もも

Open App
1/4/2024, 11:08:41 AM

『幸せとは』

幸せとはなにかしら
誰かと恋をすること?
美味しい物を食べること?
いつも笑っていること?
自分を犠牲にして、他人を幸せにすること?
確かにどれも幸せで、ある人にとっては不幸せだわ。
幸せに答えなんて無いんじゃないかしら?
今からお話するのはそんな幸せを分けて貰ったのに、物足りなくて、探していたお客様のお話よ。

「私の才能を開花させてください!」

ある日赤い扉から入ってきたのは、ボロボロの服を着たまだ年若い女性だった。
服のボロボロ具合からみれば、そんなに裕福ではないと安易に想像できるだろう。
想像通り、あまり食べれていないのかこけ落ちた頬にギロリと覗く目をみると痛々しくて、魔女は悲しそうに眉を寄せた。
女はここが願いを叶える場所だと聞けば、身なりに合わない掌サイズのサファイアを取り出し、取り乱しながらテーブルの上に捨てるように石を転がす。

「そのサファイア、大切に持っていれば幸せになる石よ。」

心底要らなそうにサファイアを置く女に、あまり良い感じはしないものの、石をよく見てみれば誰かの強い思いが詰まっていて、石を尊重し持っていれば幸福を招く良いものなのにと思いながら問いかければ、女はバカにするように鼻を鳴らして笑った

「こんなもの有ったってなんになります。
ただの石じゃないですか。
私の国には大きな金の王子の像がありました。幸せの象徴だなんて建ってた像は金や宝石で飾られてて、そんな像の目は優しい王子からの贈り物。
大切にすればするほど幸せになるよなんて周囲は言ってましたが、そんな目を貰ったって全く効果なんてありませんでしたよ。
何が選ばれて凄い!ですか。もっと目に見えて幸せが欲しかった私は劇作家を目指しています。
あなたが魔女なんて言うなら私を劇作家として開花させてください。」

せっかく頂いた幸運を蹴り飛ばして、もっともっとと浅ましくも自分の幸せを望む女の姿に今までは悲しみの表情で見ていた魔女も、憐れみの表情を浮かべ、優しい王子が差し出した手を弾いてまで、そんなに自分の才能を開花させたいならと妖艶な笑みを浮かべ薬瓶を一つ取り出す。

「ええ。才能を開花させるくらい簡単に私は出来るわ。
これを飲んでさっき入って来た赤い扉から出れば、貴女は一躍有名人よ。
ただ、一つ貴女から感情が一つ抜け落ちてしまうわ
とても大事な感情よ。それでも飲みたいかしら?」

何かを叶えるにはそれなりの対価を払うのが世の常。
苦労しなければ手に入らない物を簡単に手に入れたいと思えば、対価が重くなるのも当然の事で。
魔女が彼女に望んだ対価は
"慈悲の心"
誰かを思いやる優しい心。
対価の説明を詳しくしようと口を開きかければ、なんでも構いませんと女は薬瓶の中身を飲み干してしまった。

「これで、私も有名人…ふふっ
出て有名人になって無かったらまた文句を言いに来ます」

どこまでも貪欲な女は飲み干した瓶もテーブルに置き満足げに笑って上機嫌で元来た赤い扉から出ていってしまった。
魔女の力は本物。
女は外に出れば劇作家として有名になっているだろう。
けれど、思いやる心無くして女はうまくやれるのだろうか。

「せっかく安泰な幸せを貴方に頂いたのに、貴方を大切にしないからこんな場所に来てしまったのね。」

もう出ていった女の事なんて気にしない魔女は、残された石を持ち、女の慈悲の心をポケットに入れると、泣いているように冷たいサファイアを撫でながら身勝手に幸せを願う2つの心に

「幸せとは難しいものね」

と小さく呟いた。

1/3/2024, 11:10:22 AM

『日の出』

日が昇る。
水平線を真っ直ぐオレンジの光で包んでゆっくり、ゆっくり揺らぎながら上へと昇って行く。
御来光を見に行こう!って召集がかかったのは昨夜の23時。
皆彼女がいないから集まれたものの、うちのリーダーさんは相変わらずノリで生きてる気がする。
この前だって狭い俺んちに炬燵が有るからなんて理由で居座って結局泊まってまで行った。

「わーすげーっ!やっぱ今しか見れないの見とかないとなー!」
「はしゃぎすぎ。寒い。」
「日の出尊い。」
「いやー僕はわかるー!」

俺も、綺麗だなと、メンバー個々に日の出の感想を言う姿を一歩引いてみれば必ず見てるかー?って来るのはリーダーのあいつで、最近少しこいつはわざとチャラくしてるんじゃないかって思うときがある。
赤いハーフテールに派手な髪で雰囲気も派手なのに、人懐っこい顔でテンション高く近づいていつのまにか誰かの懐に入ってるこいつは自分じゃ何にも出来ないなんていうけれど、立派な才能だと思う。
俺は自分って表現を物語だけでしか表せない。
あんまり口も上手くないし、何よりいいよって言いすぎていつの間にか頼まれ事でいっぱいいっぱいになってる。
そんな俺が最近自分の書きたいように書けてるのは全部こいつが勘弁してくださいよーって、止めに入ってくれてるから。

