと、この森に逃げ込んだが、そこでフォングストから、お前の命を助ける代わりに契約せよ、と持ちかけられた」

邪竜によると、その契約はフォングストが生きている間、逆らうことができなくなる、いわゆる隷属魔法をかけるというもので、使ったら普通に死罪レベルの魔法だった
賢者がそんな事をするのか?
いや、相手は邪竜だけれども

「誤解のないように言うが、彼は俺が人を襲ったりしない限りは、自由にさせてくれた
そして、寿命を悟って俺に自分の知識と知恵を授け、新たな賢者にしようとしたんだ」

大変だったが、充実した毎日だった、と懐かしそうに目を細める邪竜
ということは、目の前にいるこの邪竜が、私が最後に会うべき賢者だ、ということなのか

「これからお前に証を授けるわけだが、今までの賢者の試練はどうだった?」

私は、かなりキツかったが終わると達成感と心地よさを感じたと、正直に言った

「そうか
そう思えるなら、お前はもうクラスAで問題はない
実は、俺が証を授けるのに、試練はないんだ
先代の時も、そうだったんだがな」

ありがたいはずなのに、なんだか少し残念な気分だ
不思議ではあるが、試練を楽しんでいた自分もいたようだ

「試練じゃないが、合格不合格はある
俺は最終的に、クラスAに相応しいかどうか、最後に見極める役割を持つ
実力はあっても、人間性とかで合格にするわけにはいかない奴も、たまにいるからな」

確かに、クラスAともなれば、影響力は強くなる
実力は折り紙付きだが、素行の悪い、もしくは悪意に満ちた人間がなったら、ロクなことにならないだろう

「お前は文句無しで証を得るに相応しい人間だ、おめでとう
クラスAになっても、これからも変わらず、冒険者として人の役に立とうとする魔道士であれよ」

私に笑いかけた新たな賢者は、もはや邪竜とは思えないほどの慈愛の眼差しと、風格をまとっていた
かつて邪竜と呼ばれていても、賢者になれるのだ
私も、今よりもっと多くの人を助けられる、素晴らしい魔道士になろうと誓うのだった

5/9/2025, 10:55:38 AM

「夢を描け!」

叔父が僕に言った言葉だ
僕は、そんなことを言われても、特に夢なんてないから困る、と思った

「別にサッカー選手になりたい!とか、プログラマーになりたい!だとか、将来は公務員だ!とか、そんなのじゃなくてもいいんだよ」

夢って言うと、将来の仕事とかを指すことが多い気がするけど、叔父が言いたいのはそうじゃないらしい

「日々の夢ってやつだよ
明日は美味しい料理を作りたい、とか
遊園地で目当てのアトラクション全部乗りたい、とか
ここまで勉強したらご褒美にスイーツ食べるぞ!とか
そういうのを考えてると、楽しいだろ?」

それは楽しそうだけど、夢ってほどかな?
僕の訝しげな表情を見て、叔父は苦笑した

「まぁ、夢っていうとどうしてもなぁ
大きいことを考えちゃうよな
でも、日々の夢も大事だよ
たくさんのちっちゃな夢を繰り返し叶えていけば、楽しい上に自信がつく
それに、色々と学ぶこともあるだろ?
そこから大きな夢を描けるかもしれない」

なるほど
僕の大きな夢も、小さい夢を叶える日々の中から見つけられるかな

「きっと見つかるさ
ただ、せっかくの夢なんだから、義務みたいに考えずに、叶わなくても気にしないで、ゆるく叶えていくのがいいと思う
楽しく夢を描いていこう!」

僕は叔父の言葉で、これから小さい夢を意識して、その夢を楽しみながら生きていこうと思うのだった

5/8/2025, 5:39:46 PM

『届かない……』

目の前には、虚ろな眼差しの青白い少女
どこかで聞いたことがあったな
この道を夜、歩いていると、少女の霊が現れて、『届かない……』と呟きながら近づいてきて、『届けて……』と宛先に名前だけが書かれた手紙を押し付けてくる
そして三日以内に宛先に手紙を届けられなければ、呪い殺される、か
確か、隣の市の駐車場が、霊の幼馴染が住んでいた家の跡地で、そこに手紙を供えると、死を免れる、とのことだったはず
駐車場がどこの駐車場かまでは知らないけど
それにしても、まさか本当にいたとは

