斜め前の席の子が授業中寝ていた。
もちろん先生は注意した。
「おい、分かっているのか、受験生なんだぞ。」
あの子はだるそうに体を起こした。
頬杖をついて、だるそうにペンを持った。
先生はその態度に納得していなかった。
だけど、授業は再開された。
あの子はペン回しをしていた。
その手つきは上手いとは言えなかった。
ペンは床に落ちた。
あの子はため息を吐いてペンを拾った。
そしてまたペンを回す。
けど、変わらず上手くなかった。
多分、マメが邪魔しているんだと思う。
あの子とはクラスメイトなだけ。
特段仲良くない。
だけど、一方的に見ていた。
あの子は夜遅くまで残っていた。
友達の誘いも断っていた。
恋人とは長くは続かなかったらしい。
あの子とすれ違うといつも湿布の匂いがした。
ほぼ毎日、指に絆創膏かテープを付けていた。
遅刻の理由は通院しか見たことがない。
仲のいい友達と喧嘩するのは決まって試合の前らしい。
あの子は真っ直ぐなんだなと思う。
遠くからずっと見てきてそう感じた。
だけどその姿はもう見れない。
あの子はこれから
友達と放課後遊んで
告白なんかされて
遅刻と公欠がなくなって
湿布の匂いもしなくなって
受験生らしくペンだこだけ残って
ペン回しが上手くなる
少し寂しいな。
遠くからでも、あの子が頑張っている姿を見ていた。 ずっと、頑張るあの子を見ていたかった。
あの子ならきっと目標に手が届くんだなって思っていた。
だけど、そうはいかないって知った。
あの子のマメはこれから小さくなっていく。
卒業する頃には綺麗な手に戻ってるかも。
マメがなくなったら今までのあの子を証明するものはあるのかな。
夜中と呼べるくらいに暗くなった頃、俺は気ままに歩いていた。
散歩は好きだ。歩きながら色々考えられるから。いざ何かを考えようとすると何も出てこない。だけど歩くという行為を加えるだけで自然とアイディアが生まれる。人間はつくづく不思議な生き物だ。
考えながら歩いていたら事務所の近くまで来ていた。そこであるものが目に留まる。子供がいたのだ。人なんてそうそういない時間帯に人が、それも子供がいた。これは何かあったに違いないと思い俺はその子供に近寄る。
「1人か?」
「…」
「親は近くにいるか?」
「…」
無視か。子供は苦手だ。何を考えているかわからない。わかっても気分によって態度が変わる。これならハヤトの方がマシだと思ってしまうほどに俺にとって子供と関わることは億劫なことだ。
子供は少しもこちらに顔を向けずずっと上を見ていた。夜空を見ているのだろうか。しかし天気予報は曇りとなっていたはずだ、子供が見たかったであろうものは上にないだろう。
「名前を聞いてもいいか?」
「…」
「星を探しているのか?」
「…」
「…」
さて、どうするべきか。ここは警察に連れて行くべきか?いやそれだと高校生の俺も補導されてしまう。高校生が、しかもヒーローが警察のお世話になるなど情けない話だ。よってこの選択肢は無しだ。となると親が来るまで待つか?いや、この時間帯に子供が1人で外にいるのだ、親は良かれ悪かれ何か事情がある可能性が高い。俺1人で処理できるようなことではないだろう。他のヒーローを呼び出すか?成人なのはダイスケさんとハル君だが、まずダイスケさんは来ないだろう。任務外のことは無関心だろうからな。となるとハル君か。ハル君はヒーローの中で一番頼れる存在だ。人間として、大人として、ヒーローとして尊敬できる相手だと俺は思っている。電話をかけてみるか。時間が時間だがこの状況だ、ハル君も理解してくれるだろう。
『もしもしセイカ?どうしたのこんな時間に?』
「こんばんは。夜分にすまない、ハル君。」
『いや大丈夫だよ。』
「今事務所の近くにいる。実は散歩をしていたのだが子供が1人でいるのを見つけたんだ。なにか訳がありそうで声をかけたが無視されて、こちらに顔すら見せてくれない。困ったものだからハル君に電話をかけたまでだ。」