「うん、みてる。せっかく見れたんだしどういう風に言葉に表そうかなって考えてた。」

多分他のメンバーも同じ事を考えてるんじゃないかな?
ほら、写真とったり、リズム口ずさんだり、すでに何かを描いてる
リーダー何にもしてませんよー!なんて配信中に言ってるのを聞くけど、俺たちメンバーはリーダーがいなければ何にも出来ないし、一番のファンでいてくれてるのも知ってる。

出来ればこのままずっと続けたいんだけど、自分をやたら隠したがるリーダーに大きな秘密がありそうで、言い出せない。
俺たちリーダー大好きだからな。そう伝えるには口下手だから、光に照らされた姿を物語にしよう。
俺たちだって親友だから、って伝えたい。
お前だって凄い奴なんだって伝えたい。

「ん?俺の顔なにかついてる!?」

ジーっと見すぎたのか、視線に気付かれてどぎまぎしてるのを横目に

「なんでもないよ」

とどんな話しにしたら気付くかなと考えながらだいぶ昇った朝日を見た。

1/2/2024, 12:55:42 PM

「魔女さん俺の今年の抱負でぇ!」

『今年も、帰って来る度に魔女さんに話を聞いて貰う!』

自信満々に猫さんが私に紙を見せてくるのだけれど、申し訳ないわ猫さん。私は文字がよめないのよ?
猫さんも知ってるはずなのに、なんで見せてくるのかしら。
よっぽど私が不思議そうな表情をしてたのね、バツの悪そうな顔で猫さんは私と紙を見て苦笑を浮かべたわ。

「あー…。魔女さん文字読めなかったか。
わりぃ。俺の国では新年になると一年の決意って意味で紙に書いとくって習慣があんだよ
えっと、紙には今年もあちこちから帰って来たら魔女さんに話を聞いて貰うって書いてある。」

それから紙をパンと一度叩いて、私になんと書いてあるか説明してくれた。
この猫さんとはもうずいぶんと付き合いが長いわね。
私は永久に家の中から出れないから、いつ頃かはもうすっかり忘れてしまったけれど、来た時のボロボロの姿は今でもしっかり覚えているの。
扉が叩かれて、ふらふらで入ってきた猫さんはあちこち血だらけで今みたいにしっかり話せない普通の猫だったのよ。
私の家は特別仕様。どんな者でも中に入ってくれば言葉だけは通じるから話を聞いてみれば

『飼い主に捨てられて戻ろうとしたら車という物に轢かれた。たまたま扉を見かけて開いていたから入った。』

息も絶え絶えでそう言っていた。
この扉もまた特別仕様で、何処にでも突然現れるのに自分か扉を開かないと中に入れないの、たまたま別のお客様が出入りする時に運良く入ったのね。
もうそろそろこの猫さんの命はない。本当はそのまま見守ってあげるのが優しさなのかもしれない。
けれど、ボロボロの猫さんを見てると昔の自分を思い出してどうしても生かしてあげたくなってしまったの。

『とってもいい場所に入って来たわね。
私は願いの魔女。
貴方のお願いを叶えてあげられるの。
猫の魂は9つあると聞くわ。貴方の魂を一つと交換で生かしてあげることが出きるけれど猫さんは生きたいかしら?』

昔の私も生きたいと願った。
私は騙されたも同然だけれど、全て分かっている今同じことが有ってもきっと……。

『生きたい。生きさせてくれ。俺はまだ世界を見たいんでぇ。
旅をしてみたいんだ。』

猫さんのは本当にあの日の私みたいだった。きっとやりたいことがいっぱい有ったのね…。だから私は迷わずにあの日願いの薬を取って猫さんに飲ませたの。


「ん!魔女さん!俺の話をしっかり聞いてるかぁ?
ぼーっとしてらしくない。」

猫さんとの出逢いの日に思考を漂わせていたら、猫さんの心配そうな顔が目の前に有った。
よっぽど深く考えてしまったのね。とっても申し訳ないことをしてしまったわ。
新年の抱負と言う決意を私に聞かせてくれて、しかもその内容が私に話を聞いて貰うなんて、猫さん文句をたまに言うけれどとても優しいのよね。

「ごめんなさい。猫さんとの付き合いも長いわって思っていたの。
決意なんて風習とてもいいわね。私も決めてみようかしら?
なら…猫さんにお休みをもう少し増やす。それが私の決意。どうかしら?」

特殊な場所にいるから、私にお友達は少ない。
こうやって素直に話せる人は本当にいないから、無茶難題はあまり言いたくないわ。
だからそんな決意を言ったら猫さんは大きく首を振った

「まぁ、結構無茶難題は言われてんだが、結構気に入ってんだ。魔女さんは、笑顔でいる!くらいでいてくれたら俺は嬉しいよ。」

珍しい。猫さんがデレてくれているなんて。
その言葉だけで笑顔になってしまう単純な私は、猫さんの書いた抱負の紙を貰うと絶対彼の話を聞こうと、彼の決意を心の中に刻み込んだ。

