備忘録

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「!? これは美味しいですね!」
「そうですか?団長のお気に召したようで良かったです。」
「こんなに美味しいものがあるなんて。世界にはまだまだ知らないものがたくさんあるようですね。」

こどものように目をキラキラさせてこちらをみる。
任務後に2人で事務所へ向かっている途中、団長は道端のキッチンカーを見ると無言で俺の手を引いて列に並んだ。数分のメニューとの睨めっこの末、団長が選んだのはソフトクリームだった。

「ところで、ハルキ君は本当に何も食べなくていいのですか?連日の任務にこの暑さで顔色も良くなさそうですよ。」
「はい。多分夏バテですかね。あ、でも安心してください。毎日ちゃんと3食食べてます。」
「そうですか?あまり無理しないでくださいね。大丈夫ですよ。うちには元気が有り余ってる子達がいますから。1日くらいの休養は。」
「それもそうですね。お気遣いありがとうございます。」

失礼だが、たまにしか顔を出さないのによく見ているんだなこの人。ソフトクリームじゃなくてこっちを見て言ってくれたらもっと見直してたのに、なんてね。それほどソフトクリームに夢中なんだろう。

「食べるの初めてなんですか?ソフトクリーム。」
「ええ、そうですね。私のいた国にも似たようなものがありましたが高級品で手が出せなかったんですよ。」
「へぇーアイスが高級品かー。小さい頃から食べてたからなー。けどキッチンカーとかのアイスって他のより美味しく感じるんですよね。」
「そうなんですか?スーパーやコンビニとはまた味が違うんですか?」
「いや、たいして変わらないと思うんだけど、なんていうんだろ、目の前で絞られて手渡しでもらうあの感じが特別感あっていいんですよね。」
「なるほど。ふむふむ、、」

何か思いついたのかソフトクリームを食べる手が止まる。何を考えてるんだろう。今年の春にヒーロー事務所ができて4ヶ月が経とうとしている。俺とダイスケさんはそれよりも前から一緒にヒーロー活動を始めていて、だから団長とも4ヶ月以上の付き合いだけどこの人のことは今だによくわからない。

「あ、団長。」
「? どうしましたか?」
「アイス。溶け始めてます。」

団長の食べるスピードはこの暑さに勝てなかったようですでに溶けたアイスは団長の手袋まで伝っていた。

「待ってくださいね。たしかバックにウェットティシュがあったはず。」
「すみませんありがとうございます。本当に気が利きますねハルキ君は。他の子達にも見習ってほしいですよ。」
「あはは。ハヤト達はあれくらいの元気がある方が良いですよ。逆に考えてみてください。異常なまでに団長のこと敬う姿を。」
「……なんか違いますね。」
「でしょ?」
「……うん。私に優しくしてくれるのはハルキ君だけが良いです。慈愛のヒーロー以外が私に優しくしてくれるなんてあってはいけません。」
「それは言い過ぎでしょ。」

思わずツッコんでしまった。今のがボケか本音かわからなかったが空気がさっきより和んだ気がする。
そうか。俺も団長も他のヒーローメンバーより歳が離れてるから彼らを見る目が一緒なのかも。そう思ったら団長との心の距離が近くなれる気がした。

「団長。」
「はい?どうしましたか?」
「また2人でどこか行きましょうね。」

急に変なことを言ってしまったけど団長は俺の考えてることを勘づいたのだろう。

「はい、もちろん。そうだ、私ウォータースライダーというものに興味があってですね。ヒーローの皆さんと行きたいなと思っていたんです。」
「良いじゃないですか。ハヤト達喜びそうですね。あ、けど、ダイスケさん来るかな?あの人遊びとか付き合ってくれるイメージないな。」
「それは私に任せてください。無理やり引っ張ってでも連れてきますよ。若い子達に混ざって気分転換してもらいましょう。」
「ダイスケさん、体がついてかないかもですね。ユラとか遊びは本気って感じだし、それにつられてリンも楽しみそう。セイカはどうだろ。」
「セイカ君もハヤト君が引っ張ってくれますよ。彼は大人っぽいがところありますがハヤト君と同じ年齢ですから。ハヤト君と競争でもしていつのまにか輪に入ってますよ。もちろん、あなたもね。」
「そうしたいけど体がついていくかなー。」
「ヒーローで年長組ではありますが、あなた自体まだまだまだ若いじゃないですか。」……

それから団長とヒーローメンバーの雑談をした。

時間が流れるの早い。いつの間にか夕日は別れを告げようとしていた。

8/12/2025, 6:31:43 AM