『なるほどね。…こんな時間だから警察に行っても自分も補導されそうとかで無理なんでしょ?』
「……すまない。」
『ふふっ。大丈夫だよ。理由が理由だけどセイカはちゃんと状況把握ができて助けも呼べてる。ヒーローとして成長してきてるね。』
これがハル君だ。俺たちを自分の教え子か子供かと思っているのかわからないが、自分たちでも気づかないところまで気づいて褒めてくれる。
「ありがとう。褒められてなんだが今はそれどころではない。こちらに来ることはできるか?」
『うん。今から行くよ。ここからなら10分くらいで着けるかな。事務所の近くだよね?着いたらまた電話するからその間その子のことお願いね。それじゃあまた後で。』
「あぁ。わかった。」
「きた!!!!!」
「!? おい!!どこに行く!!!」
俺がハル君との電話を切った途端、子供は走り出した。慌てて追いかける。だが小学生かそれ以下の子供と高校生だ。橋の中央で俺は子供に追いついた。
「ペルセウス!!!」
子供はさっきの大人しさが嘘のようにはしゃいだ声を上げて空を見上げる。つられて俺も見ると流星群が流れていた。ペルセウス流星群だった。さっきまで雲で埋め尽くされていた空はなくなっていた。
「ペルセウス流星群か。毎年見ているが今までより綺麗だ。しかし観測予報では来週あたりと言っていたはずだが…」
「違う。今日です。流星群は今日しか見られません。」
「!?」
子供がこちらを見ている。俺に向かって、俺に向けて話している。
「…どうしてそれがわかる?」
「知っているからです。」
「それはそうだ。答えになっていない。」
「観測予報が絶対じゃありません。」
「それはそうだが…。ではなぜ今日とわかったんだ?」
「今日しか来ないと知っていました。もうペルセウス流星群は見られません。一生、死ぬまで、僕は星を見れません。」
「何故だ?」
「あなたは知っています。」
「知らない。知らないから聞いているんだ。」
「知っています。あなたが知っていることを僕は知っています。」
子供は真顔でこちらを見る。澄み切った目に吸い込まれそうだった。
「わかりづらい言い回しをしないでくれ。いったい
どういうことだ?」
「僕は俺です。」
「それで?」
「僕は僕で、俺はあなたです。」
「…。将来は詩人でも目指しているのか?」
「違います。」
子供の言っていることが微塵も理解できなかった俺は何か言おうとしておかしな発言をしてしまった。子供はまた空を見上げる。流星群はまだ流れていて、綺麗だった。
「僕はもう流星群を見れません。」
「だからその理由を聞いている。」
「壊したからです。」
「何をだ?俺は知っているなんて言わせないぞ。」
「僕の正義を、僕は壊しました。僕の行いのせいで僕の正義が壊れました。流星群は、星は、僕にとって正義と一緒にあったものです。だから、正義を壊して無くしてしまった僕の夜にはもう今までのように星は姿を表してくれません。この流星群もそうです。」
「………。本当にもう一生見れないのか?」
「わかりません。また正義ができたら見れるかもしれません。」
流星群はだんだんと勢いをなくす。もう別れの時間らしい。
「ヒーロー。」
子供は再び俺を見る。
「ヒーローは正義の味方ですか?」
「……わからない。」
「ヒーローなのにわからないんですか?」
「あぁ、そうだ。俺はヒーローだが正義の味方だと胸を張って言えない。そんな自信がない。」
「そもそも、あなたには正義がないんですか?」
「……。」
鋭い。いつものように言葉が出なかった。今喉に刺激を与えたらいけないと理性が言っていたのだ。
「ねぇヒーロー。」
「……。」
「正義とはなんですか?」
「……。」
正義とは何か。
俺にはわからない。
「わからない。」
「ヒーローなのにわからないんですか?」
