ストック1

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私は冒険者組合の定めるクラスAの魔道士となるために、十二賢者のいる地へ巡礼する旅をしている
すでに十一人から証を頂いたので、残るは一人
そして、最後の一人がいる、この静かなる森へ来たわけだが……
これは生きて帰れる気がしないぞ
目の前には、ドラゴンがいる
いや、普通のドラゴンなら問題はないんだ
温厚ならばこちらが危害を加えない限り、襲いかかってくることはない
好戦的だとしても、私一人でなんとかなる
それくらいの実力は私も持っているのだ
だが、目の前のこいつの姿は、以前絵画で見た、数十年前に勇者の力をもってしても倒しきれず、深手を負わせて退けるに留まった邪竜そのものだった
恐怖で呼吸が乱れるのを感じる
勇者が仕留められなかった相手だ
私程度の魔道士では、逃げることは叶わない
しかしなぜこんなところに邪竜がいるんだ
聞いてないぞ
混乱しながらなんとか生き残る術を考えていると、邪竜は口を開けた
炎のブレスでも吐く気か?
と身構えた私だったが、邪竜は私に向かって喋りだした

「お前は、賢者の元を回っている魔道士か?」

なにがなんだかわからないが、とりあえず攻撃の意志はなさそうだったので、私は「そうだ」と答えた

「信じられんだろうが、俺を警戒する必要はない
俺に人を襲うつもりは、もうないからな」

何かわけがありそうだ
私はひとまず警戒を解いて、邪竜の話を聞くことにした
たぶん、大丈夫だろう
大丈夫だよな?

「まず、ここにいた賢者フォングストだがな、半年ほど前、寿命により亡くなった」

賢者が寿命で?
いや、確かに人の寿命を超える長寿でも、不死ではないから、いつかは亡くなるのだろうが、私が生きる時代に賢者が亡くなるとは、想像もしなかったぞ

「俺は勇者に敗れたあと、この森に逃げ込んだが、そこでフォングストから、お前の命を助ける代わりに契約せよ、と持ちかけられた」

邪竜によると、その契約はフォングストが生きている間、逆らうことができなくなる、いわゆる隷属魔法をかけるというもので、使ったら普通に死罪レベルの魔法だった
賢者がそんな事をするのか?
いや、相手は邪竜だけれども

「誤解のないように言うが、彼は俺が人を襲ったりしない限りは、自由にさせてくれた
そして、寿命を悟って俺に自分の知識と知恵を授け、新たな賢者にしようとしたんだ」

大変だったが、充実した毎日だった、と懐かしそうに目を細める邪竜
ということは、目の前にいるこの邪竜が、私が最後に会うべき賢者だ、ということなのか

「これからお前に証を授けるわけだが、今までの賢者の試練はどうだった?」

私は、かなりキツかったが終わると達成感と心地よさを感じたと、正直に言った

「そうか
そう思えるなら、お前はもうクラスAで問題はない
実は、俺が証を授けるのに、試練はないんだ
先代の時も、そうだったんだがな」

ありがたいはずなのに、なんだか少し残念な気分だ
不思議ではあるが、試練を楽しんでいた自分もいたようだ

「試練じゃないが、合格不合格はある
俺は最終的に、クラスAに相応しいかどうか、最後に見極める役割を持つ
実力はあっても、人間性とかで合格にするわけにはいかない奴も、たまにいるからな」

確かに、クラスAともなれば、影響力は強くなる
実力は折り紙付きだが、素行の悪い、もしくは悪意に満ちた人間がなったら、ロクなことにならないだろう

「お前は文句無しで証を得るに相応しい人間だ、おめでとう
クラスAになっても、これからも変わらず、冒険者として人の役に立とうとする魔道士であれよ」

私に笑いかけた新たな賢者は、もはや邪竜とは思えないほどの慈愛の眼差しと、風格をまとっていた
かつて邪竜と呼ばれていても、賢者になれるのだ
私も、今よりもっと多くの人を助けられる、素晴らしい魔道士になろうと誓うのだった

5/10/2025, 11:53:14 AM