1/1/2024, 11:10:55 AM

『新年』
暗闇から徐々に光が上る。
眩しいのだろうか、薄く目を細めながら初日の出を見るあいつの顔を見て、俺は思わず吹き出した。

「お前今凄い顔してる。」

俺の言葉にあいつはすぐに剥くれっ面を見せて、ぽかぽかと俺の胸を叩いて抗議してくる。出会ったときよりは遥かに短くなった水色の髪の毛がさらさらと揺れて、そんな姿までが可愛いなんて思うのは明らかに惚れた弱みだ。

「なによー!こんなに可愛い私に酷い!」

可愛いなんてこれっぽっちも思ってないくせに、わざと虚勢をはって、自分は一人でも大丈夫だなんてボロボロの心を持ったまま他人の心配をしていたこいつの本質に気づけなければ、今こいつはどうなってたんだろ。

「って、なんか言いなさいよーっ」

俺が黙って見てたら、ほらもう不安になってる。
不安になると眉を下げるのが癖なんてもちろん知ってる。
だから頭を撫でれば剥くれながらも、安心した表情を浮かべた。
一度親に捨てられたこいつは自分は役立たずだなんてずっと心に傷を付けたまま誰にも言わないつもりだろうか。
俺も、こいつのお兄さんに聞いたから初めてしったのだ多分何かないと俺にも話すつもりは無いのかもしれない。


「ほら、初日の出見たんだから、一回家帰るぞ。
後でお兄さんに挨拶もいくんだろ?」
「うん!お兄ちゃんがちゃんと新年迎えてるかな心配…。
なんか急に一生懸命頑張ってて怖いんだ」

最初はうざいやつなんて思ってたけど、ちょっとずつ話してけば考えもしっかりしてたし、何よりほっとけなくなったのは誤算だった。安心しきった可愛い表情を浮かべるこいつの手を握りながらお兄さんの心配をする顔を見る。
お兄さんが不安定なのは多分俺のせいだと思うがまだ言えない。
新年を迎えたこの日。俺はこいつにプロポーズをしようとしてる。
それを一足先にこいつのお兄さんに言ったから、護るものがわからなくなったお兄さんがちょっとだけ不安定になってしまった。

けれど、『ありがとうございます。君が妹と結婚してくれるならもう何も心配はないんです。ただ一つお願いがあります。妹も僕も少し壊れてしまってるので、どうか必ず愛してあげてください。』

なんて素直に微笑んでくれた姿を見ると、お兄さんからこいつを護るという重荷を取れたのかもしれない。
重荷が取れたお兄さんがどう生きるかはお兄さんの問題だから、俺はこいつとたまに見守ればいい。

「お兄さんなら多分大丈夫だろ。たまには会わないとすねそうだけど…。
それより帰ったら凄い大事な話が有るから、ちゃんときいてほしい」

「えー?改まってなに?凄い気になる!」

俺がやることは、お兄さんの代わりにこいつを護ること。
多分プロポーズに答えてくれる自信はある。
後はかっこよく決められるか。
どうかタイミングを邪魔されませんように。
そう新年のお祈りをしながら二人手を繋ぎ帰宅するのだった。

12/31/2023, 10:26:03 AM

『良いお年を』

今年は色々とありましたね。
まずはフランスから日本に帰って来て、知り合いがいない中お店を開いてここには居場所がないかもしれないと孤独を味わいました。
人形作家として名前が売れてるのは海外の一部、日本ではまだまだ名前どころか人形という存在が恐れられてあまり見て貰えなくて、必死にあがいて結局ただの空回り。
別の趣味の方が職業としてなりたってる現状に苛立ちと、悲しさでどうにかなりそうなのに話せる相手が誰もいなかったんです。
話したかった。誰かに少しだけ寄りかかりたかった。
だから友人を増やそうとあちこち顔を出してみたら、以外にも優しくて、ちゃんと俺を心配してくれる人がいました。
しかも人形も怖がらなくて温かく受け入れてくれて、ガラスのケースの中から見てるような世界が一瞬で鮮やかになって、俺の世界の見る目が変わったんです。
今まで俺の作品が残れば俺自身はどうでもよくて、だからこそ魂を移すように人形を狂ったように作ってました。
俺をみて欲しい。
俺を色んな意味で愛して欲しい。
俺自身にそういう自信はないから。代わりに俺の人形をと。
けれど、色んな人にであって名前を呼んでくれて少しはこの世界に俺がいてもいいんじゃないかって思えたから、俺と話してくれる人たちの為に自分を大切にしようと思えたんです。

過去が邪魔をして誰かを愛すなんて出来ないと思ってたけど俺も出会えた人をしっかりと『大切な人』だと思えたんですよ?
きっとこんな思いを誰もみないかもしれないけれど、俺は友達の皆の笑顔を来年もみたいんです。
また来年も話せますように。
来年皆さんがいい笑顔でいられますように
俺に笑顔を分けてくれますように

そう祈りながら誰にも届けるつもりのない手紙を書いとこうと思います。

今年もありがとうございました。
良いお年を。

Next