「ヒーローなのにわからないんだ。いや、俺はわからないからヒーローになったんだ。」
「それでもまだわからないんですか?」
「そうだ。」
「ヒーローになった先に答えはあるんですか?」
「わからない。」
「そうですか。」
子供は手をかけていた橋の柵から離れると俺に背を向けて歩き出した。
「どこに行くんだ。」
「家へ帰ります。もう最後の流星群を見れましたから。」
気づくと流星群の輝きもうは残っておらず、雲が空に幕をしていた。
「1人で帰れるのか。」
「僕はしっかりものです。1人でなんでもします。」
「しかし、家まで遠いだろう。俺が送って行く。」
「必要ありません。あなたも家へ帰らないといけないでしょう。」
「待て。」
「しつこいですね。何を言われても1人で歩いて帰ります。」
「いやそうではない。」
俺は軽く喉を鳴らしてちゃんと声が出ることを確かめる。大丈夫だ。その間も子供は構わず進んでいた。
「お前の名前はなんだ。」
「……。」
子供は足を止めた。
「ヒーローの望む答えではないかもしれませんが。」
振り返り俺を見る。
「僕がまた星を、流星群を見れる日はいつ来ますか?」
「それは俺の知ることじゃない。」
「……そうですね。」
子供はそう言葉を残して歩いて行った。俺は追いかけなかった。追いかけられなかった。追いかけても何もできない。
「僕は俺です。」
「僕は僕で、俺はあなたです。」
「……。」
俺しかいない場所で空を見上げる。相変わらずの曇りだった。
あの子供があの日のように星を見られる日は来るのだろうか。
足が重い。今日のシゴトは疲れないだろうと思っていたが体は相当応えているらしい。
「ただいま。」
部屋に戻りいつものように話しかける。
だけど少しも反応しない。いつものことだ。
「体調は大丈夫か?乾燥したりはしてないよな?」
刺激がないように優しく触れる。色に異常はなく、かさつきも感じなかった。
「よし。大丈夫そうだな。」
忘れないように水分を与えてやっとあたしは一息つける。そこまでがあたしのシゴトだ。精一杯最後まで面倒を見ると言ったんだ。疲れてその責任を放棄するつもりはない。
ベットにダイブを決めて目を瞑る。今日のシゴトを思い返して思わずため息がでる。
「あー明日のシゴトもだりぃな。」
仮病でも使って休もうか。いや、あたしの上司と同期はそんなの通用しない人間だ。きっとあたしの部屋に押し入って秒で見破るだろう。底の知れない上司と嫌と言うほどあたしを知ってる同期なんて持つもんじゃない。それでもどうにか明日サボれないかと疲れた頭で考えていたら部屋の外からどでかい足音が聞こえてきた。きっと最近拾った新人だ。家ではでかい音を出すなとあれほど言ったのに。どうやらあたしのありがたいお言葉を忘れているようだ。
足音は次第に大きくなり、外からノック音が聞こえた。どうやらあたしに用事があるようだ。重い体を起こして扉を開ける。案の定顔を見せたのは新人だった。何か言い出しそうだったが睨んであたしの機嫌を察してもらう。あたしの顔を見て新人は飛び出そうな言葉を引っ込めた。さて、怖気付いた新人に会話の主導権を渡してもらうか。
「『家では静かに、特にあたしの部屋の周りでは』って初日に言ったよな?なんだ今のクソでかい足音は。どうやらあたしの教育が行き届いてなかったようだな。」
「す、すみません…。」
「そうだ。騒音が好きなら今度お前とあいつの部屋を一緒にしてやろうか?お前ならあいつが掻き鳴らすギターで安眠ができそうだな。そのまま一生寝ててもらっても構わないが。」
「じょ、冗談きついですよぉ?」
「冗談じゃないからな。」
「えぇ…。」
新人はバツの悪そうな顔をする。言いすぎたかも知れないがこれを許しちゃ今後の生活に支障が出る。最悪の場合、目の前の相手を殺める日が来てもおかしくないほどだ。まぁぐちぐち言うのも面倒だ。今日はこれくらいにしてやるか。
