もも

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『新年』
暗闇から徐々に光が上る。
眩しいのだろうか、薄く目を細めながら初日の出を見るあいつの顔を見て、俺は思わず吹き出した。

「お前今凄い顔してる。」

俺の言葉にあいつはすぐに剥くれっ面を見せて、ぽかぽかと俺の胸を叩いて抗議してくる。出会ったときよりは遥かに短くなった水色の髪の毛がさらさらと揺れて、そんな姿までが可愛いなんて思うのは明らかに惚れた弱みだ。

「なによー!こんなに可愛い私に酷い!」

可愛いなんてこれっぽっちも思ってないくせに、わざと虚勢をはって、自分は一人でも大丈夫だなんてボロボロの心を持ったまま他人の心配をしていたこいつの本質に気づけなければ、今こいつはどうなってたんだろ。

「って、なんか言いなさいよーっ」

俺が黙って見てたら、ほらもう不安になってる。
不安になると眉を下げるのが癖なんてもちろん知ってる。
だから頭を撫でれば剥くれながらも、安心した表情を浮かべた。
一度親に捨てられたこいつは自分は役立たずだなんてずっと心に傷を付けたまま誰にも言わないつもりだろうか。
俺も、こいつのお兄さんに聞いたから初めてしったのだ多分何かないと俺にも話すつもりは無いのかもしれない。


「ほら、初日の出見たんだから、一回家帰るぞ。
後でお兄さんに挨拶もいくんだろ?」
「うん!お兄ちゃんがちゃんと新年迎えてるかな心配…。
なんか急に一生懸命頑張ってて怖いんだ」

最初はうざいやつなんて思ってたけど、ちょっとずつ話してけば考えもしっかりしてたし、何よりほっとけなくなったのは誤算だった。安心しきった可愛い表情を浮かべるこいつの手を握りながらお兄さんの心配をする顔を見る。
お兄さんが不安定なのは多分俺のせいだと思うがまだ言えない。
新年を迎えたこの日。俺はこいつにプロポーズをしようとしてる。
それを一足先にこいつのお兄さんに言ったから、護るものがわからなくなったお兄さんがちょっとだけ不安定になってしまった。

けれど、『ありがとうございます。君が妹と結婚してくれるならもう何も心配はないんです。ただ一つお願いがあります。妹も僕も少し壊れてしまってるので、どうか必ず愛してあげてください。』

なんて素直に微笑んでくれた姿を見ると、お兄さんからこいつを護るという重荷を取れたのかもしれない。
重荷が取れたお兄さんがどう生きるかはお兄さんの問題だから、俺はこいつとたまに見守ればいい。

「お兄さんなら多分大丈夫だろ。たまには会わないとすねそうだけど…。
それより帰ったら凄い大事な話が有るから、ちゃんときいてほしい」

「えー?改まってなに?凄い気になる!」

俺がやることは、お兄さんの代わりにこいつを護ること。
多分プロポーズに答えてくれる自信はある。
後はかっこよく決められるか。
どうかタイミングを邪魔されませんように。
そう新年のお祈りをしながら二人手を繋ぎ帰宅するのだった。

1/1/2024, 11:10:55 AM