『届けて……』

手紙を押し付けられた
まあ、呪い殺されるのは勘弁してほしいし、このまま届けてもいいんだけど……
どうも、私はこういう強要してくるタイプの存在が気に食わない
勝手に仕事を押し付けておいて、うまくいかなかったら逆ギレしてくる、みたいなやつ
一方的な命令は嫌なので、私は持ってたノートを開いて、ペンを取り出した

「引き受けてもいいよ
その代わり、口約束じゃなくて正式な契約をしよう
そのほうが、お互い後腐れないからね」

『!?!?』

虚ろな幽霊が驚きの表情に変わった
私は霊力を込めて、ノートで契約書を書く
お互いにサインすれば、契約成立
どちらかが反故にすれば、反したほうが代償を支払う
実に平等な契約となっている
何を隠そう、私は幽霊などとの契約を結ぶ力を持つ霊能力者なのだ

『……届けて』

自信なさげにそう呟き、なおも一方的に押し付けようとしてくるが、そうはいかない
そちらが契約書にサインしないなら、こちらが承る義務はない
契約内容を簡単に説明するとこうなる

・三日間、こちらの生活に支障をきたさない範囲で、手紙の届け先を探し、見つけ次第速やかに届ける
・三日以内に見つからなかった場合、そこで打ち切り、そちらはこちらを呪わないこと
ただし、こちらが探す義務を怠った場合は、この限りではない
・こちらが契約違反をした場合は、呪殺の受け入れ、そちらが契約違反をした場合は、強制除霊

実際はもっと堅い文章だけど、まあそんな感じ
この契約は絶対のものだ
ただ、相手は小さい少女の霊なので、契約書の内容がいまいち理解できなかったようだった
仕方ないので、丁寧に説明してあげた
その後、お互いの了承のもと、二人で契約書にサインする
相手は終始不満げだったけど、悪霊の悪質な行為に付き合ってあげるほど、私は甘くはない
手紙を届けたら、今度は説教だ
他人に手紙を押し付けて、失敗したら呪殺なんて自分勝手なことをするな、ってね
あと、幼馴染の家の跡地にも案内しよう
この子、いまだに家があると思ってるみたいだし、事実を教えないといつまでも同じ事を繰り返すだろうから
さぁ、届け先を探しますか

5/7/2025, 10:46:08 AM

魔法による自動通訳システムが構築されて一年ほど
子供でも使える簡単な魔法であるため、言語の異なる国の人々とのコミュニケーションは容易となった
相手の発した言葉が、自分の国の言葉に聞こえるのだ
僕もこの魔法のおかげで、本来なら友だちになれなかったであろう人たちと、楽しく毎日を過ごしている
ただこの通訳魔法、問題がないわけじゃない
当然のことだが、その言語だからこそ成り立つ面白い言い回しなんかは、翻訳不能
僕の故郷である和国の、いわゆる親父ギャグを言っても通じない
ことわざは、同じような意味のことわざが相手の国にあれば翻訳するが、それでも限界はあるので、使うのは避けたほうがいい、というのが常識となっている
ついこの間のことだ
僕は親父ギャグでも、ことわざでもない、ごく普通の言葉を、外国出身の友達との会話で口にした
「木漏れ日が暖かくて気持ちいいな」
すると、ウルベゥスフ出身の友達は、
「今日は、気温が少しだけ高いだろ?
木の間から差し込む日光が、特別暖かいわけじゃないと思うけど」
と言ってきた
一瞬、ん?となったが、どうやら正確に翻訳されていないようだと気付いた
そういえば、木漏れ日って特殊な言葉だから、対応する言葉は外国ではあまりないと聞いたことがある
木の間から差す陽の光を表し、また、心身ともに暖かくなってリラックスできる状態を連想できるピンポイントな言葉は、和国の木漏れ日ぐらいだ、と前に知り合いが言っていた
僕は友人に木漏れ日について説明した
便利なもので、話者が元の言葉で伝えたいと思った場合は、そのままの発音で聞こえるのだ
友人は興味深げに聞いていた
そして、僕の言いたかったことに納得してくれたようだ
木漏れ日に触発されたのか、今度は友人のほうが自分の国の独特な言い回しを僕に教えてくれるそうだ
ウルベゥスフは、寒い地域なので、雪に関する言い回しが多いそうな
僕も興味があったので、じっくり教えてもらうことにした
通訳魔法がなければ、こんな話もできなかっただろう
通訳魔法のおかげで、逆に相手の言語への理解が深まるなんて、思わなかったな

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