「んで?クソでかい足音で来た要件はなんだ?相応の理由じゃないと追い出すからな。」
「え、えっとぉー。キッチンで京極さんが潰れててぇ。びくともしなくてぇ。」
「はぁ、またか。…そのままにさせとけ。あいつの責任だ。あたし達が何かやってやる義理はない。」
「だけど、風邪とか引いたらやばくないですか?」
「そうだとしたら追い出すだけだ。ナヨっちいやつなんてあたしの同期にいらん。」
「冷たいなこの人……。」
「なんか言ったか?」
「いえなんでもないです。」
「わかったら部屋に戻って休め。そもそもお前も他の世話できるほど余裕があるのか?」
「はいすみません……。」
そうやってあたしがきつく当たっても新人は動こうとしない。さっきから部屋に低すぎる冷気が入っている。あたしはそれが気がかりでならない。
「はぁ、ちょっと待っとけ。」
一度部屋に引っ込んだ。そしてベッドの下の衣装ケースから適当に引っ張り出したそれを新人に投げつける。
「ぶわぁっっ。」
「それをかけて冷房を消しとけ。暑くなったら起きるだろ。」
「ブランケット……。なんだ神楽坂さん優しいところありますね。」
「苗字で呼ぶな。残念ながらあいつでもお前でもなくあたしの同居人のためだ。同居人にこんな冷たい風浴びせられるか。」
「同居人?神楽坂さんって部屋に1人じゃないんですか?」
新人はあたしの部屋を覗こうとする。どうやら上下関係がわかってないようだ。
「けど確かに冷房下げすぎですよね。京極さんに言われたけど消しときます。」
「あぁ、それはそれであいつがキレるだろうな。」
「えっ?」
「じゃああたしはもう寝るから。」
「えっちょっと」
扉を閉めようとしたら足を挟んできた。普段鈍臭いくせに、どこでそんな技を覚えたんだ。育ちの問題か?
「なんだ、まだ用があるのか。」
「神楽坂さんも風邪気をつけてくださいよ。あと、同居人?さんも。」
「………」
「神楽坂さん?」
「実はあたし少し体調悪くてな。明日休むかもしれん。」
「え、そうなんですか?すみません呼び出してしまって。もう休んでください。」
「………」
あたしがサボれる未来は意外と近いのかもしれない。
「それじゃあ、おやすみなさい!」
「あぁ、おやすみ。」
扉を閉めると部屋に静寂が戻る。声は抑えたが大丈夫だろうか。そう思い同居人を見るといつも通りだった。
「大丈夫そうだな。」
あたしは引き出した衣装ケースを元に戻しながら話しかける。
「さっきの会話聞いてたか?あいつ純粋すぎで心配になるよな。あたしの嘘をなんの疑いもなく受け止めてたぞ。」
「けど、上司に同期にって堅苦しい奴らばっかだったからこれから楽しくなるかもな。」
相変わらず返事は来ない。
まぁそうだよな、声が出せないんだから。
立ち上がって同居人を見る。
「えっ?」
あたしの言葉に反応していた。
同居人は動いていた。
「っはは。」
どうやら同居人曰く、あたしは今の生活が気に入ってるらしい。
絶対に諦めない
圧倒的な力の差があっても
どれだけの年数がかかっても
私の全てを捨てることになっても
希望がなくても
どれだけ走っただろう。ゴールはまだ見えない。
脚の感覚がない。息をするのもやっとだ。
私はどこを走っているのだろう。周りには何もない。
ただ暗闇だけが私を見ている。
「まだ続くの?」
「あとどれくらい走れば良いの?」
私の脚は止まろうとしない。
もう走りたくないのに「走らないと」と私が言う。
私以外に人はいない。
走ってる人はもちろん、私をみる人も。
「何を言っているんですか。私がいますよ。」
暗闇のどこかから声がした。走りすぎて幻聴まで聞こえてきた。仕方がない、限界なんてとっくに超えている。幻聴の1つや2つ聞こえてもおかしくないだろう。
「幻聴じゃありませんよ。リン君。」
「え?」
後ろを振り返ると白髪の背の高い男の人がいた。
その人を視認すると何故か脚が走りをやめた。
