魔法による自動通訳システムが構築されて一年ほど
子供でも使える簡単な魔法であるため、言語の異なる国の人々とのコミュニケーションは容易となった
相手の発した言葉が、自分の国の言葉に聞こえるのだ
僕もこの魔法のおかげで、本来なら友だちになれなかったであろう人たちと、楽しく毎日を過ごしている
ただこの通訳魔法、問題がないわけじゃない
当然のことだが、その言語だからこそ成り立つ面白い言い回しなんかは、翻訳不能
僕の故郷である和国の、いわゆる親父ギャグを言っても通じない
ことわざは、同じような意味のことわざが相手の国にあれば翻訳するが、それでも限界はあるので、使うのは避けたほうがいい、というのが常識となっている
ついこの間のことだ
僕は親父ギャグでも、ことわざでもない、ごく普通の言葉を、外国出身の友達との会話で口にした
「木漏れ日が暖かくて気持ちいいな」
すると、ウルベゥスフ出身の友達は、
「今日は、気温が少しだけ高いだろ?
木の間から差し込む日光が、特別暖かいわけじゃないと思うけど」
と言ってきた
一瞬、ん?となったが、どうやら正確に翻訳されていないようだと気付いた
そういえば、木漏れ日って特殊な言葉だから、対応する言葉は外国ではあまりないと聞いたことがある
木の間から差す陽の光を表し、また、心身ともに暖かくなってリラックスできる状態を連想できるピンポイントな言葉は、和国の木漏れ日ぐらいだ、と前に知り合いが言っていた
僕は友人に木漏れ日について説明した
便利なもので、話者が元の言葉で伝えたいと思った場合は、そのままの発音で聞こえるのだ
友人は興味深げに聞いていた
そして、僕の言いたかったことに納得してくれたようだ
木漏れ日に触発されたのか、今度は友人のほうが自分の国の独特な言い回しを僕に教えてくれるそうだ
ウルベゥスフは、寒い地域なので、雪に関する言い回しが多いそうな
僕も興味があったので、じっくり教えてもらうことにした
通訳魔法がなければ、こんな話もできなかっただろう
通訳魔法のおかげで、逆に相手の言語への理解が深まるなんて、思わなかったな
5/7/2025, 10:46:08 AM