「君がみる景色はきっと輝いて見えるんでしょうね。」
「はぁ。」
それから団長は何も言わずに黙ってニコニコとユラを見つめているだけだった。
今日の任務が終わり皆んなが帰る中、ユラは1人事務所でアルバムを作っていた。アルバム、それは思い出帳のようなものだ。自分が今まで見てきたもの、経験したことを忘れないように写真に撮ってアルバムに書き留めておく。これがユラの趣味であり生き方なのだ。この前プチ旅行と称して友達と行った観光地の思い出の写真、土産話を思いつく限り書いている。気づけば外が暗くなり、隣のバーもオープンになっていた。
「はぁ、よしこんなもんかなぁ。」
一息つこうと伸びをしてついさっき書き留めたページを読み返す。ページは隙間を許さないと言わんばかりに写真やシール、ユラの文字で埋まっている。その日の思い出がよみがえりうっとりとしていたところ、後ろからノックする音が聞こえた。
「はーい?」
誰かと不思議に思いながら声を返す。
ガチャ
開いた扉から顔を出したのは長髪男。団長だった。
「お疲れ様です。まだ残っていたのですか、ユラ君。」
「なんだ団長か、お疲れ様でーす。そろそろ帰るところだよん。」
「なるほど、これを作っていたのですね。」
団長はユラのアルバムを興味深そうに見ると質問する。
「これは全部ユラ君のが1から作ったんですよね?よくできていますね。今度私にも教えてください。」
「いいよーん。けど団長がユラみたいな可愛いデコデコしたやつ作るの想像したらおもしろい。」
「? 私にはデコデコは無理ですか?」
「いや見た目のイメージと違うってだけ。ギャップ萌え狙えてユラはいい思うよん。」
「そうですか、私には無理かと思ってしまいました。それはよかったです。よん。」
「いや真似すんな。いいけど。」
「すみません。」
「ていうかユラ的によくデコれたと思うから感想ちょーだい団長。」
「ユラ君の個性がこの1ページに表れていていいと思いますよ。そしてなにより、書かれている文章から心から旅を楽しんだことが読み取れてこちらまで笑顔になります。」
「でっしょー!?ユラこういうの好きなんだよねー。思い出の保管にもなるし、何より世界にはこういうところがあってね、こういうものもあって、めっっっちゃ素敵なんだよって会った人に伝えられるじゃん?その時のために作ってるんだ。だから団長、なんか最近つまんないなーとか思ったりしたらユラに言ってね。ユラがその考えぶっ壊してあげるっ。」
ユラは団長に向かって拳を突き出しパンチの動作をする。これがユラなりの団長との接し方だ。
「そうですか。それは楽しみです。そのうちユラ君は世界の隅々まで旅していろんな人に自分の経験を伝えていくんでしょうね。私は今からそれが楽しみです。」
「えー隅々まで行けるかなー。まぁだけどそのモチベで生きていくよん、ユラ。だって世界って皆んなが思ってるよりも広くて知らないことだらけだもん。そこにはきっと誰かしらの心に刺さる何かがあるはず。っていうのをユラは知ってるんだ。すごいでしょ?小さい頃にこれに気づいたの。ユラが旅行好きなのも、こうしてアルバム作りを趣味にしてるのもそゆこと。」
「そうなんですか。良かったです、私があなたに『純粋のヒーロー』の名をつけたのもどうやら間違いじゃなさそうです。うんうん、私の目に狂いはなかった。」
団長は手を顎に持っていって頷く。なんか1人で納得してる様子だ。
「そう。それ前から気になってたんだ。なんでユラって『純粋のヒーロー』なの?別に子供みたいにキラキラとまではいかないと思うけど。」
「いや、大差ないと思いますよ。」
「は?ユラがお子ちゃまだって言いたいの?」
「いえいえ、そんな意味ではありません。だからほら、その手に持った椅子を置いてください。」
「はぁ。それで?なんで『純粋のヒーロー』なの?」
「君と初めて会って思ったんです。思うほどではなくても勘が言ってました。君の目は澄み切っていて常に輝いていると。」
「そう?感性は他の人と変わらないと思うけど。別に涙脆いってわけでもないし。」
「なにも感性は涙の落ちやすさで決まるわけではないですよ。自覚はないようですが私は自信を持って言えます。あなたは他より感性が豊か、いや全てに敬意を持って愛で接している。」
「なんか壮大な言い方だな。」
「これは誇張でもなんでもないですよ。もっと自信を持って『そうだろう、そうだろう』くらいでいいと思います。」
「そ、そう?ありがとうそんなに言ってくれて。」
なんだか照れ臭い。ただでさえむず痒いことを言われているのにまっすぐこっちを見てくる。純粋なのはどっちだか。
「本当に私は羨ましく思います。君のことを、君の心を。」
「わかったから!!もうそこまでにして!じゃないと爆発する!!」
「すみません。つい本音を言いすぎました。」
「本音って……団長そういうところあるよね。無神経というか天然というか。」
「うーん、皆さんからよく言われますが何せ外国人なので。ここの文化に疎いところを見てそうおもわれるだけだと思います。」
「そっか。忘れがちだけど外国人だったね。確かによく見たらThe外国イケメンって感じだよね団長。」
「はい。よく言われます。」
「そこは言い切るんかい。」
「そうでしたそうでした。つい話し込んでしまいましたがユラ君、そろそろ帰らなくていいですか?君はまだ未成年でしょう。」
「あー確かにそろそろ帰らないと。」
そう言ってそそくさと帰り支度をして団長と事務所を後にした。外に出るとまた団長から声をかけられる。
「ユラ君。さようなら。道を迷わないようにしてくださいね。」
「子供扱いしないでくださーい。1人で帰ることくらいできますぅ。」
「そう、なら安心です。あぁ、そうだ後一つ褒めてもいいですか?」
「え、まだあるの。別にいいけど。」
「ユラ君。私と君が同じ景色を見ても、君がみる景色はきっと輝いて見えるんでしょうね。」
「………はぁ。」
思ってもない方向の褒めでどう反応していいかわからなかった。団長はユラの気も知らず、いや知っててもなおニコニコと笑っている。
「きっと君なら世界を救えます。世界でなくても君しか救えない人を救うことができます。だから……」
「あーもう!一つしかいいって言ってない!ユラもう帰る!!またね!!!」
ユラは走り出した。これ以上は色んな意味で耐えられない。最後は失礼な態度だったかもしれないけど団長が悪い。うんうんそういうことだ。
「うーん。」
それはそうと団長がユラに言ったあの言葉たちは全部何か含みがあった。どういうことなのか今のユラでは分かりやしない。結局なんで『純粋』なのかもちゃんと教えてくれなかったし。
「いつかわかる日がくるかな。そうだ。」
バックからスマホを出して文字を打つ。団長がユラに言ってくれたことをメモしているのだ。
「いつか立派なヒーローになって、人を救えるようになったらきっとわかるよね。」
スマホをバックにしまうと再び家路を辿る。いつか団長の言葉がアルバムに記録される日がくることを願って。
8/15/2025, 9:42:03 AM