「やっと気づいてくれましたか。」
男の人はニコニコとこちらをみている。
「なんでいるの?団長。」
そう、私に声をかけてきたのは団長だった。
「リン君。どこまで走るんですか?」
こちらの質問を無視して聞いてくる。
「どこまでって、ゴールまで走らなきゃ。」
「そのゴールはどこですか?」
「それは、分からない。まだまだ先なのかも。」
「ゴールがどこか分からないのに走って意味はあるんですか?」
「それは、えっと、、、」
分からない。
「ゴールは、きっとどこかにあるから。私はそこまで走るの。」
「もう体力はないように見えますがそれでも走るのですか?」
「もちろん走るよ。一度決めたことだから。絶対ゴールまで走る。」
「ゴールまで走るなんていつ決めたんですか?」
「え?」
「いつ決めたんですか?」
「えっと、走る前に、多分。」
「そうですか。リン君らしいですね。」
団長はその言葉っきりなにをするわけでもなく私を見つめる。その顔は絶えず笑みを浮かべていた。
「何もないの?じゃあ、私もう行くから。」
「待ってくださいリン君。」
再び声をかけられても無視しようと決めたが、私の脚は協力してくれなかった。
「どうしますか?」
「なにが?」
「もし、君が走る先にゴールがなかったら。ゴールはおろか何もなかったら。」
団長はさっきよりも口角は下がり、だけど微笑み顔で言った。いつも見ているニコニコニヤニヤのような雰囲気が一切なかった。団長は真剣なのだと、回ってない頭でも分かった。
「そうだった場合、それを知る術はないのですから君は永遠と道を走ることになる。それだけの覚悟が君にはありますか?」
「覚悟?」
「はい。覚悟です。」
「それは………」
言葉が詰まる。永遠と走り続ける覚悟?団長はここでやめろと言いたいのだろうか。もう私は走らない方がいいのだろうか。
「覚悟がないと走っちゃいけないの?」
「はい。覚悟なしで走ったらいつか本当の目標を忘れてしまいます。それで脚を止めて帰ろうと後ろを振り返っても戻ることはできません。それがこの道です。」
どう答えるべきかわからない。私にゴールがなくても走る覚悟はあるのだろうか。自分のことなのにわからない。
「分からないではこの先へ行かせませんよ。」
私の心の声が聞こえているか、そう言ってきた。
走る覚悟……何を持っていれば覚悟になるのだろう。ここを走るのに何か想いがあっただろうか。酸欠の脳では何も思い出せない。
『走らないと』
あった、一つだけ。
「一つだけ言えるのは」
そう言って下を向いていた顔を上げた。
綺麗な碧眼と目があう。
「私はゴールに向かって走りたいです。」
これしか今の私には分からない。
「それでは行かせられません。」
団長はそう言うと目の前から姿を消した。
私の視界は再び真っ暗になった。
どこからか声がする。
「夏休みがあと6日!?もう終わるじゃん!!!」
「ハヤト、あまり騒ぐな。リンが寝ているだろう。」
「いいよもう起きちゃったから。」
馬鹿でかい声の正体はハヤトだった。目覚めには少しきついが夢が夢だったのでちょうどいい。
「やばっ、ごめんリン!!」
「すまないリン。俺が早くこいつの口にガムテープでもしておくべきだった。」
「いや大丈夫だよ。別に気にしてないから。」
「おいセイカ冗談でもガムテープを持つなよ!」
「?? 俺は真面目に言ってるんだか。」
「ちょっ!!ほんとに大丈夫だって!!」
「そうか?リンがそこまで言うならやめておこう。」
夢だった。夢オチか。まぁ起きてみればおかしいことだらけだったな。暗闇走るって何事って感じ。しかもそこに団長が出てきて永遠がー覚悟がーとかよくわかんないこと言ってきて怖かったし。なんか夢特有の奇妙さだったな。
「話戻すけど夏休みあと6日だってよ。リン。」
「あ、うちの学校9月からだから。」
「は?なんで??ずるくないですか?」
