『1年間を振り返る』
はぁ?1年を振り返えれだぁ?
なんちゅう面倒臭い事を…。どうしてもっていうんだろ?
分かったよ。ちゃんと話してやるから聞いとけ。
俺はある魔女に商品を届ける商人をしてんだけど、今年はまぁ、俺の使いが荒かった。
やれ美味しい食べ物を持って来いだの、綺麗な石がみたいだの、挙げ句の果てにはあっと驚くような酒が欲しいなんて我が儘し放題。
まぁ俺もあっちの世界、こっちの世界、あちこち旅に出れたからいいんだが、なんだ。世界ってのは色々あってその世界によって違うから俺が俺でいるってのも辛いときもあんだな。
一番辛かったのは猫が悪魔とされてる世界だ。
俺は猫の耳が付いているから、いつ頭の帽子をとって下さいなんて言われるかヒヤヒヤしたぜ。
何でもその世界で猫を見かけたら皮を剥いて、楽器の一部にしちまうらしい。
そんなの嫌だから、そうそうに魔女さんのご希望のなんかの油?を手に入れて持っていったら、『あら、ありがとう。』だけですまされちまった。
こっちとらかなり命懸けな気がすんのにそんなんだぜ?
いやになる。
逆にここは離れたくないなぁって思った世界は、何でもまぁるい世界だったな。
普段四角いものまで丸くて、一日中コロコロしてても飽きなかった。でも、魔女さんの為に希望品を持ってかなきゃ魔女さんが何をされるか分からないから、しかたなしに魔女さんに荷物を届けたんだ。こんときゃあちゃんと『ありがとう。大好きよ。』なんて俺にマタタビをくれたから…まぁ帰って来て良かったなんて思ったな。
何で文句言いながら商人を続けるかって?
そりゃ魔女さんが俺を助けてくれたからだよ。
死にかけの猫に命を与えて、いろんな世界を見せてくれた。
本人は外に出れねぇから俺がちゃんと世界をみて話を聞かせてやりゃいつも楽しそうに笑うんだ。
だからかないつもいつも、無茶難題を出されたって答えたくなっちまう。
多分来年もあちこち動き回ると思うから、暇なら来年の今頃1年を振り返ってやるよ。
そんときまでまた魔女さんの為あっちこっち世界見てきてやっから楽しみにしてな。
『みかん』
「何で俺の家にいるの?りっぱな我が家あるじゃん」
六畳一間のワンルームのメンバーの家、俺に向かって物語担当のメンバーが不満げに炬燵の中で足を蹴ってくる。
大学に入って自分達が何か表現出来るんじゃないかって集めたグループは、いつの間にか遊びから本気に変わってた。
俺の目が良かったのか、ただ単に皆が凄かったのか、冗談半分で『癒しを届けよーぜ』なんて俺が言った言葉を皆が動画、音楽、イラスト、物語で形にしてくれて、いっつもまず俺が癒されるのはどんな事があっても絶対内緒。
そんなあいつらの為に俺が出来ることなんてたかがしれてて、ただ人の輪を作ってこいつらは凄いんだよーって伝える事ぐらいしかできない。
「いやー…。炬燵置けないからお前んち本当好きなんだわ。
他のメンバーも炬燵置いてないし、みかんもないしー」
「いや、せまいじゃん。二人で炬燵なんてしてたら結構いっぱいいっぱいだぞ。
みかんて…そんなの実家から送られてくるもんだし俺は珍しくも無いんだけど。
てか、減らしてくれるからありがたい。」
もうすぐ新しい年がくる。ただ広い部屋で一人詰まんない時間を過ごすくらいなら、狭い部屋こいつと炬燵を囲んで過ごすこの時間の方が遥かに楽しい。
「じゃああいつらも呼ぼー!ほら、みかん凄いへる!」
「いや、それは狭いだろ…!お前んちと俺んちは違うの」
「ちぇー」
みかんの消費が困ってるみたいだから、残りのメンバーも呼ぼうとしたら怒られた。
しょうがない、今日は二人で明日また俺んちで鍋パーティーでもしよう。
グループに鍋パしよ!物語担当がみかんに困ってるらしい!
と打ち込みながら、まだまだこいつらと楽しい時間が過ごせるのが嬉しい。
大学を卒業したら俺は家を継ぐために動かなきゃならない。
もうばか騒ぎも出来ないだろうし、自由もなくなるだろう
だから、今自由にうごける内にこいつらは凄いんだ!ってできるだけ伝えたいんだ
『いくー』
『参加。』
『みかん!やったー』
なんて残りのメンバーの連絡を口許を緩め見ながら俺は炬燵の上にあるみかんを一足先に頂くのだった。
『冬休み』
僕の住んでるアパートの大家さんは可愛い物好きで、イベント事が好きな人だ。
たまに羊のぬいぐるみを買ってきてる姿を見るし、季節事に暇な住民を巻き込んで何かをやっている。
今年の夏は竹が手に入ったからと皆で流しそうめんをした。
ぶっきらぼうだけど、とってもいい人なのに皆怖いって大家さんを遠ざける。
だけど僕は知ってるんだ。
昨日から雪も降っていてとても寒い冬休みのある日。
真っ白な世界の中、大柄な大家さんが何かをしてるのが部屋から見えた。雪掻きかな?なんて思ってたんだけとスコップは持ってないし、雪が積もる地面にしゃがみこんでるから違うってわかってしばらく見ていたら、雪だまを転がしているみたいだった。
無表情で小さな雪だまをだんだん大きくしていく大家さんが、雪だるまを作ってるんだってわかればその光景が凄い可愛くて、可笑しくてついつい笑ってしまう。
だから、思わず温かい格好をして僕も外に出てた。
「僕も一緒に作らせて下さい!」
あんまり話したことのない大家さんだけど、僕が声を掛ければ驚いた様子を見せながら
「いいよ。」
なんて笑ってくれたから、やっぱり大家さんはいい人だと思う。
小学生ぶりくらいに作った雪だるまは、二人で作ったからとても大きくて、可愛い物になった。
「可愛いね。付き合ってくれてありがとう」
やっぱり無表情なんだけど、雪だるまを眺める大家さんはどこか誇らしげで嬉しそうに見えて僕も嬉しい。
これから怖がらずに大家さんに話しかけていいのかもしれない。
今年の僕の冬休みは意外な人の意外な一面が知れた嬉しい冬休みになった。