「夏休み入るのはそっちが早かったでしょ。日数的にはそんなに変わんないから安心しな。」
「いやそういう問題じゃないじゃん。なんか、周りが学校行ってる中で悠々と休めるっていう背徳感がずるいんじゃん。」
「そこかい。」
「お前の言ってることはよく分からんな。」
「あーあ、ずっと夏休みが続けばいいのに。」
「終わらない夏ということか。それはそれでお前のようは人間はやることがなくて暇だー休みなどもういらなーい。と一番最初に言いそうだが。」
「そんなことっっっ………あるかも。」
「ハヤトっていう生き物はわかりやすいよね。」
「あぁ、同感だ。」
終わらない夏…か。さっきの夢のせいで変に意識してしまう。
「永遠の夏ですか。それより私は四季折々を楽しみたいですね。」
「……!!?」
「うわ団長きた。」
「こんにちは。団長。」
「あれ?皆さんもしかして私の突然の登場に慣れてきたのですか?」
「まぁ団長って任務会議に来ないだけで暇してる人間だもんね。いつ来てもおかしくないよなって感じ。」
「驚くと団長の思う壺だと知っている。」
「なるほど、そうですかそうですか。慣れたというより私に構うのが面倒になったのですね。」
「まぁそうだなっ。」
「そうだ。」
「………」
「リン君だけさっきから黙っていますがもしかしてまだ私の登場に驚いてくれているのですか?」
「いや、別に。」
「…そうですか。」
『永遠の夏ですか。』
落ち着け。あれは夢の中の団長だ。目の前の団長は本物で私の夢なんて知らない。永遠なんて言ったのはたまたまだ。そうだ、そもそもあんな夢を見たのは寝てる時にハヤト達の話を耳で聞いてそれを脳が夢にしたみたいな感じに決まってる。うん、そうだきっと。
「永遠の夏って…。なんか字面カッケェな!!」
「お前が言うとバカ丸出しになるぞ。」
「は?感想言って何が悪いんだ。」
「その感想がバカ丸出しだと…」
「まぁ落ち着いてください君たち。それにほら、
永遠なんて存在しませんよ。ね?リン君?」
「…えっ?」
「くるな!くるなぁぁ!!!!」
敵は後1人、対してこちらは2人。途中どうなることかと思われたこの戦いももう少しの辛抱だったはずだが、そうはいかないらしい。
「来るなって言っているだろう!!!!!!!
死にたいのか!!!!」
「死にたくはないさ。それはお前も一緒だろう?」
追いかけた先は行き止まりだった。当然だ、俺がそう誘導したのだから。あいつは壁に追いやられると喚き散らかす。
「これが何か見えないのか!!!!!」
ピッピッピッ………
「………」
時限爆弾。やはりそうきたか。最後の最後で往生際の悪い敵だ。
「近づいたらお前の命もおしまいだ!!!!
わかったら目の前から姿を消すことだな!!!!」
「それはできない。その爆弾に巻き込まれて仲間が死なれちゃ俺が困る。」
俺はあいつに近づく。
「自分の命が惜しくないのか!!!!」
「生きて帰ればたいした問題ではない。」
「くそっっ!!来るな!!!やめろ!!!!!オレが全て悪かった!!!!謝るから!!!!だから近づかないでくれ!!!!」
「そうはいかないと言っているだろう。」
あいつの顔は涙と汗でぐしゃぐしゃになっていた。俺を近づけまいと必死なようだ。
「さっきから言っているだろう!!!!!
近づいたらお前も死ぬんだ!!!!!
オレから離れろ!!!!」
「俺の任務は仲間と敵の殲滅を終えて帰ることだ。」
俺はあいつの体についた時限爆弾を剥ぎ取り間髪入れずに後方へ投げる。落下と同時に音を立てて爆発した。
「わかったか。俺は任務完遂のためなら死ぬ覚悟だ。」
「悪かった。オレが悪かった。すまない。本当にすまない。」
腰を抜かしたあいつに手を差し伸べて立たせる。
「いいからとっとと立て。まだ敵は残っている。」
「俺の味方に時限爆弾を仕掛けるようなやつだ。生かしておけん。」
俺とあいつは最後の敵がいる部屋に向かう。